先進エネルギー自治体(3)

静岡県浜松市 太陽光日本一の街がめざす“日本版シュタットベルケ”


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 地震などの自然災害が多い日本において、“強靱化(レジリエンス)”なまちづくりは大きな課題です。先日開催されたレジリエンスジャパン推進協議会主催『先進エネルギー自治体サミット2016』のファイナリストに残った先進自治体のさまざまな取組は、これからのまちづくりの参考になるでしょう。今回は、太陽光発電の導入量日本一の静岡県浜松市の取組を取り上げたいと思います。

太陽光発電の導入日本一

 浜松市は、国内有数の日照時間という地域特性を活かし、平成24年度以降、太陽光発電の導入に力を注いできました。平成27年3月末時点で、発電出力10kW以上の太陽光の導入件数と、全出力を合計した太陽光発電の導入量は、全国1741市区町村の中で見事トップに立ちました。(図1)事業用の太陽光発電所の事業者の9割が地域企業や市民だということも特筆すべきことでしょう。

 平成23年度から25年度の住宅への太陽光発電システムへの導入補助は、毎年2000件以上で、合計出力は3年連続で年間10000kW以上を達成しています。市内の小中学校56校や公共施設7箇所の屋根に太陽光発電システムを設置し、自家消費を行っています。このうち33校は、10kWの太陽光発電と15kWhの蓄電池をセットで設置し、避難所としての防災機能を高めています。「太陽光を導入したいけど、どうしたらいい?」といった個別の悩みに応えるため、太陽光発電の相談窓口を設置したことも日本一の背景にあります。市から委託をうけた「浜松市ソーラーセンター」は、太陽光発電の駆け込み寺として、企業、市民、施工業者等からの相談を受け付けており、年間の相談件数は600件を超えると言います。

(図1)浜松市の太陽光発電の導入実績   出典:浜松市

(図1)浜松市の太陽光発電の導入実績   出典:浜松市

(図2)浜松市に立地するメガソーラー  出典:浜松市

(図2)浜松市に立地するメガソーラー  出典:浜松市

 市は、メガソーラーの建設の誘致も積極的に行いました。敷地面積500㎡以上の発電施設を対象に、立地計画状況の事前把握や竣工施設の確認、行政指導の充実を図り、地域住民とのトラブルを未然に防止するため、発電事業所への緑化率の軽減(最大20%の比率を撤廃し事業者努力で設置)などの規制緩和を進めました。その結果、10kW以上の太陽光発電所は運転開始済みが4000件を超え、1000kW級のメガソーラーは25基が稼働中で、さらに13基が建設中です。(図2)

「浜松版スマートシティ」実現に向けた新たな展開

 市は、太陽光発電を中心に地域エネルギーを積極的に育てる一方、平成25年3月に「浜松エネルギービジョン」を策定しました。このビジョンでは次の4つの施策が柱になっています。①再生可能エネルギー等の導入、②省エネルギーの推進、③エネルギーマネジメントシステムの導入、④環境・エネルギー産業の創造です。これらの施策をひとまとめにしたのが、「浜松版スマートシティ」構想です。

 スマートシティ構想を実現させるため、市は平成27年6月に「浜松市スマートシティ推進協議会」を設立しました。会長は市長の鈴木康友氏がつとめ、電機や通信、エネルギー供給、交通など多種多様な90事業者が会員になっています。協議会の中で、市自らが、新しいまちづくりプロジェクトのコーディネーター役を担い、企業や金融機関などへの連絡や調整を行い、プロジェクトを推進しています。

 同年10月15日には「浜松新電力」を設立しました。市を含め、企業や金融機関の9事業者が出資しています。浜松新電力は、今年4月1日の電力小売全面自由化スタートに合わせて事業を開始し、市内の太陽光発電を中心に再生可能エネルギー電源を購入し、市民や企業、公共施設に供給する役割をつとめています。(図3)

(図3)浜松新電力の事業スキーム 出典:浜松市

(図3)浜松新電力の事業スキーム 出典:浜松市

“日本版シュタットベルケ“を目指す

 浜松市が目指している将来像は、日本版“シュタットベルケ”です。シュタットベルケとは、ドイツの地域における電力やガス、熱などの小売・供給事業などを行う自治体出資による地域密着型インフラサービス会社のことで、ドイツ国内には900社ほどあると言われています。

 浜松市は、平成32年度(2020年度)頃までに、スマートコミュニティの実証が、市内の街区や工業団地で進むことを想定しており、さらに2030年以降の長期ビジョンとして、スマートコミュニティを広域化させる姿を描いています。市自らが地域エネルギー供給を行う事業体の核となり、広域のスマートコミュニティの展開により、レジリエント都市を形成していくわけです。

 そうした将来ビジョンのもと、協議会では現在、次の3つのスマートシティ関連プロジェクトの事業化の可能性を調査しています。①浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業(図4)、②浜名湖かんざんじ温泉地区エネルギー地産地消事業、③浜松市中央卸売市場におけるエネルギーの面的利用事業です。それぞれのプロジェクトの概要は次の通りです。

浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業」は中部ガスとの共同事業で、新設工業団地に再生可能エネルギーとガスコージェネレーションの「熱電併給システム」を導入し、熱と電気のネットワーク化によりITによるエネルギーマネジメントを行う。自営線により強靱で安定、安価な熱電併給を行うことにより、省エネ効果は20%以上が期待される。
「浜松湖かんざんじ温泉地区エネルギー地産地消事業」は、木質バイオマス熱電併給システムを通じ、温泉街へ最適な電気と熱を供給する計画。地域のバイオマス資源を活かし、観光振興と地域活性化につなげていく。
「浜松市中央卸売市場におけるエネルギーの面的利用事業」は、市場全体に再生可能エネルギーやガスコージェネレーション等を導入し、エネルギーマネジメントにより緊急時の自立エネルギー源を確保する。

 これらのプロジェクトに挑戦していくことにより、エネルギーに対する不安のない強靱で低炭素な社会を目指し、浜松市が将来、地域の“総合エネルギー事業者”に進化していくことを期待しています。

浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業 出典:中部ガス
浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業 出典:中部ガス
浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業 出典:中部ガス

浜松市新設工場団地開発計画にあわせた再生可能エネルギー面的利用、熱電併給事業 出典:中部ガス