久しぶりのボン(その1)

-省エネ専門家会合に出席-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 2014年2月半ば頃、UNFCCC(気候変動枠組み条約)事務局の旧知の友人から一通のメールが届いた。3月半ばに開催されるADP(ダーバンプラットフォーム特別作業部会)において省エネと再生可能エネルギーの専門家会合を開催するが、そのファシリテーターになってくれないかという依頼である。ADPでは2020年以降の新たな枠組みについて交渉が行われているが、もう一つの柱は各国の野心のレベルを向上させるために何ができるかという点であり、省エネ、再生可能エネルギー推進における各国の知見を共有したいということで専門家会合が設置されることになったのだという。

 専門家会合には省エネ、再生可能エネルギーそれぞれで4コマ(1時間半×4)の時間が割り振られているが、それと平行して将来枠組みの交渉も行われる。現役交渉官の多くは後者に注力することになるため、私のような予備役将校にお呼びがかかったのだろう。IEAや資源エネルギー庁でのエネルギー分野での経験も買われたのかもしれない。

 ショートノーティスの依頼ではあったが、省エネ専門家会合であれば、前後のスケジュールをやりくりすれば出席できそうだった。またAPECや東アジアサミットのプロセスで省エネのプロファイルを上げるための議論を主導した経験もあった。ということで久方ぶりのボン出陣と相成った。

 3月11日夜にボンに入り、12日朝、ADPの共同議長であるアルトウール・ルンゲメツカー氏(欧州委員会)とキシャン・クマルシン氏(トリニダード・トバゴ)、再生可能エネルギー専門家会合のファシリテーターであるヨウバ・ソコナ氏(African Climate Policy Centre)、事務局スタッフと打ち合わせを行った。会場は国連キャンパスで、良くも悪くも色々な思い出のあるマリティムホテルではなく、ちょっと寂しい思いがした。共同議長のルンゲメツカー氏もクマルシン氏も交渉官時代からの知り合いであり、私をファシリテーター候補として考えてくれたのはその縁であろう。打ち合わせの際には、既に3月10日から議論を開始している再生可能エネルギー専門家会合のソコナ議長から進捗状況の報告があった。先進国、途上国、国際機関等からのプレゼンテーションを踏まえ、議論という形式なのだが、プレゼンターの中には予定時間を大幅に超えて長広舌をふるったり、G77の内部打ち合わせのために時間通りに開始しなかったりして、会議運営に相当苦労している様子が垣間見えた。

 その後、再生可能エネルギー専門家会合の最終セッションに出席したが、案の定、時間通り始まらない。ソコナ議長は業をにやして開会しようとしたが、欧州委員会等が「途上国のメインプレーヤーが参加していない中で開会しても無意味」とコメントし、結局開始したのは予定時間を1時間近く経過してからだった。それでもソコナ議長は「途上国における再生可能エネルギー拡大を図るために何が必要か」「国連を含む多国間プロセスはそのためにどのような貢献ができるか」という点を中心に、精力的に議論を喚起し、ファシリテーターとしてのサマリーを行って議事を終了した。各国からの出席者はほぼ同じ面々になるので、午後から開始される省エネ専門家会合を進める上で、再生可能エネルギー専門家会合の観戦は大いに参考になった。

 午後はいよいよ私がファシリテーターを務める省エネ専門家会合の開始である。国連プロセスで議長もしくはファシリテーターを務めるのは初めてであり、正直、不安もあったが、唯一の安心材料は、合意文書をとりまとめる必要がないことであった。基本的に各国の知見を持ち寄るワークショップスタイルのものであるため、ファシリテーターとしてのサマリーも文言調整をする必要はない。また途上国を含めて省エネの議論をするということでは、東アジアサミットプロセスでエネルギー専門家会合の共同議長を務めたこともあるので、何とか乗り切れると思っていた。

省エネ専門家会合全体風景

 12日午後から13日午前、午後にわたる専門家会合では各国、国際機関からのプレゼンテーション+質疑応答と「途上国において省エネを更に進めるために何が必要か」「そのために国連を含むマルチのプロセスでどのような貢献ができるのか」という議論を行った。各国からのプレゼンは南ア、コロンビア、日本、シンガポール、デンマーク、インド、国際機関からのプレゼンはIEA(国際エネルギー機関)、IPEEC(国際省エネ協力パートナーシップ)、UNEP(国連環境計画)、GEF(地球環境ファシリティ)、EBRD(欧州復興開発銀行)、世銀等である。これに加え、国連事務総長の肝いりで作られたSE4ALL(全ての人々のための持続可能なエネルギー: Sustainable Energy for All)や、持続可能な低炭素運輸パートナーシップ、都市間パートナーシップのC40 for Cities が参加した。

 ファシリテーターとして最も苦労した点はタイムマネジメントである。全体で6時間の枠の中で15人のプレゼンターがいる。プレゼンテーションはあくまで議論の材料であり、プレゼンテーションと質疑応答だけで終わったのでは意味がない。それを踏まえた全体討議にまとまった時間を確保する必要がある。そのためには各スピーカーに10分という持ち時間を厳守してもらう必要があるが、この手のワークショップの常として時間を超過しがちである。しかも途上国がG77内調整を行っている間は開会できないので、6時間という枠は実質上4時間半くらいに目減りしてしまった。このため、ファシリテーターは常に時計とにらめっこしながら、会議終了時間の6時を越える時間延長を出席者にお願いする等して、タイムマネジメントに汲々とすることになる。

 もう一つ苦労した点は、各セッションをどう締めくくるかだった。プレゼン+質疑応答の後、全体討議をするのだが、その後でファシリテーターとして、それなりに議論を反映したサマリーを口頭で行う必要がある。各自のプレゼン内容を事前に入手していたため、大まかなラインを事前に用意しておくことはできるが、会議は生き物であり、どちらに転がるかわからない。手元のメモに会議中に出てきた主要な論点を書きとめ、各セッションのサマリーに反映させるよう心がけた。

 2日間の専門家会合を通じての主要なサマリーと私が感じたことについては次回に記すこととしたい。

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