低炭素社会の実現に向けた水素エネルギーについて(3)

-熱需要におけるCO2フリー水素による化石燃料代替-


東京電力ホールディングス(株)技術・環境戦略ユニット技術統括室 プロデューサー

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 また、脱炭素方策として、LNGを水素で置換した場合減少するCO2の金額を試算注3)すると、約18,000円/tCO2になる。脱炭素方策としても、もう一段のコストダウンが求められるところである。
 エネルギー効率を考えた場合、電気は貯えずにそのまま電気として利用することが合理的であることは前述のとおりである。電力貯蔵技術として評価する場合、蓄電池や揚水発電など他の技術と相対的な評価を行い、充放電効率をはじめ水素で貯蔵するメリットを見出す必要がある。
 燃料として水素を活用した時の経済性は、水素製造装置の設備稼働率と水素を製造する際に消費する電力の単価に依存する。CO2フリー水素WGの報告書では設備費が5.2万円/kW、電力単価が13.6円/kWhの場合、水素の原価は90円/Nm3(設備稼働率50%)~170円/Nm3(設備稼働率10%)となる(図14)。


図14

図14 設備利用率毎の水素単価
出典:CO2フリー水素WG報告書

 水素エネルギーを製造する前提は余剰電力対策であることから、余剰電力が発生しているときの市場価格は13.6円/kWhからはるかに安価な価格で取引されるものと思われる。仮に13.6円/kWhの半額で調達できた場合、40円/Nm3台まで下がる可能性がある。
 これまで、電気は再生可能エネルギー、熱需要は化石燃料の構図となっており、燃料での再生可能エネルギー利用の施策がほぼなかった。冷暖房・給湯など熱需要は、電気と燃料のいずれのエネルギーから賄うことができる、トレードオフの関係にあることから経済合理性で考えた場合、消費者はFITの賦課金によって電気代が大幅に上昇すると電力消費を抑制し、FITの賦課金がない燃料に代替していくことになる。また、電力需要であっても消費者は燃料を購入し自家発電を行えばFITの賦課金を払う必要がない。
 つまり、電気と燃料では環境政策上イコールフットとなっていないため、FITの賦課金価格の上昇は化石燃料消費を促すおそれがあるのである。
 これを解決するため、また長期的には自立的な価格を目指すためにも、初期の需要ではCO2フリー水素に対して一定のインセンティブを検討する必要がある。電力でも過去にPVや風力発電で同様の議論がなされてきた。従来の発電方式に比べ再生可能エネルギーによる発電単価は数倍のコストがかかるとされ、その差額をFITにて埋めることで市場拡大を図り、その量産効果で導入コスト削減を目指すとしたのである。このFITを熱需要で燃料に適用することが可能ではないかと考える。
 すなわち、化石燃料に賦課金を課し、その賦課金からCO2フリー水素のコストに補てんすることでCO2フリー水素の市場導入を円滑かつ加速させるということである。電力の場合も当初は発電原価の約10円/kWhに対し、PVの場合、約4倍の42円/kWhで固定買取を行った。買取価格を将来目論む水素の価格の4倍と仮に設定した場合、160円/Nm3となる。現在水素の販売価格は100~120円/Nm3と言われているので経済的に成り立つ水準と言えるだろう。

【8】液体エネルギーとしての可能性

 水電解+水素貯蔵のシステムは、時間経過によるロスが少なく、水素貯蔵装置等の容量を大型化することで大規模・長期間の蓄エネへの適用可能性が高いと考えている。ただし、水素は単位体積当たりのエネルギー密度が天然ガスの1/3程度と低いため、高い密度を維持した輸送・貯蔵技術の開発も必要である。オフラインによる輸送・貯蔵方法として、将来の大量の水素需要を前提に、液体エネルギーとしての液体水素や有機ハイドライド方式注4)が検討されている(図15)。

図15
図15 エネルギーキャリアの特徴
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 その他の方式としては、液体水素や有機ハイドライド方式と比べて水素密度が高いアンモニア利用が考えられる。アンモニアは、窒素と水素で構成される分子であり難燃性であるものの可燃ガスであることから燃料としてそのまま活用できる。常温で簡単に液化するため、輸送・貯蔵には、タンクやトラックなど既存のインフラを活用できる特徴を持っている。一方、強アルカリ性で刺激臭が強く毒性を持つため、専門家による取り扱いや管理が必要である。なお、現在のアンモニア製造方法は、100年を超える歴史を持ち、天然ガス等の化石燃料を原料としたハーバーボッシュ法(HB法)が主流であるが、高温・高圧合成であるため、手軽に製造することができず、より簡便な製造方法が望まれている。
 すでに福島の産業技術総合研究所では、アンモニア100%専焼によるガスタービン発電の実証実験を行っている注5)。将来は、アンモニアによるCO2フリーの輸送用の液体燃料や発電が実用化される可能性もある。

注3)
経済産業省エネルギー長期需給見通し(2015)の諸元データ等を元に試算
注4)
水素をトルエンと反応させてメチルシクロヘキサンとして貯蔵輸送する方式
注5)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(2015) 公表
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150917/pr20150917.html

次回:「製造から消費までCO2フリーの水素エネルギー」へ続く

本レポートは、筆者の個人的見解であり、所属組織の意見を代表するものではありません。