ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回)

ミッシングマネー問題はなぜ起こるか


Policy study group for electric power industry reform

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 他方、市場において、短期限界費用で電力価格が構成される場合に、このコスト最小の電源ミックスが持続可能かどうかを検討してみる。上記の最小コストの電源ミックスが構築された状態で、短期限界費用で価格が構成される市場が導入されたとする。その場合、図1-5のとおりであるが、需要のデュレーションカーブの左端(年間最大需要)から数えて;

 1778時間目までは、市場価格は8円/kWh(=ピーク電源の短期限界費用)
 1779~5333時間目までは、市場価格は3.5円/kWh(=ミドル電源の短期限界費用)
 5334~8760時間目までは、市場価格は2円/kWh(=ベース電源の短期限界費用)

 が電力市場価格となる。

図1-5:電力市場価格の持続曲線(デュレーションカーブ)

(出所) 山本・戸田(2013)を加工

 この収入によって電源の固定費が回収できるのかどうか確認したのが、表1-1であり、未回収が生じていることが分かる。

表1-1:短期限界費用で電力価格が構成される市場における電源の収益性

A
設備容量
(万kW)
B
発電電力量
(億kWh)
C
収入
(億円)
D
費用
(億円)
E=C-D
収支
(億円)
F=E/A
1kWあたり収支
(円/kW)
ベース電源 1,469 1,207 4,765 5,940 ▲1,176 ▲8,000
ミドル電源 487 173 996 1,385 ▲390 ▲8,000
ピーク電源 244 22 173 368 ▲195 ▲8,000
合計 2,200 1,402 5,934 7,694 ▲1,760 ▲8,000

(出所) 山本・戸田(2013)

 ピーク電源は、稼働する時間全てで市場価格が自身の短期限界費用で決まるので、固定費は全額未回収となる。ミドル電源、ベース電源は、自身の限界費用よりも市場価格が高くなる時間帯があるため、その時間帯で生じる利益(市場価格と短期限界費用の差分)が固定費回収の原資となるが、それでも未回収が残る。総費用約7700億円のうち、固定費は約4500億円であるが、そのうち、1760億円が回収不足となっている。1kWあたりでみると、いずれの電源種においても、未収金額は8000円/kW/年であり、これはピーク電源の年間固定費に等しい。つまり、全電源種について、最も固定費が小さい電源(ここではピーク電源)の年間固定費に相当する固定費の未回収、つまりミッシングマネーが生じる注6)。そのため、短期限界費用で電力価格が構成される市場の下では、この電源ミックスは持続可能ではない。また、この市場に電源投資の誘因を委ねて、最適な電源ミックスが導かれることもないことになる。

注6)
このモデル計算の結果は、需要と電源の諸元(固定費、可変費)を変えても不変である。

<参考文献>

山本隆三、戸田直樹(2013)
『電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか』IEEI Discussion Paper 2013-001



執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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