拡大生産者責任と企業の社会的責任

-容器包装リサイクル制度を題材として-


国際環境経済研究所主席研究員

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 OECDによって提唱され、各国の廃棄物政策に影響を与えている政策概念に拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility :EPR)の考え方がある。わが国では容器包装リサイクル法が、EPRの考え方を初めて取り入れた法律と言われている。また、日本容器包装リサイクル協会は、OECDが定義するところの生産者責任機構(Producer Responsibility Organization:PRO)に相当する。
 本稿では、EPRの考え方の経済学的な発想の側面に着目し、容器包装リサイクル制度を紹介、検討していく。同制度を知る方には当たり前のことであり、また、理屈に偏った非実際的な検討と思われる部分もあるかもしれないが、一見非実際的な装いの理論や概念が現実の制度や実践に思いのほか大きな影響を与えることも広く見られることであり、本検討もあながち無益ではないと思う。検討を踏まえて「環境と経済の両立」のために必要な条件について考えたい。

拡大生産者責任

 OECDはEPRを「製品に対する製造業者の物理的および(もしくは)財政的責任が、製品ライフサイクルの使用以降の段階まで拡大される環境政策アプローチ」と定義している。そしてEPR政策には2つの関連する特徴があるとする注1)
 一つ目の特徴は「地方自治体から上流の生産者に(物理的および(または)財政的に、全体的にまたは部分的に)責任を転嫁すること」である。各EPR政策において市町村から生産者へ責任が移行されるが、責任を履行する方法、移行される責任の範囲は様々である。容器包装リサイクル法では、従来市町村が担っていた責任の一部を生産者に移し、生産者が再商品化の財政的責任を負うこととした。消費者が分別排出し、市町村が分別収集し、事業者がリサイクルするという役割分担が容器包装リサイクル法の特徴とされている。なお、容器包装リサイクル法では容器包装を利用、又は容器を製造する事業者(輸入する事業者を含む)が生産者となる。

容器包装リサイクル制度の役割分担のイメージ

容器包装リサイクル制度の役割分担のイメージ

 二つ目の特徴は「製品の設計において環境に対する配慮を組込む誘因を生産者に与えること」である。EPR政策は生産者に環境配慮設計(Design for Environment:DfE)の誘因を与えることを目的としている。容器包装の環境配慮設計では、生産、流通、消費、排出、収集、リサイクル等の各段階及び全体での環境負荷の削減を図る必要がある。消費者に選択肢を提供し、消費者の選好に影響する情報を発信することも重要である。これらを最も効率的に実行できる生産者の能力と知識を活用することが必要となる。
 OECDはEPRを導入する理由(何故、拡大生産者責任なのか)について「適切なシグナルを生産者に送ることによって、製品の最終処分から生じる環境の外部性の相当部分を内部化できる」からとする。また、「(EPRの費用効率は)外部性を緩和させるためにより強く適切な動機を生み出せるかどうかにかかっている」とする。下流の情報が上流の生産者に適切に伝わることによって、効率的な資源配分をもたらす市場の力を利用できる、生産者が能力を発揮し環境負荷低減を最も効率的に実現できるということであろう。

容器包装リサイクル制度の成果

 容器包装リサイクル法の施行によって、分別収集・リサイクルが進展し、社会に定着した。一般廃棄物最終処分量は減少し、1995年に8.5年だった最終処分場の残余年数は2015年には20.4年に延びている。当初、逆有償でスタートしたペットボトルのリサイクルは、単一素材の優位性や着色ボトルを自主規制する等の業界の取組により2006年を境に有価物に転じている。生産者による容器包装の軽量化、薄肉化等の取り組み、詰め替え容器の普及、レジ袋辞退率の上昇など消費者の選好の変化を伴う動きも進んでいる注2)
 こうした成果は適切なシグナルが生産者に送られた結果と言えるだろうか。容器包装リサイクル制度では、廃棄後のリサイクル費用に関する財政的責任を生産者(容器包装リサイクル制度では特定事業者という)に割り当てた。具体的には再商品化実施委託料となる。 以下、再商品化実施委託料を生産者に送られる“シグナル”とみなして分析していく。紙幅の関係もあり、適宜詳細は省いた説明となるが、ポイントはご理解いただけるよう留意したい注3)

実施委託料を構成する諸変数

 再商品化実施委託料は「再商品化義務量(個々の特定事業者の排出見込量×算定係数)×再商品化実施委託単価」で算定される。

再商品化実施委託料の算定式

 自らの排出量(上の式では排出見込量)を減らすことは、経済的メリットとなるので、個々の特定事業者には容器包装の量を減らそうとする動機が働くであろう。
 しかし、自らの排出量だけでは支払額は決まらない。他の2つの変数「算定係数」と「再商品化実施委託単価」次第で支払額は左右される。

(算定係数)

 算定係数は、再商品化義務総量÷容器包装の総排出量で算出される比率(0~1の間の数値)である。

算定係数のイメージ

算定係数のイメージ

 再商品化義務総量は、分別集計計画量(市町村ごとの分別収集見込量を積み上げたもの)と再商品化見込量(全国のリサイクル業者の能力総計を国が推計)のうち、いずれか小さい量となる。総排出量は国が抽出調査に基づき算定する。リサイクルの対象となる4素材のうち3素材で市町村の分別収集計画量の方が再商品化見込量より小さい注4)ので、消費者の分別排出量が増え、市町村の回収量が増えれば、個々の特定事業者の支払額は増えることになる。また、総排出量の減少も(算定係数の算出の分母が小さくなるので)個々の特定事業者の支払額を増やすことになる。
 個々の特定事業者にとっては自らの排出量を減らすことは有利になる。他方、業界全体として、総排出量を減らすメカニズムはないということになる。しかし、各業界は自主的にリデュースに取り組んでいる。また、再商品化義務量の増加につながる消費者に対する分別排出の普及広報にも取り組んでいる。ペットボトルリサイクルにおいては、再商品化見込量(全国のリサイクル業者の能力総計を国が推計)が分別収集計画量(市町村ごとの分別収集見込量を積み上げたもの)を下回っていた時期には業界はリサイクル業者の能力増強にも協力した。

(再商品化実施委託単価)

 再商品化実施委託単価は以下の算定式で算出される。全てを見る必要はなく、ここでは価格の要素(②)だけではなく、数量の要素(①、⑤)もあることをご理解いただきたい。

再商品化実施委託単価の算定式

協会(日本容器包装リサイクル協会)が実施した市町村引き渡し量の調査の結果等を勘案し算出。
素材ごとに、トン当たりの再商品化のコストを、近年の落札価格をもとに算出
租税公課、コンピュータ処理量、家賃、人件費、事業部の運営に必要な経費などで畿央実績等を勘案したうえ算出。
上記①×②+③により算出。
次年度の再商品化義務総量、前年度の特定事業者等からの申込み量等を勘案し算出。

 価格の要素(②)は、市町村が回収した容器包装ごみを購入しようとするリサイクラーが入札の場で競争した結果である落札価格である。落札価格が実施委託単価となるわけではなく、数量の要素(①、⑤)が加味されるが、ここでは、市場取引の結果に最も近い落札価格について見ていく。
 さて、落札価格は「リサイクルの処理コスト(A)-リサイクル製品の販売価格(B)」となるはずである。A>Bであれば逆有償物となり、A<Bであれば有償物となる。入札という市場取引を通じて、リサイクルの処理コストの低減とリサイクル製品の販売価格の上昇が実現することが理想的である。実際、平成18年度以降、有償物となっているペットボトルの場合であるが、分別のレベルの高い市町村のペットボトルは高値で落札されているという。分別の質が高ければ、より低い処理コストでより高い質の製品を作ることができるからであろう。逆有償においても、平成20年度から容器包装ごみの分別のレベルを評価して市町村に資金を拠出する制度が導入され、市町村の分別レベル向上を促そうとしている。
 しかし、支払者である特定事業者は、この市場取引の直接の当事者ではない。排出、収集にかかわる主体が全国に多数存在する容器包装ごみの回収、リサイクルにおいては、個々の事業者がその事業を行うことは現実的ではなく、経済的でもないため、PRO(容リ制度の場合、日本容器包装リサイクル協会)が設置されている。特定事業者は支払者であるが、事後的に支払額を決定する諸々の数量や価格を知ることはできても、取引を通じて有機的な情報を得るわけではない。

 総じて、実施委託料金の支払いというシグナルは個々の事業者が排出量を減らす重要な契機となっているが、効率的な資源配分をもたらす市場の力を利用する、生産者の能力と知識を活用し環境負荷低減を効率的に実現するための十分なシグナルとは言えない。
 しかし、実際には生産者は自主的取組を進め成果に貢献している。こうした生産者の自主的取組は、財政的責任を契機としているが、それだけではなく、企業の社会的責任を踏まえたものと理解できる。

自発的アプローチ

 産業廃棄物においても1990年代、最終処分場の逼迫が問題となっていた。日本経済団体連合会は1997年、環境自主行動計画(廃棄部対策編。2007年、循環型社会形成編に改編)を策定し、産業廃棄物最終処分量の削減目標および業種別個別目標を設定した。第三次目標年となる2015年度、産業界全体の産業廃棄物最終処分量は、基準年である2000年度実績(約1829万トン)から約73.4%減(1990年度実績から約91.4%減)の約487万トンとなり、目標値を超える削減を達成している 。産業廃棄物は従来から企業が自ら処理しなければならず、市町村が処理してきた一般廃棄物に比べて市場の効率化が進んでいるとも言われるが、それにしても着実な成果である。
 他の環境分野でも、「プレッジ&レビュー」の仕組みによる経団連低炭素社会実行計画や、VOC(揮発性有機化合物)の排出抑制に関する業界団体等の自主行動計画等、多くの自主的取り組みが結果を出している。
 企業の自主的取り組みと成果は、生産者の取り組みによる効率的な資源配分を期待するEPRの考え方とも共通するところがある。OECDガイドラインマニュアルでも、EPRを実施するアプローチの類型の一つとして強制的アプローチ(Mandatory approaches)とともに自発的アプローチ(Voluntary approaches)をあげているところである。

企業の社会的責任と情報

 「環境と経済の両立」にとって、企業の社会的責任に基づく自主的取り組みの役割は極めて大きい。生産者(企業)は消費者に選択肢を提供し、消費者の選好に影響を与えることができる組織的能力を持っている。現代において顧客志向を標榜しない企業は少なく、社会志向を否定する企業も少ない。循環型社会形成においても企業の機能発揮に期待することは実践的な考え方であると思われる。
 もう一つ重要なことは、情報の開示や有機的な情報交換を意識的に行うことである。企業の自主的取り組みは経済効率性を勘案して実施される(それゆえに実現可能性、持続可能性のある取り組みとなる)ものだが、市場の力を利用して効率的な資源配分をもたらすためには“情報”が重要となる。
 一般の財の市場では、貨幣と交換した財の品質が十分でなければ、クレームも発生するであろうし、次の購入も生じない。取引を通じて価格、品質、数量等の情報が行き渡り、よりよい品質の、より安い価格の財が選択されることになる。しかし、逆有償物においては、貨幣を支払った側にモノは残らず、処理内容の情報は手に入らない注5)。処理内容に関心が高くても、処理の連鎖が長くなれば情報入手は難しくなる。そのため、他の廃棄物処理の制度と同様、容器包装リサイクル制度においても、不適正な処理が生じないように規制的な措置を講じ、情報がフィードバックされるよう管理が行われている。一方、効率性を追求するための情報交換の機能を、逆有償の廃棄物の取引の中に組み込むことは簡単ではないだろう。
 廃棄物処理では情報の非対称性が生じやすく、情報の非対称性は非効率や不公正を招く可能性が高い。情報交換を形式的ではなく有機的に機能させる戦略的な取り組みも「環境と経済の両立」のために必要な条件と考えられる。

注1)
OECD、拡大生産者責任政府向けガイダンスマニュアル、2001、クリーン・ジャパン・センターによる邦訳、http://www.cjc.or.jp/file/CJC-0113.pdf(2頁、3頁、11頁、25頁、52頁)。以降のOECDに関する言及部分も同資料を参照した。
注2)
容器包装リサイクル法の対象であるガラスびん、ペットボトル、紙製容器包装、プラスチック容器包装、スチール缶、アルミ缶、飲料用紙容器、段ボールの8素材 の容器包装の3Rに係わる8団体は、容器包装の3R推進のための自主行動計画を策定し、毎年実施状況をフォローアップしている。第一次自主行動計画(2006年度~2010年度)ではほとんどの容器で目標を達成し、第二次自主行動計画(2011年度~2015年度)でも、容器包装の軽量化・薄肉化、適正包装の推進、詰め替え容器の開発等により容器包装の使用合理化を進めている 。
注3)
①特定事業者が支払う委託料金は、リサイクル費用として再商品化事業者に支払われる再商品化実施委託料と、市町村等に支払われる拠出委託料の2種類から成る。当初は実施委託料のみだったが、2006年の法改正で拠出委託料が加わった。
②排出見込量については、http://www.jcpra.or.jp/specified/application/tabid/114/index.php 等参照。
③算定係数については、http://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/manufacture/entrust/entrust02/pdf/h28/specify_hponly_2.pdf 等参照。
④再商品化義務総量等については、http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/haiki_recycle/yoki_houso/pdf/017_02_00.pdf 等参照。
⑤再商品化実施委託単価については、http://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/manufacture/entrust/entrust02/pdf/h28/specify08_2.pdf 等参照。
注4)
ガラスびん、ペットボトル、紙製容器包装、プラスチック製容器包装の4素材。ガラスびんを除く3素材で市町村の分別収集計画量の方が再商品化見込量より小さい(2008年度以降)。
注5)
参考:細田衛士、グッズとバッズの経済学、東洋経済新報社