Power Purchase Agreement(電力購入契約)


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 Power Purchase Agreement(電力購入契約)は、もともと米国で発電事業者が電力事業者に電力を卸供給する時に結ばれる契約であったが、最近では太陽光発電やコージェネレーションといった分散型電源からの電力を消費者に直接供給する時に利用される一種のファイナンス方式になっていて、FERC(連邦エネルギー規制委員会)もこれを規制の対象に入れているようだ。
 例えばコージェネを設置しようとすれば、従来であればそのユーザーが設備費を準備し、運転要員も確保しなくてはならない。だが、PPAにすれば、設置する事業者が資金を調達し、長期に亘る運転管理も行い、そのコストを設置事業者が負担することになる。そして、このプロジェクトが10年継続するとすれば、その期間に必要な資金調達や運転管理費、リスク負担も含めたコストをカバーする契約が結ばれ、ユーザーは契約条件に従った金額を料金として支払うことになる。
 現在米国連邦政府はコージェネレーションの普及を促進させるという方針を出しているが、自ら設置をしない電力供給事業者は売上げを減らす源になるとして積極的ではないらしい。しかし、コージェネ設備事業者がユーザーに電力と熱を直接供給し、料金として回収する方式の一つとしてこのPPAに関心が高まっているようで、天然ガス価格の長期的低下期待も有利に働いて、コージェネを電力ユーザーが自分の保有する敷地内に設置させたうえで、この長期の契約を結べば、ユーザーは話し合いで決めた料金のみの負担で済むのが、今後のコージェネ普及の鍵の一つとなると言われている。
 その典型事例は、シリコンバレーにあるブルーム・エナジー社が200キロワットを一つのユニットとする固体酸化物電解質燃料電池(SOFC)を販売している方式だ。いま、Googleのようにデータセンターを多く稼働させている企業や、ウオールマートのように電力消費の多いショッピングセンターなどの敷地内や近傍に、千キロワット前後のようにまとまった規模の燃料電池を設置しているが、その設備費、運転管理費などは全てブルーム社が負担し、このSOFCは熱回収をしないモノジェネだから、ユーザーは長期に電力を同社から購入する契約を結ぶだけである。資金調達、設備設置、運用などは全て設備供給をするブルーム・エナジーが対応しており、一種のプロジェクト・ファイナンスを行っていることになる。
 この場合、購入電力料金は、必ずしも電力会社から購入するよりも安いとは限らない。しかし、送配電系統の信頼性が低い米国では、質の良い電力の安定供給を契約で保証されることに料金を払うのを一種の保険料として解釈してもいるようで、ブルーム社は多くの大規模ユーザーを獲得している。この燃料電池の発電効率が50%以上と高いことは、これを設置した企業がCO2排出量削減に貢献という好イメージを社会に与えることも、電力購入契約の料金設定に考慮されていることは当然だろう。
 日本でも、昨年から同社の燃料電池を扱うことになったソフトバンクが既に200キロワット規模で発電事業を開始し、まず自社ビルに設置し稼動させているが、発表されている供給電力価格は必ずしも安いわけではないにもかかわらず、引き合いが多いといわれている。ここでソフトバンクが行っているのがこのPPAの日本版である。
 このPPAを日本でコージェネを普及させるのに普遍的な方式として採用できないだろうか。既に適用されているケースもあるかもしれないが、現在電力消費が比較的大きい事業者には、自家発設置によって電力の安定的供給を自ら確保しようとする潜在需要が大きくなりつつあるし、政府もコージェネ普及に補助策も準備して本格的な普及を促進しようとしている。ただ、設備資金調達などが制約になることも多いようだ。
 コージェネの場合、排熱利用によるメリットをどのように料金に反映させるかという難しさがあるかもしれないが、PPAの内容を工夫することによって、ユーザーが資金調達や設備の運転管理に関わる煩わしさやリスクを低減できることは魅力になるだろう。既にPPAが導入されているケースもあるとも聞くが、送配電系統の負荷を下げることが評価される契約内容にするケースも想定できるだろう。そして、業務用だけでなく、家庭用のコージェネであるエネファームなどにも、独自のPPAが成立するような制度設計がなされれば、太陽光発電向けの屋根貸しに似た、エネファームの敷地貸しも考えられるかもしれない。
 コージェネの総合効率の高さは、日本のエネルギー自給率向上にも貢献するのだから、官民連携した日本独自のPPSを具体化できないだろうか。

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