IPCC第5次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その3)の記述の一部の誤りのお詫びと、訂正のお願い。


東京工業大学名誉教授

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 先に私が本ieeiのウエブサイトへ投稿した論考「IPCC 第5 次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その3)第5次報告書の信頼性を失わせる海面水位上昇幅予測計算値の間違い(文献1)」に対して、このIPCCの第5次評価報告書第一作業部会報告書の主著者の一人である国立環境研究所の江守正多氏から、「この海面水位の上昇の計算値には間違いがない」とのご指摘を受け、その理由について、同氏からメール上でご説明をいただき、私もその説明を定性的には了承致しました。
 私が、IPCCの海面水位変化の予測計算値を「計算間違いではないか?」と疑問に思ったのは、地球温暖化による海面水位の上昇は地球気温の上昇による陸氷の溶解によってのみ起こると考え、「同じ気温上昇幅の値に対する海面水位の上昇幅の今回の第5次報告書(AR5)の値が、先の第4次報告書(AR4) の値の2倍程度にもなっている(原報文献1の図3.3参照)理由が判らないので、これはおかしいと思ったからです。これに対して、江守氏から、この違いは、AR5では、陸氷の減少への力学的な影響が追加的に考慮されているほか、海水の熱膨張などの諸因子も地上気温上昇とは単純に比例しないためで、このことは、「政策決定者向け要約」には記述されていないが、「技術要約」を読めば理解できるはずであるとのご説明をいただいきました。その上で、「政策決定者向け」だけを読んで「計算間違いだ」と「決めつけて」批判するのは不適切だとのご批判を受けましたので、私は、この不勉強を率直に反省させて頂き、原報の表題および本文小見出しのなかで、「・・・計算間違」と決めつけるような不適切な表現を用いたことについて、これを読者の方にお詫びするとともに、「・・・計算間違いだ」とした部分について、「計算間違ではなかったとの江守氏からご説明を受けて、これを了承した」と訂正させていただきます。
 ただし、この海面水位の変化の予測値については、それが科学的に実証されたものではないことを付記させて頂きます。それは、先ず、第一に、IPCCが主張している人為的なCO2の排出に起因する地球温暖化が起こらなければ、報告書で予測値として与えられている海面水位の上昇は起こらないはずだからです。次いで、この海面水位の上昇の問題だけでなく、その原因となる地球気温の上昇についてのIPCCの予測計算値についても、ともに、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションモデル計算の結果として算出されたものであり、この予測値で与えられる海面水位の上昇、および、それをもたらす地球気温上昇(温暖化)の値が正しいかどうかは科学的に実証されていません。地球気候変動のような大規模で複雑な現象を対象とするこのシミュレーモデルによる予測計算には、その結果を左右するいくつもの因子を考慮した条件の入力が必要です。しかし、このIPCCのモデルには、人為起源のCO2に起因する以外の自然の周期的な気候変動などの因子が適切に考慮されていないのではないかとの、いわゆる地球温暖化懐疑論者による指摘があります。したがって、もしかすると、これから、この懐疑論者の主張する地球寒冷化が起こるかもしれないのです(文献2参照)。もちろん、この懐疑論者の言う寒冷化説も科学の仮説です。一方、IPCCの主張する地球温暖化のCO2原因説も、IPCC所属の研究者らが認めているように科学の仮説です(文献3)。この両者の科学の仮説のいずれが正しいかどうかの判断は、実際の観測結果に待つ以外にありません。
 IPCCは、今回の第5次評価報告書の第二作業部会報告書でも、温暖化の脅威は不可逆的だから、いますぐ、それを防ぐためのCO2排出削減のための行動をとIPCCが訴えているとの報道がなされてますが、実際に温暖化の脅威をもたらす気温上昇の観測結果が出てくるのは、まだずっと先のことです。これに較べて、まもなく寒冷化がやってくるかもしれないと懐疑論者は主張しています。この主張が正しかったとすれば、いま、あわてて、地球温暖化の防止に本当に役立つかどうか判らないCO2排出削減を直接目的とした行動をとるのではなく、CO2排出の原因となっている化石燃料の大量消費の継続の結果として、必ずやってくる化石燃料資源の枯渇(文献2 参照)に備えて、この化石燃料消費の節減のための世界各国の協力を求めることが必要となります。私自身もこうした捉え方をしていることを、これまでもたびたび主張してきています(文献4参照)。これが、もし、IPCCの主張が正しかったとしても、結果として、CO2の排出削減を通して温暖化を防止できる唯一の方法となるはずです。

<引用文献>

1.
久保田 宏:IPCC 第5 次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その3): 第5次報告書の信頼性を失わせる海面水位上昇幅予測計算値の間違い、ieei 2014/01/27
2.
久保田 宏:温暖化よりも怖いのはエネルギー資源の枯渇だ、ieei 2014/03/14
3.
明日香寿川他(含む江守正多):地球温暖化懐疑論批判、東京大学、2009年
4.
久保田宏:地球温暖化対策の不要が、「脱化石燃料社会」への途を開く―ポスト京都議定書の国際協議に向けて、ieei 2014/05/07