Eating(食料)かHeating(暖房)かを迫られる英国民 エネルギー市場自由化でエネルギー効率も悪化、温暖化対策にも遅れ


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 1990年から、電力、ガス市場の自由化を行った英国では、2000年に天然ガス生産がピークを打ち減少を始め、直後から天然ガスの輸入が必要になった。生産は年々減少を続け、いま、天然ガス需要の50%以上が輸入だ。
 この天然ガス生産の減少は、エネルギー市場にも大きな影響を与えることになった。英国のエネルギー市場の自由化は、北海からの天然ガスに支えられていたためだ。ガス供給は無論のこと、電力市場でも競争力のない国内炭を利用する石炭火力の燃料を北海の天然ガスに切り替えることにより、電力料金の上昇を抑えることが可能だった。図が示す通りだ。
 しかし、今や天然ガスの52%が輸入になってしまった。輸入比率が上昇するに連れ、英国のガス・電気料金は上昇を続けた。市場を自由化した結果、英国のエネルギー市場の大半は、独、仏などの大手6社に供給を頼ることになった。この冬大手6社が4%から10%の値上げを発表したために、2004年との比較で今年12月の家庭用平均エネルギー価格は、2.4倍の年額換算1312ポンド(約22万円)に達することになった。
 他の欧州主要国との比較で、英国のエネルギー価格が高いわけではない。しかし、英国の所得格差は、他の欧州主要国より大きい。貧困層にとっては、大きな負担になってきた。EU27ヵ国中、英国のエネルギー貧困層の比率はエストニアに次いで2位との調査結果が、10月に発表された。マスコミは、かなりの数の国民がEating(食料)かHeating(暖房)かの選択を、この冬迫られると伝えている。H一文字の違いだが、どちらも必需品だ。
 政府は、「エネルギー会社は、株主の利益ではなく、公共サービスを考えるべき」としているが、そうであれば、そもそも自由化すべきではなかった。企業が株主の収益も重視するのは当然のことだ。英キャメロン首相は、エネルギー会社は、顧客に提示する料金メニューを4種類に絞り、顧客の消費に合わせた最安値を提示するよう要請したが、こうなると、もはや自由化ではない。
 エネルギー料金引き下げのために、12月4日に行われた秋の定例演説でオズボーン財務大臣は、エネルギー企業が負担している貧困層を対象とした家屋断熱工事の補助金額(Energy Company Obligation-ECO)を中心に、1家庭当たり年額50ポンドの負担を削減することを発表した。固定価格買い取り制度の金額も見直すとしている。
 英国のエネルギー貧困層が多い理由の一つは、古い家屋が多いため断熱効果が悪く、総額の支払いが多いことだ。断熱工事が遅れることにより、エネルギー効率は改善せず、二酸化炭素の排出も増える。エネルギー市場の自由化は、英国政府が熱心に取り組んでいる、気候変動問題への取り組みにマイナスの効果をもたらすことになりかねない。
 エネルギー市場の自由化の難しさを示し始めた英国の事情を、よく分析することが、日本でも必要とされている。英国のように価格上昇、発電設備減少が明らかになってからでは遅い。連載していますWedge/Infinityにも関連する記事を書きましたので、ご覧いただければ幸甚です。

出所:英国エネルギー気候変動省