COP19 参戦記④

-COPは温暖化を解決するための会議か?-


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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COPは温暖化を解決するための会議か

 COP19は予定を大幅に超えて会期最終日の翌日、土曜日21時頃全ての日程を終了した。例年より若干早く、ポーランドの建国記念日である11月11日にスタートした約2週間の会議で何が成果として残ったのか。

文書の採択を宣言して木槌を打つ議長

 全体を見返してみると、地球温暖化を解決するための会議というより、先進国から途上国への所得再分配のルールを決める会議という色合いが、今まで以上に強くなったという印象だ。COP19の主題は、これまで排出削減に関する唯一の国際ルールであった京都議定書の第二約束期間が終了する2020年以降の新たな枠組みについて、どこまで具体化できるかであった。しかし、会期直前に史上最大規模の台風被害を受けたフィリピンへの同情もあって、途上国の温暖化への適応策(例えば島嶼国における堤防建設)への資金支援や、気候変動に伴う(と思われる)自然災害について被害者たる途上国への補償の意味合いを持つ「損失と被害」にむしろ交渉の主軸が置かれた印象を受ける。
 結果としては、先進国を批判することで自身の削減努力から世間の目をそらそうと攻撃的なコメントを繰り返す中国やその他新興国に対し、途上国の中からも相当冷ややかな見方が生まれ分裂を招いたことで、資金支援についてはそれほど具体的な進展は見られず、「損失と被害」については新組織立ち上げなど一部途上国の主張が通ったものの、具体化は来年以降の議論に委ねられた。途上国が分裂して交渉力を低下させた一方、米国・EUや日本など先進国が新興国の巻き込みという共通の目標をもって交渉に臨んだため、先進国の交渉力が途上国に勝り、この所得再分配の議論に「負けずに済んだ」といえるだろう。
 印象的だったのは、COP期間中、環境NGOが交渉に後ろ向きな態度を示した国に対して、日々皮肉を込めて贈る「化石賞」(化石賞の意味合いについては、昨年のCOP18参戦記day4を参照ください)を歴史上初めて途上国である中国やインドが受賞したことだ。先進国の責任によって生じている気候変動の被害を受ける途上国と、それに同情と共感を持つ環境NGOが一体となって先進国を批判し、その削減努力や途上国への技術・資金支援を引き出すというこれまでの「南北問題」としての構造は、より複雑化し変質しつつある。日本政府がこれまで繰り返し主張してきた通り、既に世界第一位の排出国となった中国を含む新興国、発展著しい途上国も参加する新たな枠組みを構築しない限り、気候変動対策として効果が無いという認識が共有されてきた結果ともいえるだろう。

国際環境NGOが毎日発表する「化石賞」

 ちなみに、日本の報道の多くは、日本がこれまでの「2020年までに1990年比マイナス25%」という目標に代えて出した新たな削減目標に対する非難が集まったことを伝えるものであったが、実は日本は11月15日に「特別化石賞」を受賞したのみで、多くを豪州(政権交代によりこれまでの温暖化対策を見直し、企業の負担が大きい炭素税の廃止法案を提出した。今回のCOPには閣僚級の出席を見合わせた。)や先述したインドなどが占めた。COP19 参戦記③で書いたように、「なぜ今だったのか」という批判が多くあったことは事実であるし、中国などからは「COP期間中に目標値を引き下げる表明をするという歴史上無い対応をした国がある」という非難も繰り返しなされたが、俯瞰的に見れば日本が槍玉に上がったという印象は残っていない。今まで述べた通り、各国の削減目標よりも、先進国から途上国への所得再分配に交渉の太宗が割かれたこと、その交渉がなんとか破綻を免れ文書の採択に成功したこと、さらに日本が提唱する「Japan Crediting Mechanism(二国間オフセット・クレジット制度)」を通じた日本との協働に多くの途上国が関心を持ったことなど複数の要因によるもので、日本は結果として今回のCOPで悪者にも敗者にもならずに済んだといえよう。

日本は今後何をすべきか

 日本が2020年までに2005年比3.8%削減という目標をどう達成するか、あるいは、2020年以降どのような削減目標を掲げるかについては今後具体的な議論が行われる予定であるが、日本の技術を世界全体での温室効果ガス削減に活かすべきであることは論をまたない。しかし太陽光パネルなどの国際シェアを見れば明らかなように、多くの技術分野において中国や台湾、韓国企業に、少なくとも設計性能上はキャッチアップされている。日本産業界の技術開発が促進される制度的支援、基礎研究に対する国の投資などが必要であろう。
 そして、今回の交渉で多くの途上国が関心を示した二国間オフセット・クレジット制度は、実はまだ制度設計の中途である。「詳細はよくわからないが美味しそうなもの」で関心を引き寄せ、国際交渉における仲間づくりをするステップも必要であるが、そろそろ誰がどのような根拠により必要な資金を負担するのかという本質の議論、ダブルカウンティングをどのように避けるか、温室効果ガスの排出削減の実施状況に関する測定(Measurement)、国際的報告(Reporting)、検証(Verification)する仕組み(頭文字を取ってMRVと呼ばれている)をどう構築するかなどの具体論を急ぐ必要がある。
 また、進めるべきは二国間オフセット・クレジット制度の検討に限らない。日本の環境・省エネ技術が各国に導入されるような事業環境整備、例えば長期・低利のファイナンス制度の充実や知的財産に関する保護制度、省エネ法・トップランナー方式等低炭素社会構築に向けた制度の移転など、それこそ「あらゆる政策手段を投入して」日本の技術を実際の温室効果ガス削減に結びつけていく必要がある。国連交渉では温室効果ガス削減は図れない。削減を可能にするのは技術であり、その技術の開発・普及を促進する制度設計なのだ。
 新枠組みを2020年に発効させるための交渉期限とされる2015年、フランスのパリで開催されるCOP22まで残された時間は多くなく、また、気候変動問題も待ったなしである。世界全体を低炭素社会化するために、日本は官民一体となって、技術力をさらに進化させその普及を促す制度設計に汗をかき続ける必要があるだろう。



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