再エネの現場を歩く

-再エネ全量固定価格買取制度(FIT)4年半を総括する-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 3月25日(土)9:30からBSフジで放送される「再エネの実像〜エネルギー自給率とパリ協定が問う日本の未来」注1) という番組のナビゲーターをさせていただくこととなり、2月から3月にかけて国内の再生可能エネルギー事業の現場をいくつか訪ね歩いた。数十年前から継続している事業もあれば、FIT導入を機に立ち上がった事業もあるが、いずれにしてもFIT導入後の約4年半でわが国の再生可能エネルギーの風景が大きく変わったことは間違いない。FIT導入から4年半が経過したわが国の再生可能エネルギーを巡る現状と課題を整理したい。
 

<総論>

 わが国の再エネは順調に増加している。設備容量でいえばFIT導入後平成28年9月時点で、新たに運転を開始した設備は約3,223万kWとなり、制度開始前の累積設備容量の約1.6倍になっている。それまでの普及政策での増加率と比べれば、FITの「効果」は一目瞭然である。

 では電源構成における再エネの存在感はどうか。発電電力量全体に占める再エネ(水力除く)の割合は、2013年度2.6%、2014年度3.2%、2015年度4.4%と順調に増加はしているが、発電量における位置づけはまだ低い。FIT導入後稼働開始した設備の9割は、事業化が容易である太陽光発電であるが、太陽光は最も稼働率が低い電源の一つ(政府の発電コスト検証ワーキンググループ注2) が各電源のコスト試算の前提とした稼働率は、メガ14%、住宅用12%)ということが大きな要因として挙げられよう。風力や地熱など、太陽光より開発に時間がかかるものの稼働率が(太陽光と比較すれば)相対的に高い再エネの導入量が増えてこなければ、発電量における再エネの存在感が飛躍的に伸びることは期待しづらい。
 ではこの電気を得るために、国民はどれだけのコストを支払っているのであろうか。それは「再エネ普及政策を問う」のコーナーでも繰り返ししてきた通り、莫大な金額に膨れあがっている。2016年度の賦課金総額は約1.8兆円、標準家庭の負担は675円/月(8100円/年)となり、制度を導入した2012年の10倍となっている。これが2017年度にはさらに約2割(2.25→2.64円/kWh)上がることが、3月14日に発表された。制度導入時に国民に示されていた「制度開始後10年目で標準家庭の負担額が約150~200円/月程度」という見通しは、制度導入から2年半となる2014年度には軽々と超えてしまっていたが、5年目で約12倍に拡大することとなる。

 再エネの設備容量が着実に増えていることをもって、FITの成果と強調する向きもある。しかし国民負担の膨張に加え、現場を巡ることでさらに様々な課題も見えてきた。現状を踏まえ、今年4月から施行される改正FIT法でどこまで問題の改善が可能なのかを考える。

<最も大きな課題は太陽光バブル>

 山梨県北杜市。全国でも有数の日照条件に恵まれるため注3) 、FIT導入を機に多くの太陽光発電事業者がここを目指した。地元の方に聞けば、今でも「太陽光発電のオーナーになりませんか」、「土地を貸しませんか」という事業者の訪問が続いているという。しかし、八ヶ岳のふもとに広がる風光明媚な別荘地で、太陽光発電という人工物が増え過ぎたことで多くの軋轢も生じている。5年前にメガソーラーの建設計画が持ち上がって森が切り拓かれたものの、その後そのまま放置されているという場所もあった。

(筆者撮影)

注1)
BSフジ http://www.bsfuji.tv/top/index/top.htm
注2)
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_01.pdf
注3)
北杜市HPより
「日照時間は年間2,081時間で全国平均(1,934時間)に比べて長くなっています。降水量は1,138mm.と全国平均(1,714mm.)に比べて少なくなっており、日照条件に恵まれた地域であるといえます。全天日射量(平年値)では、北杜市のある山梨県北西部は関東甲信越地域の中でももっとも日射量が多い地域となっています。」
なお、全国の日射量データについては、NEDOの日射量データベースなどでも閲覧可能。
http://app0.infoc.nedo.go.jp/metpv/monsola.html

 2012年に導入されたFITの大きな欠陥は、地域との共生が全く考慮されていなかったことだ。特に太陽光発電は風力発電等と異なり環境アセスメントが要件とされず、設備認定は事業者と経済産業省(経済産業局)だけで手続きが進んでしまったため、自治体としては設備ができて初めて事業の存在を認識するという事態も頻発した。電気事業法で太陽光発電設備に求められる風荷重などを考慮しない施工によって、地域でトラブルとなった事例も少なくない。

強風による事故事例(資源エネルギー庁資料より)

 そのため本年4月からは認定制度が大きく変更される。接続について電力事業者の同意がとれていることが要件となると同時に、事業計画策定ガイドラインにより地域や関係省庁に適切に情報提供が行われる仕組みが採られた。具体的な変化としては例えば、再エネ事業はこれまでの「設備認定」から「事業計画認定」となる。メンテナンスや設備の撤去・処分まで含めた事業計画全体を確認することとされ、事業計画策定に関するガイドラインでは自治体との事前協議も求められる。これは既設の設備にも遡って適用されることとなっており、事業者が最後までその設備に責任をもってくれるのかという地域の方たちの不安を軽減することを目指している。
 これはFITによって急増した再エネ設備と地域住民とのトラブルを軽減するという観点から大きな進歩ではあるが、あくまでガイドラインであること、また、莫大な数に上る再エネ事業計画の認定について自治体がどこまで人的資源を配分できるのかという課題もある。平成24年7月から28年11月までの認定件数は約204万件である。
 さらに言えば、設備の撤去・処分まで含めた事業計画全体を確認するとされるが、撤去・処分に必要なコストを事業者が確保しているかどうか確認する制度は導入されていない。原子力発電所については、廃炉に必要なコストを運転期間中に積み立てることが義務付けられており、早期廃止となった場合に一度に多額の特別損失が発生する仕組みであることの改正が図られたが、そもそも再エネについては撤去・処分に要する費用も賦課金に算入しているもののその費用がプールされているかどうかの監視は行われていないのである。再エネ事業者の数の多さなどから、コスト確保を確認する制度の運用が難しいようであれば、廃棄を義務付け、これに違反した場合罰金や刑事罰を科すことも検討に値するだろう。この点については、今後さらなる制度改正が必要になる。

<地熱発電拡大のカギは事業リスク低減>

 太陽光や風力とは異なり、地熱発電は高くて安定的な稼働率が特徴である。前出の発電コスト検証ワーキンググループでは83%と設定しており、この稼働率は再エネ電源の中で専焼バイオマスに次ぐ高さである。また、発電のみならず熱を地域の施設で有効利用して、トマトなどの野菜を栽培したり、牛乳の低温殺菌をするなど様々なコベネフィットを得ているケースもある。
 世界第3位の地熱資源を有するわが国としては、積極的に導入を進めたいベースロード電源である。さらに、地熱発電のタービンは日本メーカー((株)東芝、富士電機(株)、三菱日立パワーシステムズ(株))の世界シェアが約7割と圧倒的な強みを有している。しかし、わが国における地熱発電の現在の設備容量は約52万kW、発電電力量に占める割合はわずか0.2%に過ぎない。
 その第一の理由はまず、事業リスクの高さにある。地熱発電に必要な蒸気を取り出すには、雨水が地下に浸透していき、マグマだまりで温められた「地熱貯留層」まで井戸を掘ることが必要になるが、この地熱貯留層が位置するのはだいたい地下1~3kmであるとされる。探査技術を尽くして地下の状況を推測し井戸を掘る訳だが、貯留層にたどり着ける保証はない。FIT導入当時、地熱発電の賦課金算定にあたっては、他の再エネ電源よりリスクが高く、投資額が相対的に大きいことから高い投資収益率が認められていた(各電源の税前IRRは規模により、太陽光は6%もしくは3.2%、風力は8%もしくは1.8%なのに対して地熱は13%)。さらに、7,500kW以上の地熱発電はリードタイムが10年程度かかるとされ、事業者の負うべきリスクを低減するための政策的支援が必要となる。
 そのため政府は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じて、技術研究開発や地熱資源開発調査への支援、地熱発電開発費等への補助金交付や、事業に対する直接的な出資・債務保証も行っている。4地熱発電の拡大を支援するためにはその事業リスクを緩和することが必要だが、そのためのコストも国民が負担していることは認識しなければならない。
 さらに、運転開始後も安定した運転には多くの知見が必要とされる。まず、蒸気の取り出しと還元のバランスをとることが必要であり、蒸気を取り過ぎてしまえば地熱資源の枯渇を招いてしまう恐れがあるという。また、配管の中にシリカ(二酸化ケイ素)が付着するため、それを定期的に落とすメンテナンスが必要となる。個々の井戸によって異なるが、特に温度の低下した熱水を地中に戻す還元井は析出しやすく、シリカが付着しやすい。適切なメンテナンスを行えば数十年の利用も可能な場合もあるが、付着がひどい井戸はそうもいかない。経験に裏打ちされた適切なメンテナンスがあって初めて安定的な運転が可能になるのだ。
 また、温泉事業者などとの軋轢がしばしば報道されている通り、地元理解の獲得も地熱資源利用の障壁となり得る。そのため政府は地熱開発理解促進事業支援補助金制度を設けるなど支援を行っている。
 筆者が訪問した九州電力株式会社八丁原発電所は、1977年6月に1号機が、1990年6月には2号機が運転開始した。事業用としては、2キロ離れた大岳発電所(1967年)に次いで全国で5番目に運転開始した地熱発電所である。地熱発電というものがまだ一般的に理解されていない時代であり、さらに近隣の筋湯温泉は開湯が西暦958年と1000年以上の歴史を持つ温泉地であったため、源泉の湯温や湯量に変化が無いことをデータで提供し続け、理解を得てきたという。
 さらに、近隣の負担にならないような配慮も多く施されている。例えば筆者が訪れた時には半年に一度の蒸気の処理設備の点検中であり、地熱貯留層から取り出された蒸気は設備に送られず大気に放出されていた。しかし、大量の蒸気が吹きだす際の轟音を緩和するため、サイレンサーが備えられていたため、設備のそばでも大声を出せば十分会話ができる程度であった。近隣と言っても人の住む集落までは相当の距離があるが、自然の音しかない静かな山中にある施設なので、「違和感のあるものはできる限り軽減し、近隣の方やこの自然を求めて訪ねてこられた方のご負担にならないようにしている」(八丁原発電所西田所長)とのことだ。こうした配慮の積み重ねの成果であろうが、筆者が滞在した宿で働く方からも、大岳や八丁原は「あるのが当たり前」であり、それよりもむしろ見学者等の来訪による地域経済へのメリットを強調する声が聞かれた。

右奥の方に蒸気の吹き出し口があり、勢いよく蒸気が噴出していたが、撮影スタッフとの会話も可能であった(筆者撮影)

 しかしFIT導入後、地熱事業者の参入が相次ぎ、地域住民とトラブルになった事例もある。例えば鹿児島県指宿市では2014年度3月に「指宿市温泉資源の保護及び利用に関する条例」を定め、地熱発電事業者に対し、事業計画等を市に提出し、あらかじめ市の同意を得ることなどを求めている。
 地熱発電は発電方法としては優れているし、ポテンシャルもある。しかしそう急拡大するものでもない電源だというのは、まさに現場を訪れてみればよくわかるのである。

<風力:送電容量の限界>

わが国で風力発電のポテンシャルが高い場所は、北海道と北東北の日本海側に集中している。

環境省「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」環境省「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」注4) より[拡大画像表示]

 筆者が訪れたのは北海道苫前町。新千歳空港から車で4時間弱かかる日本海に面した「風の町」である。冬の間は特に風が強く、筆者が訪れたこの日も風速約20メートルを記録する中、撮影が行われた。強風と痛さ(寒いのではない。痛いのだ)で10分撮影しては車で暖を取ることを繰り返した涙の撮影秘話はまたどこかでお話ししたいが、上空から町の風力発電の全景を撮影するはずが、強風のため1週間以上ドローンを飛ばすことができず、取材スタッフは私が帰京した後も現地で粘り続けていたことだけはお伝えしておきたい。
 風と共に生きてきた地域であり、風力発電の導入にもいち早く取り組み、現在町が事業主体となっている3基の風力発電(苫前夕陽ヶ丘風力発電所・風来望)は平成10年~12年にかけて稼働開始したものである。この発電所のデータは町のホームページで公開されている注5)

【2016年03月 〜 2017年02月の発電状況】【2016年03月 〜 2017年02月の発電状況】[拡大画像表示]

 2016年度の平均風速は約5メートル、設備稼働率は平均すれば約20%であるが、月ごとのばらつきが大きいことがわかる。その理由は主に風況の季節変化であるが、それだけではなく設備トラブルの多さも影響している。町の風力発電のメンテナンスを担当する方から伺った話では、冬場は強い風が吹き、それ以外の季節はぴたりとやむこともあるという状況は機器に大きな負担がかかる。日本の風の吹き方の特色を踏まえずデンマーク製の風車を導入したため相当の設備トラブルに悩まされ、運転開始当初1年半ほどデンマークのメーカーから担当者がここに常駐していたとのことだった。これは先行者の苦悩であり、こうした経験による知見の蓄積が今後のわが国における再エネ普及拡大には貴重な財産となるだろうが、担当者の方にとってはそれどころではないようだった。
 さらに今後風力発電を普及させていこうとすると問題になるのが、送電線の容量である。この問題はFIT導入当初から指摘されてきた問題であり、例えば東京大学公共政策大学院の研究チームは、再生可能エネルギーの導入拡大に向け、送配電など技術的・制度的課題を含めていくつかのシナリオを描いて検討し、①送電容量・送電線不足、②Ramping注6) 対応調整電源不足、③変電設備事故時および電源脱落時の周波数安定度劣化の3項目への対処が必要であり、特に①の問題には早く着手すべきであることを説いている注7)
 しかし送電線整備は莫大な投資と長い時間を必要とする。北海道・東北に590万kWの風力が導入された場合に、必要な投資は1兆1700億円との試算もあり注8) 、太陽光や風力の導入が進む北海道や九州では既に大きな導入制約となっている。しかも自然変動であるため送電線の利用率が低くなり、kWhあたりの送電コストが高くなることも懸念される。再エネ大国と言われるドイツでも、送電線が通ることによる景観悪化等を気にする住民の反対により整備が遅々として進まず、「Power Grid Expansion Act(送電網拡大法)」を制定して、手続きの簡素化を図るも、2016年までの進捗率は約35%に留まっている。
 

<日本の再生可能エネルギーの今後を考える>

 いま筆者が全国を講演等で回る中で聞く声の多くは、FIT賦課金の負担が急増していることへの戸惑いと反発である。確かに制度導入当初に政府が示した見通しとの乖離が大きすぎるし、増え方も急すぎる。その主要因は設備認定全体の95%近くを占める太陽光であり、政府は改正FIT法により2MW以上のメガソーラーには入札制度を導入することとした。しかし入札制度を導入するのであれば、FITを廃止してRPSに戻せばよいのである。FITは20年間等の長期にわたり固定の価格で買い取るという硬直的な制度である。RPSはFITより競争促進的であり、安い電源の導入を促す効果がある。2030年のエネルギーミックスという達成すべき目標に向けて、「価格規制」であるFITを改めて見直し、「量的規制」であるRPS注9) の活用など、再生可能エネルギー普及政策のあり方そのものを見直す時期だと言えるだろう。
 「再エネをとにかく増やす」というFIT導入を議論していた当時の価値観からは卒業すべきだ。地域と共生しながら、国民負担を最大限抑制しながら、普及拡大を図らなければ、再エネは国民の支持を失うことになる。典型的なのが太陽光であり、バブルと呼ばれる状況を生み出した一方で、今回の取材で、「地域で商売しているので言い出せないでいるが」と口ごもりながら、「これ以上ソーラーパネルに覆われる土地になってほしくないし、もしやるのであれば事業者の顔が見えるようにしてほしい。」と訴える方にも出会った。再エネの普及拡大は息長く取り組むべき課題であることを、現場を見て回ることで改めて考えさせられた。エネルギーは現場を見て考え、語るべきである。

注4)
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf
注5)
東日本大震災を踏まえた 電源構成の転換を実現するためのシナリオと方策に関する研究
http://www.town.tomamae.lg.jp/section/kikakushinko/lg6iib0000006edc.html
注6)
低気圧通過のような広域の気象変化に起因する発電出力の長時間変動
注7)
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h25/pdf/1ZF-1201.pdf
注8)
「再生可能エネルギー導入に伴う 系統安定化費用の考え方について」 http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/pdf/004_07.pdf
注9)
「再生可能エネルギー政策論」エネルギーフォーラム社 2011年9月 朝野賢司 P222

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