先進的な取り組みに注目!「バイオマス産業都市さが」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 先日、佐賀市内で講演とパネルディスカッションに登壇する機会をいただき、パネルディスカッションの中で、佐賀市がユニークなバイオマスの取り組みをしていることを知りました。残念ながら現場の見学をする時間はありませんでしたが、その取り組みについて紹介したいと思います。

「バイオマス産業都市さが」構想

 日本の多くの地域において、木質、食品廃棄物、下水汚泥、家畜排せつ物などの豊富なバイオマスがあります。バイオマスを活用した産業を創出することにより、地域の雇用創出や活性化につなげることは日本の大きな課題です。

 2012年9月、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)が共同で取りまとめた「バイオマス事業化戦略」では、バイオマス産業を軸とした、環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりをめざす「バイオマス産業都市」の構築を推進しています。2018年までに全国で約100地区のバイオマス産業都市を選定する予定です。平成26年11月10日、平成26年度選定地域に選ばれた佐賀市の「バイオマス産業都市」構想では、次の6つの事業化プロジェクトが進められています。

(1)
清掃工場二酸化炭素分離回収事業
(2)
木質バイオマス利活用事業
(3)
下水道浄化センターエネルギー創出事業
(4)
微細藻類培養によるマテリアル利用および燃料製造事業
(5)
家畜排泄物と事業系食物残さとの混合たい肥化事業
(6)
事業系食品残さと有機性汚泥との混合利用事業

 このうち、今回は(1)、(3)、(4)の項目について情報共有したいと思います。

清掃工場二酸化炭素分離回収実証実験

 市内の清掃工場では、2003年に発電・余熱利用ができる循環型焼却炉を設置し、エネルギーの有効利用に取り組んできました。ごみ焼却熱を利用してボイラで蒸気を作り、蒸気タービン発電機で発電を行っています(年間発電量3,220万kWh=約9,000世帯分の年間消費電力量に相当)。

 さらに清掃工場から発生するバイオマス資源の利用促進を図ろうと、2013年(平成25年)度からスタートしたのが「清掃工場バイオマスエネルギー利活用促進事業」です。清掃工場のゴミ処理過程で発生する排ガスからCO2を回収し、回収したCO2を農産物の栽培や藻類の培養などに有効利活用するシステムの構築を目指しています。(図1)

図1「清掃工場二酸化炭素分離回収事業」 出典:佐賀市

図1「清掃工場二酸化炭素分離回収事業」 出典:佐賀市

 2013年10月に清掃工場内に試験装置を設置し、分離回収したCO2の成分分析やコスト評価を行いました。その知見を活かし、実用規模の二酸化炭素分離回収装置を設置するため、現在工事を行っています。分離回収されたCO2は、藻類の培養事業者や、高付加価値な農作物の栽培を行う農業用ハウスなどに供給される計画です。

 2014年6月、佐賀市は、藻類を培養する日米合弁会社「アルビータ」に販売することに合意し、バイオマス利活用協定を結んでいます。2016年4月には、藻類培養施設が清掃工場の西に完成する予定です。(図2)佐賀市は、この事業により全体で40~50人の雇用が生まれることを期待しています。

図2「アルビータ藻類培養施設予定地」 出典:佐賀市

図2「アルビータ藻類培養施設予定地」 出典:佐賀市

下水道センターエネルギー創出事業

 下水浄化センターでは、下水汚泥を消化発酵させたときに発生する消化ガスを回収し、消化ガスによる発電に取り組んでいます。2012年度の年間発電量は、約3,417MWhで、下水浄化センター所内の電力の約42%を自家発電で賄った実績があります。

 消化発酵後の残さは脱水し、肥料原料として利用しています。下水汚泥由来の肥料は年間約1,427トン製造されていますが、これらの下水汚泥由来の肥料は全量を農家などへ販売しています。農業が基幹産業である佐賀市にとって、残さの利活用についても受け手を確保できる利点があります。

 佐賀市は、将来的に日本初の『電力自給率100%の下水処理システム』の実現をめざしており、下水汚泥に地域バイオマス(木質バイオマスや事業系食品残さなど)を混合し、消化ガスの発生量と発生電力量の増やしていく計画です。

 一方、地域バイオマスを混合すると、下水浄化センターでの水処理の負荷が高まるという問題が生じるため、水処理の一部に微細藻類を活用することで、水処理の負荷低減を行う予定です。(図3)

図3「下水浄化センターエネルギー創出事業」出典:佐賀市

図3「下水浄化センターエネルギー創出事業」出典:佐賀市

 今年5月13日には、佐賀市と東芝など民間企業6者にて、国土交通省の「下水道革新的技術実証事業B-DASHプロジェクト」(事業費約10億円)を実施することを発表しました。下水処理で発生するガスからCO2を分離、回収する全国初の実証事業に取り組みます。下水浄化センター内にCO2を分離回収するプラントと藻類培養設備を設置し、回収したCO2はミドリムシなどの藻類を培養する計画です。

微細藻類培養によるマテリアル利用および燃料製造事業

 
 2014年2月8日、佐賀市は、ミドリムシの大量増殖技術をもつバイオベンチャーのユーグレナ(本社:東京)と共同研究契約を結びました。下水処理水や清掃工場の焼却炉から取り出した高濃度の二酸化炭素(CO2)をユーグレナに提供する予定です。

 藻類のミドリムシは、植物と動物の中間的存在で、CO2を取り込んで光合成を行い、バイオジェット燃料の元となる軽質油を産出することができます。ユーグレナは、2020年の事業化をめざし、石垣島(沖縄県)の生産拠点でジョット燃料の研究開発を行ってきましたが、第二の拠点として全国の自治体から誘致される中、佐賀市を選びました。ユーグレナが自治体との共同研究契約を結んだのは初めてのことです。

 現在、市内での新たな研究拠点は設計段階にあり、来年には着工する予定です。今回の研究では、下水浄化センターから排出される有機物を多く含む処理水や、清掃センターから回収するCO2を佐賀市が提供することにより、市場コストに見合う燃料開発につなげるステップにしたい考えです。佐賀市とユーグレナが連携することで、ミドリムシによるバイオジェット燃料の量産化が2020年のオリンピック開催までに実現することを期待したいです。

出典)ユーグレナ「ミドリムシ」

出典)ユーグレナ「ミドリムシ」

 佐賀市がバイオマス産業都市としてめざす将来像は、日頃の暮らしから発生するごみや排水、産業排水、地域の未利用木材などから、エネルギーを生み出し、自然と共存する都市の姿です。廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環する都市をつくっていく。つまり、普通の生活が地域の力になるわけです。

 ごみ処理施設や下水処理施設が、地域のエネルギーセンターへと転換することにより、地域経済が循環する仕組みをつくり、その循環の波が国内からアジア、世界へと広がるような「バイオマス産業都市さが」の実現をめざしています。

 清掃工場から直接CO2を取り出し活用しようとする試みは日本だけではなく、世界的にも例のない取り組みです。新たな施設をつくるのではなく、既存のごみ処理施設や下水道処理施設を上手に活用し、エネルギーを生み出し、回収したCO2を利用する企業の誘致や産業を創出していこうとする佐賀市の先進的な取り組みを、今後も注目していきたいと思います。

佐賀市チャンネル「バイオマス産業都市編」。佐賀市の環境・エネルギーの取り組みをコメディタッチで配信中。
この他、「藻類(ミドリムシ)編」など。