ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第2回)

ミッシングマネー問題対策としての容量メカニズム、日本における意義


Policy study group for electric power industry reform

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2-4 容量メカニズム導入の目的と意義

 容量メカニズムを導入する目的は、一義的には、安定供給のために日本全体で必要な供給力を中長期的に確保することである。容量メカニズムを定義すると、「電気の供給力(kW)を維持している価値(kW価値)のみを評価して何らかの対価が支払われる仕組み」となる。実際に発電をしてどれほど電力量(kWh)を産出したかとは無関係に、安定供給のために必要と判断されるkWに対し、対価を支払うことで、ミッシングマネー問題を解消、あるいは緩和する。これにより、安定供給上必要な既存の電源が不採算となって退出することを防止するとともに、投資回収の予見性を高めることにより、新規の電源投資を促すことを狙っている。

 他方、政府が進めている電力システム改革の方向性を踏まえると、容量メカニズムには、次の2つの意義もある。

 第一に、安定供給へのフリーライダーを排除することである。
 先に述べたように、小売事業者に対する供給力確保義務は、日本全体で必要なkWを担保するものではないが、逆に、日本全体で必要なkWが確保されていれば、kWを保持していない小売事業者は卸電力市場における取引を通じて供給力確保義務を果たすことが出来る。しかし、市場価格による取引でミッシングマネーが発生し、必要なkWが固定費を十分に回収できないならば、それは、卸電力市場における電気の買い手が、本来負担すべき固定費を十分に負担していないことを意味する。

 電力システムの供給信頼度には、公共財的な性格がある。一旦同じ電力系統に接続されれば、全ての系統利用者にとって供給信頼度は共通である注10)。これは、必要なkWを確保するための固定費を負担していても、十分負担していなくても共通である。つまり、電力システムは、安定供給へのフリーライダーが生じやすいシステムであり、これを放置することは、競争環境の公平性の観点から望ましくない。他方、容量メカニズムにおいて、kWに対して支払われる対価の原資は、全ての小売事業者が所定のルールに基づいて分担するので、容量メカニズムは、安定供給へのフリーライダーを排除する仕組みと言える。

 第二に、広域メリットオーダーの実現に資することである。
 広域メリットオーダーとは、電力システム改革専門委員会(2013)では、「最も効率的で価格競争力のある電源から順番に使用するという発電の最適化を、事業者やエリアの枠を超えて実現すること」と定義されている。これは、現在存在するkWを所与とすれば、日本全体の電力供給コストを最小化することになるので、日本全体にとって利益をもたらすものである。電力システム改革専門委員会(2013)は、この広域メリットオーダーを、卸電力市場を活用することにより実現するとしている。つまり、市場取引を通じて、当初稼働する予定であった可変費の高いkWが、余っていた安いkWに差し替わることを期待しているわけであるが、こうした差し替えが起こるためには、市場への売り入札が可変費(≒短期限界費用)に近い価格で行われる必要がある。市場のプレイヤーがこのように行動するには、各小売事業者が相応にkW価値を負担しあっている状況(フリーライダーが排除されている状況)を確保する必要がある。容量メカニズムは正にこの状況を作り出すものである。

注10)
スマートメーターが普及すれば、同一系統に接続されていても、供給信頼度を差別化することが、技術的に可能になる。
<参考文献>
・The Brattle Group(2012) “ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy
・電力システム改革専門委員会(2013) 『電力システム改革専門委員会報告書
・経済産業省(2013a)『第4回制度設計WG 資料5-2事務局提出資料 供給力・調整力確保について

執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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