COP21に向けての重要な提案:化石燃料消費の節減こそが求められなければならない(その2)

世界の化石燃料消費の節減こそが、地球環境保全のための世界的な合意の主題でなければならない


東京工業大学名誉教授

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化石燃料消費を節減すれば、CO2の排出が原因とされる地球温暖化の恐怖は防げる

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5 次評価報告書の内容を解析した結果から、今世紀中の地球上のCO2 の累積排出量を4兆トン以下に止めることができれば、地球地上気温の上昇幅を、人類が何とか我慢できる2℃以内に抑えることができることが判った。一方で、地球上の化石燃料の確認可採埋蔵量の値から、これを全量使い切った時のCO2の累積排出量は3.31 兆トンと計算される。ここで、確認可採埋蔵量とは、現在の科学技術と経済力で採掘可能な埋蔵量である。したがって、世界が、現在の確認可採埋蔵量を超えることのない化石燃料の消費に止めれば、IPCCが訴える大変なことになるような温暖化は起こらない(以上、文献2-1 参照)。
 いま、世界が現在(2011年)のCO2排出量 31,811 百万トン/年(文献2-2から)を継続したとして、累積CO2排出量が、確認可採埋蔵量から計算される値3.31 兆トンに等しくなるまでには104年かかると計算される。したがって、今世紀末まで、世界が、CO2の排出量を、年間平均で現在の値以下に抑えることができれば、地球生態系に脅威を与える上限の地球地上温度上昇幅を確実に 2 ℃以下に抑えることができる。と同時に、今世紀いっぱいは、化石燃料を、何とか使えることになる。

各国の一人当たりの化石燃料消費量を等しくする公平性の原則にたって、世界の化石燃料資源の保全を考える

 いま、地球資源としての化石燃料の保全のために必要な各国の化石燃料消費量の目標を決めるにあたっても、地球温暖化対策としての各国のCO2排出量について途上国が主張する公平性の原理に従うこととする。すなわち、各国の一人当たりの今世紀中の平均の化石燃料消費量を、現在(2011年)の世界平均値 1.43 トン石油換算/人/年に抑えるとする。ただし、各国の人口が増減すれば、化石燃料消費量も増減するから、それぞれの国の人口の増減に応じて、一人あたりの化石燃料消費量の目標値を増減するものとする。これは、人口対策も化石燃料消費節減のために重要な要因と考えるからである。なお、この目標値は、今世紀末までの平均値なので、世界の化石燃料消費量が年次増加を続けている現状を考慮して、この目標達成の時期を2050年とし、各国がこの目標達成のための努力をすべきであるとした。
 IEA(国際エネルギー機関)のデータ(文献2-2)から世界の化石燃料消費量の大きい各国の一人当たりの化石燃料消費量(石油換算の値)の年次変化(1971 ~ 2011年)を図2-1に示した。この図2-1 には、上記した50年の世界各国の一人あたりの化石燃料消費量の目標値として、2011年の世界の一人あたりの値(1.43トン石油換算/人/年)も図中の星印で示した。
 この図2-1から、世界各国が50年の一人あたりの化石燃料消費の目標値を2011年の世界平均の値に近づけるためには、先進諸国では高い化石燃料消費の節減比率の値が求められることが判る。同時に、新興国でも、すでに一人あたり化石燃料消費量が世界平均を上回っている中国には、かなり高い値の化石燃料消費の節減が要求されなければならない。一方、現状で一人当たりの化石燃料消費量が世界平均を下回っているインドは、50年に向って化石燃料消費を増加させる余地が残されている。しかし、実は、その実行は、必ずしも容易ではないと考えるべきである。それは、現状の世界の化石燃料消費の増加が続く限り、資源が枯渇に近づき、50年頃には、化石燃料の国際価格がかなり上昇すると予想され、使いたくとも使えなくなることが考えられるからである。

図2-1

COP21で、世界の合意を得るための各国の化石燃料消費の節減目標を提案する

 先に述べたように、世界中が、特に、経済力のある先進国と一部の新興国(中国やロシア)が、経済力にまかせて、化石燃料の大量消費を継続すれば、IPCCが訴える地球温暖化の恐怖が起こる前に、確実に化石燃料資源の枯渇が起こる。ただし、ここで、枯渇とは、価格が上昇して、貧困国では使いたくとも使えなくなることである。現在でも、化石燃料の供給の不均衡に伴う各国間、および国内の貧富の格差の拡大が、国際間のテロや内乱を招いていると言ってよい。
 世界中が協力して化石燃料消費の節減に努めれば、上記したように、確実に、CO2の累積排出量の増加が抑えられ、IPCCが主張する地球温暖化の脅威が抑制される。したがって、図2-1を基にして考える各国の化石燃料消費量の節減目標の設定を、いま、停滞している来年(2015年)末のCOP 21(国連気候変動枠組み条約の締約国会議)での日本の提案としたい。具体的には、50年を目途に、各国の一人あたりの化石燃料消費量を、2011年の世界平均の一人あたりの値に近づける努力をすることである。
 ここで提案する化石燃料消費量の節減は、化石燃料を大量に消費してきた先進諸国に、一方的に、その消費の節減を要請するものであるが、その結果として、現在の経済成長の継続に必要な化石燃料の国際価格の上昇が抑えられるから、途上国には、この提案に対して反対する理由が見当たらない。とは言っても、化石燃料消費の増加が許される途上国では、いくらでも増加してもよいわけではない。いま、途上国には、人口増加の問題がある。先にも述べたように、化石燃料消費量の増加を抑えるためにも、途上国には、人口増加の抑制努力が義務付けられなければならない。

<引用文献>

2-1.
久保田 宏:IPCC第5 次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その1)地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である、ieei 2014/01/15
2-2.
日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2014 年

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