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パリ協定発効を踏まえて考える日本の貢献


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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インドネシアの気候変動への取り組み

 インドネシアは、2010 年に温室効果ガス削減目標(BAU比2020 年までに26%削減。国際社会の支援を前提に2030 年までに41%削減)を掲げ、その実行に向けた大統領規則(RANGRK)を発令するなど、削減に積極的な姿勢をみせるとともに、2013 年には「気候変動適応のための国家行動計画」(RAN-API)注1)を策定している。世界最多の島を抱え、農業や漁業など一次産業が盛んな同国は、気候変動の影響に対して非常に脆弱であり、同国の約束草案の中でも、気候変動が引き起こす自然災害によって貧困層が貧困から抜け出すことがより一層難しくなると訴えている。
 特にジョコ・ウィドド大統領が強い問題意識を抱いているのが、森林・泥炭地の保全である。2015年の6月から10月の間に200万ha以上が森林火災で荒廃するなど被害が深刻化しており、同国の温室効果ガス排出の最も大きな割合を森林・土地利用分野が占めている。特に泥炭地での火災は温室効果係数がCO2の20倍以上であるメタンを多く排出するため、森林・泥炭地火災を防ぎその適切な再生・管理を進めていくことが排出削減策の重要な柱の一つとされている。また、同国では泥炭地での稲作も行われており、農林業で生活している国民生活を保護する上でも森林・泥炭地の保全は重要なのである。大統領がCOP21 におけるステートメントで「Peatland Restoration Agency(泥炭復興庁)」の設立を表明した注2)ことは、それだけ森林や泥炭地の保全・回復と管理が同国にとって喫緊の課題であることを示している。
 2016年初頭に設立された「泥炭復興庁」が取り組むプロジェクトには36 億ドルもの資金が必要であるとも報じられているが注3)、同国は既にインドネシア気候変動信託基金(Indonesia Climate Change Trust Fund:略称ICCTF注4))を設立しており、先進国の支援も受けながら、こうした資金源を充実させていくことで削減・適応策を進めることとが期待されている。

インドネシアに貢献する日本の技術

 実は、同国の泥炭地での稲作は、水位管理の未熟さから土地の乾燥化が進み、収量が上がらないうえに、泥炭乾燥がCO2排出の原因となっていることが指摘されている。こうした状況を受けて清水建設株式会社は、水門水路整備、水位管理により稲作を行う泥炭地の再湿潤化を行い、微生物分解を抑制することでCO2排出削減に貢献しており、削減ポテンシャルはインドネシア全体では468 万t-CO2 /年にもなるという注5)。また、稲作の増産にも効果があると期待されている。

インドネシアにおける泥炭管理によるCO2排出抑制プロジェクト ( 写真提供:清水建設株式会社)

インドネシアにおける泥炭管理によるCO2排出抑制プロジェクト
( 写真提供:清水建設株式会社)

 これは、日本政府が検討を進めてきたJCMの案件組成や方法論検討を目的としたプロジェクトの一つではあるが、例えば火災検知のセンサー技術などと組み合わせれば適応策としてのストーリーも描けるのではないだろうか。センサー技術に強みを持ち、実際に諸外国の適応策に貢献している日本企業も複数ある。例えばNECはタイの災害警報発出機関である国家災害警報センター(以下 NDWC)と共同で、浸水区域を予測する洪水シミュレーションシステムの実証実験を行い、その有効性が確認されたことを本年5月に発表している注6)
 根本的な対策は堤防の建設等によって洪水被害が発生しないようにすることかもしれないが、それには多額の資金と長い時間がかかるため、センサー技術によって浸水区域を予測し、人的被害や農作物への被害の最小化を図っているのである。

途上国の適応策への貢献に向けて

 防虫剤処理を施した蚊帳によるマラリア対策、干ばつ等悪条件にも耐え得る種子の開発による農業支援、センサーを活用した監視システムによる高潮や土砂災害発生予測・農業支援システム、災害救助へのドローンの活用、迅速な災害復興に向けたICT技術活用など、日本企業が強みとする技術に対する途上国の期待は高い。
 相手国のニーズを的確に把握し、多様な技術を組み合わせることなどで気候変動適応策としてストーリーを描き「見える化」していくことができれば、途上国政府とのB to Gのビジネスが拡大することも期待しうるだろう。将来的には、GCFのように先進国が拠出した基金から支援を受けることもありえようが、本資金の活用には提案書を提出する認証機関、および途上国側との折衝力、さらにGCFの人員及び案件評価能力の不足などの現状をかんがみるに民間企業による活用にはハードルが高い。
 実は途上国への適応策の貢献について、興味深い動きがある。本年3月15日に日本の環境省が、インドネシア政府と「国家適応行動計画」実施促進の協力に関する意向書に署名したことが発表されている注7)( 正確には、小林正明環境省地球環境審議官とエンダ・ムルニティアス・インドネシア国家開発計画庁天然資源環境担当次官との間で署名された)。日本の環境省が、途上国における気候変動の影響評価や適応計画策定等に協力することを明らかにしたものであり、適応分野に特化した初の二国間の意向書であると報じられている。
 適応策は国民生活への基礎的サービスに関するものが多く、相手国政府の関与が不可欠である。相手国の適応計画実施促進に向けた協力姿勢を日本政府が明らかにし、政府同士が連携すれば、相手国の適応策に関して日本企業がビジネスとして参入しやすくなる。環境省、経産省など関係省庁が連携し、JCM制度の署名国をこれまで何年もかけて15か国にまで増やしてきたことと同じように、日本政府が多くの途上国の適応分野において協力関係を構築していくことを、まずは期待したい。

注1)
https://gc21.giz.de/ibt/var/app/wp342deP/1443/wp-content/uploads/filebase/programme-info/RAN-API_Synthesis_Report_2013.pdf
注2)
https://www.jakartashimbun.com/free/detail/27781.html
注3)
http://www.channelnewsasia.com/news/asiapacific/agency-to-restore/2400030.html
注4)
http://icctf.or.id/
注5)
http://www.shimz.co.jp/theme/cdm/mecha.html#co2
注6)
http://jpn.nec.com/press/201605/20160523_01.html
http://jpn.nec.com/eco/ja/climatechange/adaptation/data/I99-14120083J.pdf
注7)
http://tenbou.nies.go.jp/news/jnews/detail.php?i=18339

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