IPCC 第5次評価報告書批判
-「科学的根拠を疑う」(その1)

地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である


東京工業大学名誉教授

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 地球温暖化が「人間活動の結果排出される温室効果ガス(主体は二酸化炭素なので、二酸化炭素のみの場合を含めて、以下CO2と略記)に起因するとした「温暖化のCO2原因説」に自然科学的根拠を与えることを目的としたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の内容概要が公表された。この第5次評価報告書(速報版)は、6年前に発表された第4次評価報告書までIPCCの主張の柱とされてきた「温暖化と人との関係」の信頼性を高めるための新たな研究成果に基づく知見がとりまとめられ、「気候変動に関する国際連合枠組条約」をはじめとする地球温暖化対策の政策決定のための様々な議論に科学的な根拠を与える資料となるとしている。
 ここでは、この第5次評価報告書(以下第5次報告書)の内容として国内で公表された報道発表資料、および政策決定者向け要約(気象庁暫定訳)(以下、両資料を合わせて第5次資料と略記、文献1-1 )を基に、この報告書の主張の妥当性について、定量的・科学的な検討、解析を試みた。以下、本稿「その1」では、この第5次報告書で地球温暖化の原因とされる今世紀末までの累積CO2排出量が、地球上の化石燃料の資源量によって大きな制約を受け、実際には使いたくとも使えなくなるので、もし、温暖化が、IPCCが主張するようにCO2に起因するとしてしても、報告書の予測計算結果として示されている地球環境に大きな脅威を与えるとされている今世紀末の世界平均地上気温および平均海面水位が高い上昇値に達することはないことを指摘する。

IPCCによる地球温暖化の将来予測結果

 報道関係者および政策決定者を対象としたIPCCの評価報告書は、これにより世論を喚起して、地球温暖化対策としてのCO2排出削減政策を採ることを政策決定者に迫ることを目的としている。しかし、第5次資料(文献1-1 )は、これらを読んだ人々が、本当のことを判断できるとは到底思えないような非常に難解な内容になっていることを先ず指摘したい。結局、内容はよく理解できないが、専門家が言うことだから間違いがないはずだとして、メデイアの多くはIPCCの予測計算結果の最大値を取り上げて、地球が大変なことになるとして、政府に一刻も早い対応を促している。また、経済的な理由からCO2排出削減のための京都議定書方式を延長しないことを決めた政策決定者(政府)も、その代わりとして、どうやってIPCCの要請に応えていくかに苦慮している現状は、この報告書を読んでも変わることはないであろう。
 第5次資料(文献1-1 )から、今回新しく改良を加えられた(と考えられる)気候システムのシミュレーションモデルを用いた予測計算結果として与えられた2012 ~ 2100 年の間の累積CO2排出量と平均地上気温上昇幅の関係、さらにこの平均地上気温上昇の結果としての平均海面水位の上昇幅の値を纏めて表1-1に示した。

表 1-1 第5次報告書におけるCO2排出のRCPシナリオ別の1986 ~ 2005年の平均値を基準とした
今世紀末(2081 ~ 2100 年)の平均地上気温上昇幅と平均海面水位上昇幅の予測値

(第5次資料(文献1-1 )のデータを基に作成)

注 :
 
*1 :
シナリオ名 RCP は第5次資料(文献1 )から
*2 :
原報で炭素量として与えられた値をCO2 量に換算して示した。
*3 :
カッコ内数値は、それぞれの最大値と最小値の算術平均値を示す。

 今回の第5次報告書では、累積CO2排出量の計算根拠となるCO2排出量の年次変化を表すシナリオとして、第4次評価報告書(以下第4次報告書)まででは考慮されていなかった政策主導的なCO2削減対策を取り入れたRCP(代表的濃度経路)シナリオを複数用意して、それぞれに対する将来の気候変動を予測したとしている。この政策主導的なCO2排出削減対策が、具体的にどのようなものかは、第5次資料(文献1-1 )で見る限り不明であるが、シナリオ別の年間CO2排出量の年次変化の概略値を推算して図1-1 に示した。この図1-1の各シナリオ別の曲線は、表1-1の2100年までの累積CO2排出量の平均値が得られるように、第5次資料中の図を用いて描いてある。ここでは省略したが、原図では、各曲線の変動幅も描かれており、この変動幅の上限、下限が、それぞれ、表1-1の累積CO2排出量の最大値と最小値に対応していると考えた。

シナリオ別に、① :RCP 2.6、② :RCP 4.5、③ :RCP 6.0、 ④ :RCP 8,5
図 1-1 第5 次報告書における地球温暖化将来予測に関連した
RCPシナリオ別の年間CO2 排出量年次変化の概略推算値

(第5次資料(文献1-1 )に与えられたデータを基に作成)

世界の累積CO2排出量は地球資源量により制約される

 図 1-1に見られるように、シナリオ④ ( RCP 8.5 ) は、CO2排出削減対策を一切採らなかった場合と推定される。ところで、この排出CO2の大部分は、化石燃料の燃焼によると考えられるが、地球上の化石燃料の存在量は有限であるから、人類がその利用可能量の全てを燃焼したとしたときのCO2 (二酸化炭素) 排出の総量がどれくらいになるかを試算してみる。エネルギー経済研究所の統計データ(以下、エネ研データ、文献1-2 )を基にした試算結果を表1-2 に示した。

表 1-2 化石燃料の確認可採埋蔵量(2011年末)の値から計算した
世界のCO2(二酸化炭素)排出総量の試算値
(エネ研データ(文献1-2 )を基に作成)

注 :
 
*1 :
確認可採埋蔵量Rを同年の生産量Pで割った値
*2 :
IEA(国際エネルギー機関)による値、エネ研データ(文献1-2)から
*3 :
(CO2排出量)=(確認可採埋蔵量)×(CO2排出原単位)として計算、
ただし、( トン-炭 ) / ( トン-石油換算 ) = 0.605、 (石油換算トン)/ ( 石油ℓ)= 0.9 とした。
*4 :
石炭、天然ガス、石油 それぞれのCO2排出量のカッコ内数値は、合計量に対する比率 %

 この表1-2に見られるように、その排出総量は3.31 兆トン-CO2となる。最近、シェールガスやシェールオイルの経済的な採掘が可能となり、化石燃料の確認可採埋蔵量は、石炭を除いて年次増加する傾向にあるが、それが何時までも続くはずがない。また、その消費により価格が高くなれば、そうむやみに使う訳にはいかなくなる。表1-2に参考として示した可採年数R/P率(年)(確認可採埋蔵量の値を年間生産量で割って求められる値)からも判るように、人類がいままでの経済成長を継続して化石燃料消費の節減努力をしなければ、今世紀末までに、全ての化石燃料の確認可採埋蔵量は消失してしまうことも考えられる。したがって、人類が今世紀中に使用できる化石燃料の燃焼に伴うCO2(二酸化炭素)排出総量の値は、この2011年末のデータを基に試算された表1-2 の値 3.31 兆トン-CO2に、セメント製造で発生するCO2と二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出量を含めても、せいぜい4 兆トン-CO2程度が限度と考えることにした。すなわち、IPCCの第5次報告書のシナリオRCP 8.5 での2100年までの累積CO2排出量の平均値 6.18 兆トン-CO2は、地球資源量の制約を考えると、実際上はあり得ない想定と考えるべきだとした。一方、シナリオ ①(RCP 2.6 ) もCO2排出削減のためのコストを考えると実現性は少ないと考えてよいから、温暖化対策としてのCO2排出量削減が要求される場合の現実的な対応は、表1-2 に示した化石燃料の地球資源量の制約から考えても、シナリオ ② (RPC 4.5) あるいは ③ ( RCP 6.0 ) 程度になると考えるべきであろう。

地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である

 今回のIPCCの第5次報告書が発表されてから、メデイアの一部では、表1-1に示した予測計算結果の最大値を取り上げて、地上気温が4.8℃、海面水位が82 cm上昇するから、今すぐ、CO2の排出削減を実施しないと地球が大変なことになると囃し立てている。しかし、現状の経済性を考慮した地球上の採掘可能な化石燃料資源をほぼ全量使いきったとした時のCO2排出総量が上記の4 兆トン程度に止まるとすると、もし、温暖化がCO2のせいだと仮定しても、本稿で後述(本稿「その2」および「その3」参照)するように、地上気温上昇幅は、2 ℃ 程度、海面水位上昇幅は30 cm程度に止まると推定される。この地上気温上昇幅2 ℃ は、いま、温暖化の脅威を唱える人々が、その脅威を避けるためには、何とかこの値に止めたいとしている目標温度である。いや、第5次報告書にあるように、1998年以降、現在までの15年間、地球の平均地上気温が上昇していないことから、いま地球の寒冷化が始まるとの説が信憑性を増してきている。もしそうなれば、いま、慌てて、お金のかかる方法でCO2の排出削減を図ってみても全くのお金の無駄遣いになってしまうかもしれない。
 ただし、ここで、温暖化の脅威がたいしたことにならないから、化石燃料をいくら使ってもよいと言っているのではない。と言うよりも、使いたくとも、今までのようにふんだんに使える化石燃料が存在しなくなる。すなわち、地球上に住む人類にとっての今世紀末の脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である。これに対して、いま、盛んにもてはやされているシェールガスやシェールオイルが、今後の採掘技術の進歩で、表1-2に示した化石燃料の確認可採埋蔵量を大幅に増加させるとの反論もあるだろう。既に、米国では、エネルギーの自給率を高める目的で盛んにそれらの採掘が行われている。しかし、地中深くに存在するシェールガス・オイルの採掘コストは、在来の天然ガス・石油のそれとは大幅に異なるから、地球全体としてみれば、在来の天然ガスや石油が枯渇に近づいてきたときに初めて採掘の対象となる(文献1-3 参照)。その上、採掘可能となるのは、主としてシェールガスだが、表1-2にCO2(天然ガス)排出量の合計の中の天然ガスからのCO2(二酸化炭素)比率(カッコ内数値)として示したように、この天然ガスからのCO2排出量は、その合計量に対する値が13.4 % と小さいので、その寄与は余り大きくないと考えられる。したがって、ここでは、このシェールガス・オイルの今世紀中に使える量も含めた化石燃料から排出されるCO2排出総量を、上記したように表1-2の3.31 兆トンにプラスαを想定して4 兆トンに止まるとした。この値は、また、上記したようにIPCCが主張している地球温暖化のCO2原因説が正しかったとしたときでも、その脅威が最小に止まるとされる地上気温上昇幅を2 ℃以下に抑えるための累積CO2排出量の目標値でもある。

 いま、CO2排出量削減ための方法として、すなわち、温暖化を防止するために化石燃料の代替としての再生可能エネルギー(以下、再エネと略記)の利用が盛んに言われる。しかし、この再エネの大半は電力にしか変換できない。この電力は、現在、資源量として表わされる一次エネルギー消費量の約半分以下である。と言うことは、電力以外の一次エネルギー消費は、今後も、化石燃料に依存する以外にない。その上、通常10 ~ 20 年と寿命のある再エネ電力の生産設備の再生には、現状の産業社会構造に大幅な改変を加えない限り化石燃料の消費は避けられない。すなわち、現状の再エネ電力は、実際は再生不可能であり、有限の化石燃料をできるだけ長持ちさせる働きしか持たない。
 さらに、より重要な問題は、現状では、太陽光や風力などの再エネ電力の生産には、世界的に広く用いられている石炭火力に較べて非常に大きなコストがかかることである。いま、このコスト高をカバーするために、電力料金の値上げの形で国民に大きな経済的負担を強いることになる「再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、FIT制度)」が、EUや日本など一部の国で利用されている。しかし、この再エネ電力の利用・普及を図るためのFIT制度は、現在、経済発展を必要としている途上国を含む世界では通用しないから、世界中がエネルギー消費を必要とする経済成長を継続し、やがて化石燃料が枯渇に近づけば、当然、電力価格が上昇する。したがって、この高い電力料金で初めて、化石燃料電力に替わって再エネ電力がFIT制度を使用しないでも利用可能となる。すなわち、世界が経済成長を続けようとして、エネルギー消費の増加を継続すれば、その足を引っ張るのは、化石燃料の利用可能量なのである。言い換えれば、今世紀末までに化石燃料の利用可能量が底をつけば、現在の文明社会を継続するとはできなくなる。世界が、少ないエネルギー消費で真の豊かさを追求する今までと違った価値観を基にした新しい社会の創造を求めざるを得なくなる(文献1-3 参照)。
 以上から判っていただけるように、地球上に住む人類にとっての今世紀末の地球の脅威は、温暖化の脅威ではなく、化石燃料の枯渇である。エネルギー資源を持たないために、化石燃料の輸入金額の増加により貿易収支の赤字を増大させている日本経済にとっては、化石燃料の枯渇によるその価格の上昇の影響が特に厳しくなることは間違いない。すなわち、少ない輸入化石燃料エネルギーの消費で、真の豊かさを創ることのできる社会への移行こそが求められなければならない。その社会は、経済成長を目指すとともに、内需拡大を図る目的で、地球温暖化を防止するとしてCO2削減の国際貢献を果たすために、無駄なお金を使っている現在の日本のエネルギー政策の延長上には存在し得ない。上記した、一部の事業者の利益にのみ貢献して、地球温暖化対策としてのCO2の削減にも何の貢献もない上に、電力料金の値上げで国民のお金を使う再エネ電力の利用促進のためのFIT制度が、先ず、廃止の対象にされなければならないことを強く訴える。

 以下、次回は、この第5次報告書におけるIPCCの主張について次のように問題点を指摘する。
(その2)地球温暖化のCO2原因説に科学的根拠を見出すことはできない

<引用文献>
1.1 文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について、報道発表資料、平成25 年9 月27 日
気象庁暫定訳:IPCC第5次評価報告書 気候変動2013、自然科学的根拠、政策決定者向け要約(2013年10月17日版)
1.2 日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2013 年
1.3 田村八洲夫:現代文明の次の文明はどんな文明化か=一次エネルギーが決める文明のかたち、近刊

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