第6回 セメントの底力を活かし、持続可能な社会を〈後編〉

セメント協会生産・環境幹事会幹事長/三菱マテリアル株式会社執行役員セメント事業カンパニーバイスプレジデント 岸 和博氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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熱エネルギーの有効利用

――数々の省エネルギー対策に取り組まれていますが、その一つ、熱の有効利用については?

岸:セメント製造工程での熱の有効利用率は、入熱に対して約80%となっています。例えば、セメント焼成炉の排ガスが出口煙突を出ていく時には、その前に乾燥用に使われたり、排熱発電用に使われたりして、ほぼ100℃前後、あるいは100℃以下まで温度が下がり、熱として有効利用されたガスが出ていくことになります。このような状況から、熱の有効利用に関する対策は非常に限られてしまいます。そんな中、セメント各社が積極的に試みているのが、高効率クリンカクーラーの導入です。これはセメント焼成炉の中で、1450℃程度の超高温で焼成された、中間製品となるクリンカに大気を吹き込んで空冷する設備ですが、この冷却効率を上げることができるものです。ただ全体としての省エネ効果は大きなものではありませんので、これも小さな積み重ねの一つではあります。

図2(図2)出典:セメント協会[拡大画像表示]

――熱を無駄なく回収して有効利用することは大事ですね。

岸:古い型式のキルンでは熱回収の設備はありませんが、今の日本のキルンは全てプレヒータ(予熱装置)とクリンカクーラーが付いています。より効率の高いクリンカクーラーに更新して、クリンカクーラーでの熱回収をもっと増やせないかなど、省エネルギー技術の改善に向けて努力しています。

セメント産業のライフサイクルアセスメント(LCA)

――低炭素社会の実現に向けて、セメント業界としてライフサイクルアセスメント(LCA)について公表されています。

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岸:セメント協会では、毎年「セメントのLCI注1)データの概要」を公表しています。これは、1995年に設立された日本LCAフォーラムに参加・活動を行っている一環です。このデータは、毎年各社に調査を行い、セメント協会で取りまとめたものです。(http://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jg1i_01.pdf#search=’LCIデータの概要+セメント協会’

 2012年には「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量の算定方法基本ガイドラインに関する業種別解説」を作成、公表しました。これは、2010年に経済産業省と環境省が合同で「サプライチェーン排出量に関する検討会」を設置した際に、両省より協力の要請があり、その際に作成したものです。セメントは、本来、建設資材の根幹を構成する物質ですし、国内で資源を確保できる産業です。サプライチェーンの最初の段階にある製品ですので、検討会にも積極的に参加しています。

 セメント産業のライフサイクルを把握することの目的は、一つは下げ代がどこにあるのかをまず把握し、我々が削減努力を取り組むべきプロセスがどこなのかがわかるということと、お客様からの製品に関する環境負荷のデータを知りたいという要望に応えるためです。お客様に製品を継続的に購入していただくためにも製品のライフサイクルに関する情報提供は今後も積極的に公表していきたいと思います。

注1)
LCI(ライフサイクルインベントリ)とは:製品がシステム外からどれだけの資源を必要とし、またどれだけ環境負荷物資を排出するかのデータを収集・推定する作業のこと

セメントの底力を知ってほしい

――災害が多い日本においては、強靱な社会をつくっていく必要があります。セメントが果たす役割は?

岸:国土強靱化について、セメント協会では、「セメントの底力~セメントはわが国の社会インフラ整備を支えています」という冊子をつくっています。強靱化の要素として、「港湾、空港、道路、鉄道といった社会的ネットワークを支える」、「エネルギー備蓄によりエネルギーの安定供給を支える」、「都市水害、河川の水害、津波等の自然の脅威から国土や命を守る」、「建築物や文化財の基盤強化」が大きな要素だと考えています。

 近年、自然災害が頻発していますよね。人の命を守るのは、セメントの使命だと思っています。災害が起きたとしても、少なくとも人の命は守り、できるだけ最小限に被害を食い止めたい。セメントで安心な建物を作って、住民の方々に避難していただくとか、我々業界ができることはたくさんあると思っています。災害後にまちが復旧した姿は、多くの方にはなかなか見る機会はないですよね。まちの復興も含め、セメントがインフラ整備を支えていることを知って欲しいと思います。(http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jj3h2.html

【インタビュー後記】

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 セメントがいかに温暖化対策や循環型社会に貢献していくか、岸氏は実に率直な言葉でわかりやすくお話くださいました。セメントと言ってもあまり身近に思われない方もいると思いますが、橋やダム、地下構造物、高速道路、海岸堤防など、私たちの社会生活の基盤になっている大切なものです。また、年間2800万トンもの大量の廃棄物・副産物をセメントの原料や熱エネルギーの代替として受け入れ、循環型社会を支えてくれています。セメントが廃棄物を減らし環境負荷低減に貢献していることを社会の中でもっと認識して、私たちも感謝の気持ちを持って評価するべきでしょう。近年豪雨による堤防決壊などの自然災害も起きていますので、自然の脅威から人の命を守るためにも、必要なところにはセメントによるインフラ整備を進めることも重要です。地球環境との調和を図りながら、セメントが持続可能な社会に大きく貢献してくれることを期待しています。

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