オバマ政権の環境・エネルギー政策(その13)

核不拡散問題へのオバマ大統領の思い


環境政策アナリスト

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 オバマ大統領はブッシュ前大統領の原子力積極策から転換しようとしているのだろうか。
 米国の原子力発電所新設への支援策は、2005年エネルギー政策法で実施しつくした感がある。この点で政策変更の余地は今は少ない。特に民間の電力会社が行う原子力発電所建設に対する融資(「連邦融資保証」と呼ばれる)については、実際に支援が受けられるのは数基だが、30年も動かなかった原子力新設計画が動き出した意義は大きい。
 一方、ユッカマウンテン計画廃止と代替案の検討は、現実的な選択である。チュー前長官は、「原子力が炭素フリー電源の70%を占める。それは否定できない」「再処理は現時点では、経済性、核不拡散の観点から実施可能ではないが、長期的な解決を図る」と発言しており(2009年1月上院指名証言)、今後原子力新設も推進し、廃棄物処分も長期的に解決すると、ともに進めていく考えを就任早々明らかにした。モニーツ現長官も2013年下院証言において「原子力は信頼性・経済性の面からすでに米国電力構成のほぼ20%を占めており、非温暖化ガス電源のうち60%以上(70%から多少減じている)を供給する最大の電源である。米国の低炭素電源の重要な一部であり続けると信じている」と発言し、チュウー前長官のポジションを踏襲している。
 もともと、オバマ政権内でもブラウナー大統領補佐官やジャクソン環境保護庁長官などは、廃棄物処理問題が解決するまでは、原子力は新規建設してはならないという考え方に立っていたが、こうした考えは次第に薄れて来ている。
 電力の供給力不足が顕在化している中、地球温暖化対策を積極的に進める立場を取るならば、原子力発電と再生可能エネルギーの推進以外に選択肢はない。オバマ政権では原子力政策に対し合理的な判断のもと原子力政策が進められるものと評価される。

原子力の利用は国家の権利―プラハ演説

 原子力開発に避けて通ることのできない核不拡散問題について前週多少これまでの経緯を紹介したが、オバマ大統領の核不拡散政策全般の方向性について見てみたい。
 2009年4月5日、オバマ大統領はチェコのプラハで、核についての演説を行った。米国による広島、長崎の原子爆弾使用にも触れながら、核不拡散の徹底と原子力の平和利用への方策について次のように語っている。この演説が評価され、オバマ大統領はノーベル平和賞を受賞したことは周知のとおりだ。

 …Make no mistake: As long as these weapons exist, the United States will maintain a safe, secure and effective arsenal to deter any adversary, and guarantee that defense to our allies — including the Czech Republic. But we will begin the work of reducing our arsenal.
 (中略)
 Second, together we will strengthen the Nuclear Non-Proliferation Treaty as a basis for cooperation.
 The basic bargain is sound: Countries with nuclear weapons will move towards disarmament, countries without nuclear weapons will not acquire them, and all countries can access peaceful nuclear energy. To strengthen the treaty, we should embrace several principles. We need more resources and authority to strengthen international inspections. We need real and immediate consequences for countries caught breaking the rules or trying to leave the treaty without cause.
 And we should build a new framework for civil nuclear cooperation, including an international fuel bank, so that countries can access peaceful power without increasing the risks of proliferation. That must be the right of every nation that renounces nuclear weapons, especially developing countries embarking on peaceful programs. And no approach will succeed if it’s based on the denial of rights to nations that play by the rules. We must harness the power of nuclear energy on behalf of our efforts to combat climate change, and to advance peace opportunity for all people.

 もちろん、核兵器が存在する限り、わが国は、いかなる敵であろうとこれを抑止し、チェコ共和国を含む同盟諸国に対する防衛を保証するために、安全かつ効果的な兵器を維持します。しかし、私たちは、兵器の保有量を削減する努力を始めます。
 (中略)
 第2に、私たちは共に、協力の基盤として、核不拡散条約を強化します。
 条約の基本的な内容は、理にかなったものです。核保有国は軍縮へ向かって進み、核兵器を保有しない国は今後も核兵器を入手せず、すべての国々に対し原子力エネルギーの平和利用を可能にする、という内容です。不拡散条約を強化するために私たちが受け入れるべき原則がいくつかあります。国際的な査察を強化するための資源と権限の増強が必要です。規則に違反していることが発覚した国や、理由なしに条約を脱退しようとする国が、即座に実質的な報いを受けるような制度が必要です。
 そして、私たちは、各国が、拡散の危険を高めることなく、平和的に原子力エネルギーを利用できるようにするために、国際燃料バンクなど、原子力の民生利用での協力に関する新たな枠組みを構築すべきです。これは、核兵器を放棄するすべての国、特に原子力の平和利用計画に着手しつつある開発途上国の権利でなければなりません。規則に従う国家の権利を拒否することを前提とする手法は、決して成功することはありません。私たちは、気候変動と戦い、すべての人々にとって平和の機会を推進するために、原子力エネルギーを利用しなければなりません。

※ホワイトハウスホームページ、米国大使館仮訳より引用

 オバマ大統領はこの演説の中で、原子力の平和利用はあらゆる国家の権利であるとして、核不拡散も同時に解決できる新たな枠組みの構築を求めることを訴え、その上で最終的には核兵器の撲滅を目指すとしている。

オバマ大統領プラハ演説

 具体的には開発途上国の原子力の平和利用を可能とするために、国際燃料バンクなどを創設し、新しい枠組みを作らねばならないとしている。2009年9月に開催された国連安全保障理事会で、オバマ大統領は「核兵器なき世界」を目指す内容の決議を提案、全会一致で採択された。この決議でも核不拡散と核軍縮に加え、原子力の平和利用の権利について言及している。
 この論点については、オバマ大統領は大統領選挙期間中から繰り返し主張しているものだ。『アームズ・コントロール・トゥデイ』によれば、これに加えて、米国の核兵器ドクトリンの包括的レビューを行うことを求めている。
 さらにロシアとの間で核兵器削減を進めるため、第一次戦略兵器削減条約(STARTⅠ)のように、削減状況の査察・監視が盛り込まれるようなアプローチを復活させたいとしている。これについては2009年7月6日、モスクワで行われた米露首脳会談で、後継条約の大枠と2009年内の締結を目指す方針を確認した。また米露だけでなく、中国、フランス、英国という核保有国の間で、核保有能力の透明性をどのように高めるか、ハイレベルな対話を開始するなどと述べている。
 プラハ演説でも述べているが、以前から包括的核実験禁止条約(CTBT)発効や核保有国による軍縮を推進することをオバマ大統領は主張している。(CTBTについてはクリントン政権時代に大統領が署名したものの、共和党主導の当時の上院では批准されず、現在でもそのままとなっている。現在もその地合にない。)
 また、米露二国間の米国支援としては核防護措置などのために10億ドルファンドの額を引き上げ、多国間の米国措置としては、ロシアおよび他の国と協働して核物質ジャック防止のため包括的多国間スタンダードを策定・実施すると演説では述べている。核物質の盗難・流用・拡散を防止するために各国の能力を向上させること、すなわち大量破壊兵器の核拡散抑止のための安全保障理事会決議第1540号の支持を確実にするための国際的・財政的支援を強化すると述べている。
 このように、核不拡散の徹底と核軍縮、原子力の平和利用を同時に進めるため、オバマ大統領意気込みを示した。現在イラン新大統領誕生のもとその動きの行方は見定めにくくはなっているが、中東での各不拡散政策を定着させようとしていることに変わりはない。2014年から具体化させなければならないオバマ大統領の「legacy」(「政治的遺産」)作りの材料のひとつとするのかもしれない。

原子力等への対応に関する政治動静

 原子力政策について、現在の議会の動静をみておきたい。
 下院においては、2008年、民主党中道派であるエネルギー・商業委員会委員長のディンゲル氏と、エネルギー・大気環境小委員長のバウチャー議員が追われ、反原子力を標榜するヘンリー・ワックスマン議員、エドワード・マーキー議員に取って代わられた。ワックスマン議員は民主党でも左派に属しており、このことから同じ左派であるナンシー・ペロシ議長の下院での指導力が一層増すものとなった。その後、2010年選挙で共和党242議席、民主党193議席で共和党が勝利し、ペロシ議長からべーナー議長に代わった。2012年選挙では共和党が多少票を減らしたものの、234議席、民主党は201議席でベーナー議長が続投した。この結果下院は原子力政策には前向きである。
 一方、上院においては、下院と異なり、原子力支援について前向きな議員と慎重な議員が拮抗している。2008年上院選挙で、2005年エネルギー政策法の成立に尽力したエネルギー・天然資源委員会委員長を努めた原子力推進派主導者であった共和党ドメニチ議員が引退し、後に同委員会委員長を務め、民主党だが、原子力に積極的だったビンガマン議員も2012年選挙で引退した。後を継いだ民主党ワイデン議員の動向は注視する必要がある。
 ところで上院においては原子力支援に共和党・民主党の違いは少ない。上院議員は党の拘束よりも各人の判断が重視されるからだ。もともと独立以前に大陸会議といわれたものが上院の前身であり、議員は州の代表者からなっている。上院議員は州の有権者に耳を傾けなければならない。州はそれぞれ、農業が中心の州、重工業が産業の中心を占める州、エネルギーの生産で経済が支えられている州などいろいろだ。各議員の投票行動は、出身州の産業構造から起因する違いの方が、党派の違いより大きい。さらに民主党は共和党よりも、さらにその傾向が強いといわれる。
 さらに、ニューイングランドの伝統的民主党に対して、カーターを生んだ南部の民主党、ルイジアナ州などエネルギー生産州の民主党もそれぞれ伝統的にカラーが違うことも理解を複雑にしている。気候変動問題などは同じ民主党でも、議員によって意見が大きく異なるのもそこに起因している。また、上院の場合、議長をそもそも議会に席をもたない副大統領が務めることになっており、党内拘束を強化することはできない仕組みになっている。
 それに対して下院は党の拘束は強い。1990年代のニュート・ギングリッチ議長のときのように多数党が強い影響力を行使できる。現時点でアメリカの上下院は多数党が異なっている。こうした状況を「ねじれ」という言葉が便宜的に使われるが、日本で言う「ねじれ」とは異なる。それぞれの院が別々の主張をすることが前提になっている米国においては「ねじれ」という言葉はふさわしくなく、仮にねじれていても、いなくてもそれぞれの院はそもそも独立しているものと理解する必要がある。
 2012年大統領選挙と同時に行われた議会選挙は2010年中間選挙と比べると両議会に大きな変化を生み出さなかった。つまりオバマ大統領第二期は第一期とは争点においてそう異なるものとはならないということがいえそうである。原子力問題においても下院・上院は少なくても次の中間選挙までは大きな政策的変更はないとみてよい。

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