再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を


東京工業大学名誉教授

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導入設備量と設備認定量との大きな違い

 表1 に示した資源エネルギー庁による再エネ発電設備の導入状況の「導入」とは、(運転を開始したもの)とある。問題は、この導入設備容量の値と、同時に発表されている設備認定容量の値の余りにも大きな違いである。FIT制度による高い電力の買取価格(設備の設置事業者にとっては販売価格、認定時の価格が設備の使用期間中保証されることになっている)を確保するために、認定を受けただけで実際の設備稼働を様子見しているケースが多いとは以前から聞いていた。最近、朝日新聞(2014/2/15)が、現状で実際に稼働しているのは設備認定容量の約1/5しかない、資源エネルギー庁は、稼働を遅延させている悪質なケースについては認定取り消しの処分を行うなど、制度の見直しを行うと報じた。
 この信じられないような報道内容について、早速、資源エネルギー庁再エネ推進室の担当者に問い合わせたところ、この事実には資源エネルギー庁も大きな危機感をもっていて、制度見直しの委員会を設置するなど、対策を急いでいるとのことであった。しかし、一体、何を見直そうとしているのであろうか?もともと、FIT制度による再エネ電力の買取価格は、この再エネ電力の生産が収益事業として成立するように決められたはずである。したがって、事業認定を受けた設備は、直ちに運転を開始する方が経営的に有利なはずで、それができないようなケースであれば、認定が受けられない仕組みが初めからできていなければならなかった。
 いま、このFIT制度を先行実施したEUの諸国では、この制度による再エネ電力の生産量が増え過ぎて、買取価格の順次引き下げが行われたが、それでも、これまでの累積的な電気料金の値上げに対する市民の反発が、この制度存続の先行きを不明にしている。

再エネ電力は原発電力を代替できない

 再エネ電力は、もともとは、地球温暖化対策として、また、原発事故後は、原発電力の代替として開発されてきた。したがって、その効用の評価は、表1に示す資源エネルギー庁の公表資料に見られるように設備容量(kW)の値によってではなく、この設備容量(kW)の値に、それぞれの再エネ電力の種類により異なる年間平均設備利用率の値を乗じた、次式で計算される発電可能量(kWh)の値と、国内の消費電力(kWh)との比較で行わなければならない。

 (発電可能量 kWh)=(設備容量kW)×(年間平均設備利用率)
          ×(年間時間 8,760 h/年)           ( 1 )

ここで、再エネ設備の年間平均設備利用率の値は、例えば太陽光では夜間は利用できないため、風力では風が吹かないと使えないなどの各再エネ電力種類ごとの設備利用効率を表す数値である。
 環境省の再エネ電力導入ポテンシャルの調査報告書(文献1)から求めた各種再エネ電力生産設備の全国の年間平均設備利用率の推定値を用いて、平成25年11月末(FIT制度施行後17ヶ月)の時点での発電可能量の値を( 1 ) 式を用いて計算した結果を表2に示した。
 この表2から、先ず、合計発電量の1 年分(17ヶ月後の値を12/17 して求めた)の値 4,647百万kWh は、原発事故以前の2010年度の国内発電量合計 1,156,888 百万kWh(文献2から)の僅か0.40 %(= 4,647 / 1,156,888)にしかならないことが判る。また、同年度の原子力発電量の値 288,230百万kWh(合計発電量の24.9 %、文献2から)を、全量再エネ電力で賄うとして、その設備容量増加が、この表 2の数値で与えられる伸び(4,647/年)に止まるとしたら、62 (= 288,230 / 4,647 ) 年もの歳月が必要になる。また、上記したように、現在、認定を受けた設備が全て稼働したとしても、この再エネ電力での原発代替には、9.4 (=288,230 / 38,780 )年かかる。
 しかしながら、いま、政府の発表やメデイアの報道で、電力については、表1 に示すように設備容量(kW)の値での表示が用いられている。したがって、2010年の原発の設備容量 4,896 万kW(文献2 )を再エネ電力で賄うためには、表1に示される設備認定容量の伸び 3456 (= 2,796,9×12/17 ) 万kWで計算すると2.48 ( = 4,896 / 3456) 年で済むことになり、このFIT制度による再エネ電力で、何とか原発電力を賄うことができるとの大きな錯覚を与えることになってしまう。これは、( 1 ) 式における再エネ電力の設備容量と発電可能量との関係を結びつける年間平均設備利用率の値が10.4 % と小さい太陽光発電が、表2 に示すように、発電可能量全体の86.6 ( 26.6 + 60.0) %もの大きな比率を占めるためである。恣意的に、このような設備容量による表示を行っているとは思いたくないが、実は、この電力の設備容量による表示が、再エネ電力の導入を目的としたエネルギー政策のなかに取り入れられたFIT制度の効用を論じる場合の大きな暗部になっていることを指摘しておきたい。

表2 FIT制度施行前後の再エネ電力の発電可能量(参考;再エネ導入ポテンシャルの値)
(表1の資源エネルギー庁発表のデータおよび文献3の知見をもとに計算、作成)

注:
 
*1 :
環境省の調査報告書(文献1)のデータをもとに各発電設備ごとに全国平均として求めた値(文献3参照)
*2 :
表1のFIT制度施行後 17ヶ月目の導入設備容量の値から本文中 (1) 式を用いて計算した値
*3 :
表1に示したFIT制度施行後17ヶ月目の設備認定容量の値から本文中 ( 1 ) 式を用いて計算した値
*4 :
表1 に示したFIT制度施行前の導入設備容量の値から本文中 ( 1 ) 式 を用いて計算した発電可能量の値
*a1:
環境省の調査報告書(文献 1)の導入ポテンシャルの値から本文中 ( 1 ) 式を用いて計算した各再エネ設備の発電可能量の値(文献3 から)
*a2:
同上の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率
*a3:
風力発電(陸上)と風力発電(海上)の合計値
*a4:
国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、製材用材、パルプチップ用材等に使われた残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の発電量の推算値(文献4から)