次世代電力供給ネットワーク(スーパーグリッド)構想


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 先日、7月3日に早稲田大学環境総合研究センター主催・電力技術懇談会共催講演会「次世代電力供給ネットワーク(スーパーグリッド)のあるべき姿を求めて」を聴講しました。その中で早稲田大学名誉教授・環境エネルギー技術研究所代表の横山隆一先生が「次世代電力ネットワークにおけるスーパーグリッドの意義」について講演された内容が大変興味深かったので、その一部を情報共有したいと思います。
 欧州が取り組むスーパーグリッド構想として、「北海スーパーグリッド構想」と「ローマクラブによるデザーテック(DESERTEC)構想」が知られています。「北海スーパーグリッド構想」は、一つの国でつくられたグリーン電力を、数千キロに及ぶ海底ケーブルを通じて、他国へ送る電力ネットワークを構築するという計画です。2009年9月にスウェーデン政府がホスト国として、「European Policy Workshop on Offshore Wind Power Deployment」を開催し、このワークショップで北海をグリッドで連系することを宣言しました。同年12月にEU9カ国(ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、デンマーク、スウェーデン、英国、アイルランド)エネルギー担当閣僚会議でフォローアップされ、「The North Seas Countries’offshore grid initiative」が発表され、翌年2010年にノルウェーが参加し、10カ国が参加することになり、プロジェクトが進められています。

(図1)出典:英国・スコットランド政府「北海スーパーグリッド構想」

(図1)出典:英国・スコットランド政府「北海スーパーグリッド構想」

 具体的には、北海に建設される洋上風力発電を高電圧直流送電(HVDC)で結び、国家間の電力取引を行うわけですが、例えば、英国の電力需要が低く、風力が速い時に、英国沿岸沖でつくられた余剰風力エネルギーをノルウェーに送って水力発電所の水をポンプで揚げるのに活用する一方、ノルウェーの水力でつくられた電力は、英国の電力需要が高くて風が吹いていない時に英国に送電するなど、国際間の融通を行います。2025年頃には実現化することが期待されていますが、この構想が成功すれば、スーパーグリッド構築の基盤となり、スーパーグリッドが世界各地に広がる契機になるかもしれません。

ローマクラブによるDESERTEC構想

 「ローマクラブによるDESERTEC構想」についてはご存じの方も少なくないかも知れません。DESERTEC構想は、ローマクラブ(※1972年に報告書「成長の限界」を提言するなど、地球の有限性について問題意識を持つ世界の知識人が集まる任意団体)によって提唱されたもので、中東や北アフリカ地域で太陽熱発電や太陽光発電、風力発電等によって発電された電力をHVDC(高電圧直流)送電によって欧州へ輸送し、2050年までに地中海沿岸部や欧州の電力の15%を供給するという計画です。数年前にこの構想を知った時、すごい計画だけれど、「実現までに一体何年かかるのだろう?」「そんなことが本当にできるのだろうか」と思いました。ところが、意外にもプロジェクトは進んでいたのです!

(図2)出典:DESERTEC FOUNDATION「ローマクラブによるDESERTEC構想」

(図2)出典:DESERTEC FOUNDATION
「ローマクラブによるDESERTEC構想」

 講演では、DESERTEC構想の進捗状況として、「スペイン-モロッコ間」「アルジェリア-スペイン間」「チュニジア-イタリア間」のHVDC(高電圧直流)送電の実用化研究段階が進んでおり、「スペイン-モロッコ間」では既に400MWの連系線が2本つながったと解説されました。ヨーロッパと中東、北アフリカを相互に結ぶ電力システムの中で、効率的に再生可能エネルギーをスマートミックスするためには、①北アフリカと中東の砂漠における太陽熱発電、②北西アフリカ、北ヨーロッパ、西欧沿岸の風力発電、③日照の多い地域における太陽光発電、④アルプス山脈、ピレネー山脈、アトラス山脈の山岳地域における水力発電、⑤地理的条件に合致する場所でのバイオマスおよび地熱発電、というように異なった再生可能エネルギーが偏在していれば、過不足融通できるようになります。低ロスで長距離輸送が可能なHVDC送電線のスーパーグリッドで、ヨーロッパ、北アフリカ、中東間の相互接続は可能になり、砂漠から再生可能エネルギーを送電するという壮大な夢の計画は実現不可ではないのです。
 ただ、デザーテック構想に関する最近の調査報告や報道をいろいろ調べてみると、当初の計画では膨大なコストがかかるため、一部ネットワークの規模の縮小やエネルギー貯蔵技術を導入するなど、現実路線に切り替えてプロジェクトを推進していくのではないかという見方が強まっています。

(図3)出典:デザーテック財団「DESERTEC構想に有効な太陽熱発電所」

(図3)出典:デザーテック財団「DESERTEC構想に有効な太陽熱発電所」

日本のスーパーグリッド構想

 では、日本のスーパーグリッド構想はどうなのでしょうか?2つのスーパーグリッド構想を紹介したいと思います。ソフトバンクグループ創業者で自然エネルギー財団設立者の孫正義氏と環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は、日本国内の「スーパーグリッド構想」と、将来的には日本を含めアジア各国を大容量の高圧送電線で連結し、互いに電力を融通する「アジアスーパーグリッド構想」を提唱しています。北海道の稚内から九州の福岡まで広域横断連系—直流の基幹線を整備することにより、東西で異なる周波数問題がなくなり、例えば稚内で発電した太陽光や風力による電力を首都圏やその他の各地に送ることが可能になるといいます。

(図4)出典:自然エネルギー財団「アジアスーパーグリッド構想」

(図4)出典:自然エネルギー財団「アジアスーパーグリッド構想」

 もう一つは、「東アジアスーパーグリッド構想」です。この構想は、日本創成会議(座長:東京大学大学院客員教授・元総務相 増田寛也氏)が提唱しているもので、孤立している日本の電力網(グリッド)を外国と相互接続し、国境を越えて電力を融通しあう仕組みです。手始めに、韓国との間で双方のグリッドをつなぐ海底ケーブルを敷設する計画を提案しています。基幹ケーブルは、日本の電力会社が東西各地で運用するグリッドに、交流・直通変換設備を介して接続するというものです。

(図5)「東アジアスーパーグリッド構想」

(図5)「東アジアスーパーグリッド構想」

 国家間の政治的な問題などがあり、アジア各国と連系した電力ネットワークの実現化は厳しいというのが実情でしょうが、将来的な夢として、その可能性は抱いていたいです。エネルギーを依存し合える関係になれば、対立ではなく、国家間の相互理解につながることも期待しつつ・・・。