電力会社、国民の負担を最小限にする配慮も

原子力規制委員会の在り方への提言


国際環境経済研究所前所長

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活断層認定の根拠を示すべきだ

 規制活動の予測不可能性の第2の例として挙げられるのは、敦賀原発の活断層認定に関する一連の顛末だ。規制委員会は、5月22日に同原発の敷地内破砕帯報告書を了承し、2号炉原子炉建屋真下を通るD—1破砕帯は耐震指針における「耐震設計上考慮する活断層」であるなどとした。これに対して日本原電からは、判断の中身や議事運営の不公正さについての反論がなされ、規制委員会と事業者との間では正常なコミュニケーションが期待できない状況となっている。
 報告書の個別の論点について専門家ではない筆者がコメントすることは適当ではない。しかし、報告書の最大の問題点は、事業者が提出したデータの不足を指摘することのみに忙しく、自ら調査したデータを持ち合わせていないにもかかわらず、推論のみで重要な結論(例えばK断層とD—1破砕帯との関係)を導きだしていたりすることだ。報告書の概要をまとめた原子力規制庁の資料(「敦賀発電所敷地内破砕帯の評価について」)の参考部分に、「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」(平成22年12月20日原子力安全委員会)が引用されており、今回の報告書の記述がその手引きに沿ったものであることを明示するためか、関係部分に下線が引いてある。しかし、問題はその下線が引いてない部分だ。そこには「(5)耐震設計上考慮する活断層の認定においては、認定の考え方、認定した根拠及び認定根拠の情報の信頼性等を示すこと」とある。規制委員会の今回の報告書の論旨の合理性や根拠についてこの部分が満たされていると言えるのだろうか。
 事業者が提示するデータが不足だという指摘はあっても、それではどの程度までデータが揃えば事業者が提示する仮説が証明されたことになるのかについての統一的な考え方が、規制委員会側から示されているわけではない。つまるところ、「これでは足りない」と言われているだけなのである。それに対して追加調査をしてデータを提出すると主張しているわけだが、データの十全性自体についての指針が示されない限り、「まだ足りない」と言われて終わる可能性が高い。こうした規制委員会の進め方では、事業者はどの程度の準備が必要なのか、全く相場観がないままに調査を進めざるをえず、規制プロセスの予測可能性が失われてしまう。
 大飯原発について、規制委員会から3断層連動についてのシミュレーションを求められた件に関して、最後まで承諾を避けた関西電力が「小出し」を批判された。しかし、その結果を出すことを何のために求めているのか、またどの程度のデータが必要になるのかなど規制基準や運用との関連が明確にならないままでは、作業を命じる規制委員会に対する不信の念が募ってしまうという事業者側の事情も理解できないわけではない。今後とも破砕帯調査はさまざまな地点で続く。事業者との正常なコミュニケーションを回復するためにも、上記に引用した手引きの(5)の基準を踏まえ、規制委員会側がデータの十全性に関する明確な見解を明示することや、場合によっては自らデータの収集を実施や指示することを含めた対応を検討することが必要だ。

課題は山積、事業者も自覚を 

 規制委員会には、バックフィット基準適合審査や破砕帯調査以外にも重要な仕事がある。それは、低線量被曝に関する科学的情報の収集と発信、そして地域の防災計画策定のサポートである。原子力の信頼回復には、福島県の復興とゼロリスクではないことを前提とした安全確保策は必須である。特に、放射線被曝に対する恐怖心は、デマ的な情報拡散や意図した煽りによって、相当人々の心の中に植え付けられてしまっているのが現状だ。これまで所管が分散していた放射線管理について、規制委員会は統合的な権限を付与されたし、現委員長自身もその専門家である。一昨年に政府で行われた低線量被曝のリスクに関する検討は、客観的かつ科学的情報が集約された報告書にまとめられたが、残念ながら今ひとつ世の中に広まらなかった。世上、依然として非科学的な情報が散見される中、原発に厳しい姿勢を取っている規制委員会が低線量被曝問題に取り組むことは、原子力への信頼回復への近道になる。
 また、原子力事故を想定した防災計画の策定について、専門的な知見を提供することで、これまでそうした経験がなかった地方自治体を支援していくことも、今の規制委員会が果たさなければならない大きな役割である。再稼働に向けての地方自治体への基準適合判断の説明とともに、規制委員会は積極的に取り組むべきだ。
 一方、事業者は規制機関から「お墨付き」を得るような感覚で、規制委員会に対応しているようでは、真の安全性向上にはつながらない。各社の原子力部門は、規制機関の許認可を得れば「安全が証明された」と見なしてきたこれまでの姿勢は、福島第一原発の事故で否定されてしまったことに早く気づく必要がある。規制委員会の許認可は、原子力施設を運転する際に必要な最低条件を満たすに過ぎない。規制委員会の許認可を得たあとは、事故が経営上取り返しのつかない損害をもたらさないよう、事故リスクを最小化する責任は自分たちに移るということを実感として持つことが重要である。
 原子力損害賠償法は無過失責任なのだ。規制委員会をいくら批判したり期待したりしても意味はない。原子力施設を安全に運営する第一義的責務は、事業者に帰属するという構造を忘れてはならないのだ。