米大統領選、トランプ氏が大統領になる日は来るのか(1)

~シンクタンクのアナリストはどう見る?~


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 2月前半にワシントンD.C.のシンクタンクや商工会議所などに、大統領選の行方やオバマ大統領の気候変動対策などについてヒアリング調査を行ってきた。ちょうどその頃は、中西部アイオワ州に続き、大統領選挙の候補者選びの第2戦、北東部ニューハンプシャー州での予備選挙が行われ、結果は、共和党は“不動産王”のドナルド・トランプ候補、民主党はバーニー・サンダース候補が勝利を収めた。両党のアウトサイダー的存在の二人が勝利したことはメディアでも大きく報じられた。

 2月20日、第3戦となる共和党の南部サウスカロライナ州の予備選挙でもトランプ氏が勝利し、民主党の西部ネバダ州の党員集会でヒラリー・クリントン前国務長官が、それぞれ勝利している。そして、日本時間の1日夜、東部マサチューセッツ州や南部のテキサス州など10を超える州で一斉に予備選挙などを行う「スーパーチューズデー」注1)を迎える。(※この原稿はスーパーチューズデー前夜に執筆)

 それにしてもトランプ氏は強い。これまで3戦3連勝で優位な戦いを進めてきたが、トランプ旋風はこのまま吹き荒れるのか。もしかしてトランプ氏が大統領になる日が来るのではないか、そんなことが脳裏をよぎる状況になってきた。これから何回かに分けて、トランプ氏が大統領になる日は来るのかをテーマに書いてみたい。まず、民主党寄りとされているシンクタンクのアナリストらが語る今後の大統領選の行方はいかに・・・?

――トランプ旋風が止まりません。このままの勢いで共和党の候補者になるのではないか?

 「アメリカの専門家たちもトランプ氏がここまで勝利を収めるとは、誰ひとりとして想像していなかったと思う。私もこんな状況はまったく思ってもみなかった。最終的に共和党の候補者に指名される可能性は十分ある。いや、何が起きても驚かないよ」と話し、苦笑いを浮かべた。

――「スーパーチューズデー」でも、共和党の候補者選びでトランプ候補は優位に立てると思うか?

 「世論調査の結果から、トランプ氏がいくつかの州で勝利する可能性は高い。しかし、南部出身の若手議員の二人、保守派のマルコ・ルビオ上院議員と保守強硬派のテッド・クルーズ上院議員がどれだけ追い上げるかが注目だ。この二人がトランプ氏の勢いにストップをかける可能性は大いにある。南部の共和党支持層は、保守的なキリスト教徒が多く宗教色が強い。トランプ氏が信心深いといった話は聞いたことがないが、そうした保守派の票をどれだけ取り込めるかだ」

――なぜこれほどトランプ氏は人気があるのか?

 「オバマ政権に対して、白人の中間所得者層から低所得者層の不満が広がっていることが言われている。トランプ氏が“セレブリティ”に成り上がったこれまでの生き方に憧れの気持ちもあるのだろう」

――「スーパーチューズデー」では、民主党はどの候補者が勝利を収めると思うか?

 「クリントン前国務長官が優位な戦いを進めるだろう。南部アーカンソー州は夫のビル・クリントン元大統領が知事を務め支持基盤は盤石だ。また同じ南部のジョージア州も黒人が多く、クリントン氏支持が強い。なんといっても、夫の頃から南部各州のリーダーたちと30年間の親交があるのが強みだ。サンダース上院議員は、地元の東部バーモント州ではリードしているが、その他の州ではクリントン氏が圧倒的な強さを見せるだろう」

――サンダース氏は予想以上に健闘していると思うが、最終的に勝ち目はないのか?

 「ニューハンプシャーは人口も少なく、予備選の結果が全米に影響力を与える州ではない。大統領選の候補者選びの第1戦となったアイオワ州民主党の党員集会ではクリントン氏に僅差で迫る勢いを見せたが、サンダース氏に投票した層の85%は30歳以下、若年層の支持が高いという特徴がある。一方、クリントン氏に投票した約80%は40歳以上という結果が出ている。支持層の年齢が問題だということだ。つまり、若年層は“投票に行かない”人が多いことがネックになってくる。最後に民主党候補者として指名されるのは、クリントン氏になるだろう」

注1)
「スーパーチューズデー」とは、民主・共和両党の候補者の指名争いを絞るため、多くの州が予備選挙や党員集会を一斉に行う特定の火曜日のことを呼び、大統領選の行方を左右する最大のヤマ場とされている。そのため、各候補も総力をあげて選挙戦に臨んでいる。

◎次回、「米大統領選、トランプ氏が大統領になる日は来るのか()」へ続く

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