吉田調書を安全対策の柱にせよ


国際環境経済研究所前所長

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≪事故で得た教訓提供が責務≫

 世間には吉田元所長の指揮ぶりを礼賛したり、所員の対応の勇敢さを褒め讃える声がある。しかしこの調書はそうした「物語」造りのために存在するのではない。ましてや、所長や所員個々人のミスや判断の誤りを、後知恵で掘り起こして批判するものでもない。

 吉田調書の公開は、事故調査の原則からすれば賢明な措置だとは思えないが、公開された以上、今後の安全対策に徹底的に活用すべきものである。この調書に加えて、既に公開されている東京電力内部のテレビ会議を併せて観察することによって、原子力発電所の事故時の対応に備えた組織・人員・設備・通信・輸送など、あらゆる側面での対策の方向性が明確になる。それにより、今後の原子力安全に対する関係者の認識や組織の安全文化の刷新につながることに期待したい。

 東京電力も、事故後、原子力改革監視委員会を外部に設置して組織全体で安全文化改革に取り組んでいるが、事故から得られた知見や教訓を他の電力会社や世界の原子力事業者に対して提供していくことが同社の責務である。それこそが吉田元所長自身が心から望んだことだろう。