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オバマ政権の環境・エネルギー政策(その16)

下院では環境保護急進派ワックスマンとマーキーが法案提出 2020年17%削減公約へ


環境政策アナリスト


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USCAPによるキャップ&トレードの概念設計

 キャップ&トレードについては、「米国気候変動行動パートーナーシップ」(長い名前なので以下は単にUSCAP)というNGOがその概念設計をまとめている。USCAPは米国内の自動車、電力、化学など26の大企業と、環境系シンクタンクなど5団体で組織する産業と環境NGOの連合体で、2009年1月15日、「気候変動法制化のための青写真(Blueprint for Legislative Action)」を発表し、これが、ワックスマン・マーキー法案のベースとなった。
 ここでは、連邦レベルのキャップ&トレードを導入すると同時に、費用抑制措置、技術開発、クリーンコール・テクノロジー、それから低炭素の輸送手段などを進展させることを提言している。USCAPは、キャップ&トレードは最も安いコストで二酸化炭素(CO2)を減らす方法であるとし、2020年には2005年の80~86%まで、2050年には2005年レベルで20%まで削減すると提案している。
 同時に炭素価格の安定化に十分な配慮をしようと、さまざまな提案を行っている。オフセットについては、20億トンから始まり30億トンまで認める一方で、国内、国際的なオフセットについては、それぞれ15億トンを超えないとしている。最後に排出枠備蓄プール(allowance reserve pool)を提案して、一定期間での繰り越し、前借り(borrowing)を可能にすると提案している。
 同時に、上限価格(ceiling price)と下限価格(floor price)を提案している。このふたつを一緒にしてプライス・カラー(襟)とも呼ぶが、これは上限価格と下限価格に一定の限度を設けて、炭素価格が上限価格を超えた場合には、政府が所有しているCO2排出枠を放出し、一定の価格で収まるようにし、かつ下限価格を下回る場合には政府がこれを買い支えることで、一定の枠の中で炭素価格が収まるよう考えられている。これにより、政府の売り買いはバランスするとともに参加する企業に価格の大幅な変動から守ろうとするものである。なお、上限だけを定めたものをセイフティーバルブと呼んでおり、こちらのアイデアの方が先に登場している。しかし、このアイデアは米国でも欧州でも、形を変えた炭素税につながると批判を受けて十分議論が展開しないままだった。
 セイフティーバルブまたはプライス・カラーは通常時の価格安定措置である一方、排出枠備蓄プールは緊急時のための措置と理解されている。

USCAPのオフセットの考え方
上限、下限を設定し、そこを超えた場合は政府が買い支えることを提言している

 さらにこの提言では、オフセットへの依存を否定しないとした上で、オフセットにおいては森林の減少・劣化の防止による排出削減(REDD)に大きく依存すると述べている。REDDは森林破壊を行わない見返りをクレジットとし、オフセットするもので、価格はかなり安いことが想定される。今後の国連気候変動枠組条約における国際交渉においてもREDDの議論は加速されると思われる。
 この提言に主要産業界が参加していた理由は、これまで大気汚染浄化法に基づいた規制の度重なる変更に曝され、環境に対応するための長期的視野からの一貫的な経営ができなかったことによる。環境対応のための設備形成には長期の時間がかかるが、定義の不明瞭な用語が使われる規制のために対応ができない、または経営への影響が捕捉できないという過去の経験から、なるべく一貫性のある環境規制を求めたいと要望が米国企業には強い。そのためには積極的に仕組み作りに参加していこうというのが、USCAPに参加した企業の思惑である。もちろん、キャップ&トレードではなく環境税の方が望ましいとする企業もある。エクソン・モービルのレックス・ティラーソン会長は2009年1月、「キャップ&トレードよりも環境税の方が優れている」として容認する見解を発表し、注目を集めた。
 上記の通り、産業界も参加するUSCAPの提言は、ワックスマン・マーキー法案にほぼ含まれた内容と同じであった。ワックスマン・マーキー法案は、この提案による世論をみた上で議会に提案したものと考えられなくはない。

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