“議長”のお仕事(第1回:その0〜1)


国際環境経済研究所主席研究員

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1.委員会運営

 冒頭、議長はエライ、と書いたが、それはその通りである。例えば、筆者が2月6日に非公式の委員会を開催したのだが、(写真1)のとおり、一枚サイン付きのレターを出せばWTO加盟国全て注5)を会合に招集することが出来る。これは非公式会合ではあるものの、実際は、3月の公式会合で決めていく事項の実際の前捌きとなるので、事実、日米EU等は本国からわざわざ管理職クラスの交渉官を送り込んできた。

写真1

 こうした委員会の場合、公式/非公式を問わず、事務局がいわゆる議事進行メモ(写真2:Chair’s note)を用意してくれる。この辺りは、Non-Native English Speakerにとっては涙が出るほど有り難く、このメモをベースに事前準備をするし、実際の委員会でもそれに従って議事進行を行う。この辺りは、万国共通なのか日本の審議会でもよく見られるスタイルであろう。

写真2

 しかし、いつも悪戦苦闘するのが委員会の最後のとりまとめ(Chair’s conclusion, Wrap-Up, summary)である。日本の審議会ではとりまとめも事前原稿通りにいくことが多いのかもしれないが、筆者がいつも手にするChair’s Noteにサマリーは記載されていない。というか、記載されているのだが、議論に応じて議長の好きなように(as you wish)まとめてくださいな、としか書かれていない。もちろん、事前に事務局とは議論をして、どのようなパターンでまとめるかシュミレーションをする。しかし、あくまでもシュミレーションであって、本番がそのようになることは全く無い。想定外がほとんどである。したがって、写真3のように、議事進行をしながら、どのようにまとめるかメモを手書きで書きながら、あーでもないこーでもないと思いめぐらせ、その場で「まとめ」の発言案をドラフトし(悲しいかな)横に座る事務局(この世界で10数年という猛者がほとんど)に「こんな感じでまとめていいですよね」なんて聞くのである。(写真4、5参考。壇上真ん中が筆者。両サイドを事務局が挟む。)事務局は、もちろん「いやいや議長の思う通りで結構ですよ」なんて言うのだが本当にそうか不安なので、会議の後に結構主要国に感想を求めにいく注6)ものである。その辺りは、WTOはMembers’ drivenの組織と言われており、事務局が議論を主導することは基本的に無く、その辺りのリスク回避という事務局の長年の知恵でもある。

写真3


 なんだかんだ言ってもやはり、エライ議長には苦労も付き物なのである。

(TBT議長として、3月頭にナミビアで開催されるワークショップでプレゼンしてほしいとのことで、招聘を受けた。これも議長のお仕事。次回にてレポートしたい。注7)

 なお、本文中、意見にかかる部分は筆者の個人的見解であり、所属する組織等を代表するものではない。

注1)
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部勤務。
注2)
Committee on Technical Barriers to Trade(WTOの一つの協定であるTBT協定に基づく委員会。いわゆる“非関税障壁問題”を扱う委員会である。)
http://www.wto.org/english/thewto_e/secre_e/current_chairs_e.htm
注3)
いわゆるカレンダーイヤーで一年任期となる。通常、委員会の公式会合は年数回開催される。TBT委員会の場合、3月、6月、10月頃に開催され、通常は3月の委員会終了後に新旧議長が入れ替わることになる。
注4)
筆者が争ったTBT委員会の場合には先進国から3名が立候補した。このことからも途上国は自分たちのローテーションではないと認識していたことが分かる。
注5)
現在159メンバー。イエメンが160番目として批准手続中。
注6)
こういうときに、向こうから労をねぎらいに来てくれるのは、アジア諸国であることが多い。やはり、ご近所は大事にすべきである。
また、他の委員会では行われていないことだが、TBT委員会では私の議長時代は、会議終了後に議長レセプションなるものを実施し、各国から集まる担当官に、寿司やらお酒やらを振る舞っている。議論の中身には影響しないが、やはり万国共通、相互理解を深める一助になっている。この辺りは次々回に記してみたい。
注7)
シリーズ化することはないが、3回程度、このテーマで書いてみたい。

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