燃料電池からの逆潮


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 発電時に化石燃料の消費効率を上げることは、日本にとってエネルギー安全保障の見地からも重要な課題である。その具体策の一つとして期待されているのが燃料電池技術のさらなる向上と市場の拡大だろう。現時点では、発電能力700ワットの家庭用規模のものと、100キロワットクラスのものが日本で商品化されている。さらにここ1~2年のうちに、数十キロワット~数百キロワットの業務用規模のものが市場に出てくる筈だ。

 家庭用規模のものはエネファームという商品名で市販されているが、まだ価格の高さが普及に向けた障壁となっている。このエネファームについて、政府は2020年に140万台、2030年に530万台(全世帯の約1割)の目標を設定し、2009年度から導入に向けた補助金が準備されてきた。年々補助金額が引き下げられてきたが、2016年度から、価格引き下げを促進しようとする新しい形の補助金制度が設定された。

 エネファームには、固体高分子電解質型(PEFC)と固体酸化物電解質型(SOFC)があり、発電効率が高い後者はエネファーム・タイプSと呼ばれている。新しい補助金制度では、それぞれの方式について工事費込みの実販売価格が、標準価格以下であれば補助金がフルに出されるが、それを超えるものについては補助金が減額され、裾切り価格を超えると補助金を貰えなくなる。エネファーム販売関連事業者にとっては厳しくコストダウンに向けてお尻を叩かれる方式が導入されたと言える。

http://fca-enefarm.org/subsidy28/outline/page05.html

 大阪ガスが2016年度仕様のエネファーム・タイプSの販売を4月から開始すると発表したプレスレリースに「えっ」と思った内容があった。同社が新電力として家庭用顧客に電気を供給開始したのは4月1日からだが、大阪ガスと電気の供給契約を結んでいる顧客がこの燃料電池を設置した場合に、太陽電池が併設されていなければ700ワットで定格運転させ、発電量が取り付け先の需要を上回る時にはその余剰分を買い取るというサービスが紹介されていたのだ。電力市場全面自由化のタイミングに合わせて編み出されたエネファーム販促策の一つだ。これによって、2014年2月7日に本コラムで書いたエネファームからの逆潮への期待が実現したのである。余剰電力の買い取り額は、大阪ガス新電力が供給する電気料金の6割弱とはいえ、利用者にとっては少なからずメリットになるはずだ。

 エネファームの余剰電力を一般電力系統へ逆潮するのが認められたのはこれが最初のケースだそうだ。だが、この逆潮を技術的に見れば、タイプSだけでなく全てのエネファームに可能なものだから、新電力事業を始めた他のガス事業者でも遠からず実施に移されるに違いない。そして、買取をするユニットを地域単位にひっくるめて制御すれば、一定規模の安定した電源として利用できることになる。地域にある太陽光発電の出力変動が系統に与える影響を抑制するように制御することも可能となるはずだ。それにはクラウドデータ処理も必然となり、まさにマイクログリッドの誕生となる。これから登場する業務用規模の燃料電池も同じ仲間に入るだろう。そしてこの延長線上には、今後普及すると予想される家庭用・業務用蓄電池や電気自動車からの電力を逆潮させて買う新電力事業者も出ると予想される。そして、これらが相互にデータ通信ネットワークで結ばれることによって、意味ある規模の頼りになる分散型電源が地域に確保されるようになると筆者は考えている。

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