発電設備の小型化と連携


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 日本の電力需要の伸びは、ここ数年横這いになっている。経済産業省の2030年に向けた予測では、2010年から2020年の間には1.3%の伸び率であるものが、2020年から30年の10年間には0.3%になるとされている。2020 年代には、世帯数減少や業務床面積の頭打ち、民生部門でのエネルギー効率の高い機器/システムが一層普及蓄積されるというのがその背景だ。このような状況が予測される中、老朽設備の更新は別として、電力需要の伸びに対応する発電設備の新増設は、これまでのように、規模の利益を追求しながら高効率発電を実現する集中型大規模発電設備で行うのは必ずしも妥当とは言えなくなっているのではなかろうか。

 特に、昨年末パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定で、日本が示した目標の達成のためには、再生可能エネルギーを可能な限り導入する必要があるが、それは必然的に天候によって出力が左右される電源が大幅に増加することとなる。この出力変動によって送電系統が不安定になることを阻止するためには、デマンドレスポンスの普及や蓄電池の設置なども貢献するとはいえ、基本的には発電設備の出力を増減させることが基本となる。それには、予備力としていつでも発電量を増加、削減できるように稼働を制御する必要があり、これを規模の大きい設備で行う場合、その発電効率を低下させ、利用率を低下させる。

 これをできるだけ回避するには、発電事業者が設置する発電設備の規模を小さくし、かつ分散設置することが有効だと考えられる。一つの事例として、7月11日に北海道ガスが行った発表が参考になる。同社は本年4月から、低圧分野を含む「北ガスの電気」を販売しているが、石狩LNG基地に国産で7,800キロワットの世界最高効率(約50%)ガスエンジンを10台設置して78,000キロワットの自社電源にする計画で、発電設備の設置は2017年4月に着工し2018年10月に運用開始させるという。そして、このエンジンからの排熱をLNG気化用の加熱に利用するコージェネレーションとすることにより、総合効率が80%ほどとなる。燃料は、LNGタンク内で自然気化した天然ガスであり、その過程でのエネルギー消費量は極めて小さい。また、将来的に10万キロワットにまで発電規模を増加できるよう周辺設備に余裕を持たせている。この発電システムは、起動後10分以内で最大出力に達し、幅広い負荷範囲で高効率発電が可能であり、ガスエンジンによる発電であることから、負荷変動にも迅速に対応できる。

 特徴的なことは、まず、着工から運用開始までの期間が、従来の火力発電設備に比べて非常に短いということだ。また、全体の発電量を大きく減らすときには、複数機を停止することによって対応することができるために、高い発電効率を維持できる。また、モジュール化した発電設備を使っているため、増設も迅速となるし設備コストも低くなるはずだ。着工から運用開始までの年月が短いため、投資の回収が早期に始まるのもメリットとなる。

 北海道には太陽、風の資源は豊富だから、その利用が促進されなければならない。しかし、本州との間にある北本連系線の容量が小さいために、送電系統がほぼ孤立しており、かつ北海道の電力需要は大きくないから、そこへ不規則に出力が変動する電源が増えると系統の安定性を保ちにくくなる。ここに上記の石狩LNG基地に設置されたようなコージェネ電源が増えれば、系統安定化の見地からも重要なものとなるに違いない。北海道には小規模なものも含めてLNG基地が4カ所あるから、同じような電源の設置は可能だろう。また、寒冷地であるために熱需要は大きく、コージェネ市場は大きいはずだ。総合効率の高いコージェネを普及させると同時に、それらの電源を一体的に制御できるように連携統合させれば、太陽光発電、風力発電の拡充にも大きく貢献するだろう。昨年6月23日に紹介した米国での事例が日本でも始まったと考えて良いのかもしれない。

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