緊急提言 【提言1】

—COP21:国際交渉・国内対策はどうあるべきかー


国際環境経済研究所前所長

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日本は、2010年のCOP16(メキシコ・カンクン)初日に、「米中が削減義務を負わない京都議定書は、全ての主要国が参加する公平で実効ある枠組みにつながらない」との理由で第二約束期間への不参加を表明した。当初、日本は途上国や環境NGOから強く非難されたし、国内の報道も「日本が孤立する」と書き立てたが、米国や主要途上国の参加なくして温暖化問題の実効的解決はないという正論を粘り強く説き、相当の共感を得るに至ったのである。日本のこの断固たる態度は、京都議定書の呪縛を解く一種の「ショック療法」として機能したと言えよう。
COP16で成立したカンクン合意は、先進国、途上国が緩和目標/行動を自主的にプレッジし、それを計測・報告・検証する(MRV:Measure, Report, Verify)というボトムアップ型の枠組みである。それまでの京都議定書にはなかった発想の仕組みが盛り込まれ、京都議定書の欠陥の修正が企図されていた。これが、現在交渉中のポスト2020年枠組みの原型となっており、パリで合意が目指されている2020年以降の枠組みは、基本的にこの構造を踏襲したものになることは疑いがない。
先進国のみが義務を負うトップダウン型の京都議定書第二約束期間からの決別を宣言した日本は、気候変動交渉を支配してきた京都議定書の呪縛を断ち切り、交渉の方向性をボトムアップ型に転換する先導役を務めたことで大きな外交的成果を上げたといえよう。
しかし、COP21に向けては依然、多くの撹乱要因がある。合意の法的形式や法的拘束力については、EU、島嶼国等は、京都議定書のように緩和目標そのものに法的拘束力を持たせた議定書形式を志向している。他方、中国、インドをはじめとする有志途上国は、「共通だが差異のある責任」原則を、約束(プレッジ)内容での差別化にとどまらず、枠組み上も明確にすべきだと主張している。これらはいずれも「京都議定書的なるもの」を新たな枠組みに引き続き持ち込もうというものだ。しかし、前者は米国及び中国の、後者は米国のレッドライン(絶対譲れない一線)を超えるものである。つまり、「京都議定書的なるもの」への固執は米中の離反を招く「失敗へのレシピ」に他ならない。
米国の動向については特に注意が必要である。オバマ政権は地球温暖化問題での自らのレガシー作りを目指しており、COP21での合意作りに積極的に動くものと想定される。これ自体は歓迎すべきことである。しかし、その結果、できあがった合意が2017年に誕生する次期政権にきちんと引き継がれ、実施されるかどうかを見極める必要がある。昨年10月の米中合意が、「中国に譲り過ぎ」との理由で議会共和党から厳しい批判を受けているという事実もある※2。クリントン政権が京都議定書に署名しながら批准手続きを行わず、次のブッシュ政権になって議定書から離脱した苦い教訓を忘れてはならない。COP21の合意の法的形式、内容についてはいまだ不確定要素があるが、仮に国会の批准を要する条約・議定書形式となった場合、2017年以降の米国次期政権のポジションを見極めてから批准を検討すべきである。
現在の世界のGHG排出シェアで約4割を占める米中の参加を欠いた枠組みは、いかに堅牢で環境十全性の高いものであろうとも、地球温暖化対策の観点からは何の意味もない。「全ての主要国が参加しなくとも、何もないよりはまし」といった京都議定書批准時の議論の陥穽に陥ることは厳に戒めるべきである。
図1:GHG排出の各国シェアと将来予想(出所:RITE)

図1:GHG排出の各国シェアと将来予想
(出所:RITE)

※2
緊急提言―米国の削減目標に左右されるな 国際環境経済研究所 主席研究員 竹内純子
http://ieei.or.jp/2015/04/takeuchi150415/

緊急提言【提言2】へ続く

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