再生可能エネルギーは貿易戦争の新たな具へ 

~その後~


国際環境経済研究所主席研究員


EUは負けたのか - EU・中国の和解

 7月28日以降、各紙はEUと中国で生じていた太陽光パネルダンピング等の問題において一部仲裁合意が成立したと報じていたが注1)、合意内容についてEU産業界が反発しており注2)、その一方で、中国の産業界はそれを歓迎している注3)ことを以てEUの敗北と論じているようである注4)もし敗北と論じたいのであれば、貿易戦争の敗北というよりも、FT紙が示唆している注5)とおり、むしろ域内内部調整に失敗し敗れたとすべきであろう。FT紙は、EUデグフト貿易委員(閣僚)がアンチダンピング対抗準備にあたってドイツが主導する加盟国に反対にあった(when a majority of member states – led by Germany – turned against him)としている。一方、このダンピング調査はEU産業界からの要請が発端となっている。EUメンバー国の産業政策と各国産業界との一貫した調整が難しいこと、またブリュッセルにおける調整能力の限界をも示唆していると言えるかもしれない。
 本件はWTO国際ルール上認められた手続に則って双方が調査をしていたものであり、その世界であれば“日常の出来事”であり殊更大げさに取り上げることもない。むしろダンピング調査を“通常の産業政策の一環”として使うべきにもかかわらず十分に使ってきれていない国にとってみれば、これまでの経緯(下記参考略譜)を見てみれば“再生可能エネルギー戦争勃発”とセンセーショナルに捉え、日経新聞社説のように“2国間交渉で有利な巨大市場中国との勝負は見えていた”と論じたくなるだろう。
 しかし、EUは貿易戦争に負けたのだろうか。ルール上、産業界から要請があればダンピング調査等に着手せざるを得ない。それにしたがって粛々とEUは調査を進めたはずである。貿易紛争や通商交渉は“勝ち負け”が全てではない。なぜそのような交渉をするかと言えば、自国産業の競争優位を醸成するためであり、交渉に一見負けたように見えても自国産業が結果的に(中長期的に)競争優位を得たとすればそれは負けとは言い難い。
 上記FT紙が論じた別稿では、太陽光パネル産業の過当競争(notoriously volatile)を説明しつつ中国メーカーの苦難と地方政府の雇用確保との得難い両立について論じていた。同様にその後の日経新聞でも“世界最大の(中国)ソーラー産業で淘汰が進むきっかけ”との分析をしていた。
 そう考えると一連の流れでEUと中国が手を結んだのも双方の産業界が過当競争に明け暮れる中で産業政策の一環としてあるべき市場調整を行ったものとも考えられる注6)
 日経社説では“2国間の局所的な対応は限界、国内産業を守る保護主義が簡単に芽を吹き”としていたが、そうではなく中長期的な産業のあり方を考えた結論が導き出したものともいえないか。
 一方、こうした新たな新産業群では政策当局も手探りでの通商交渉が続くことになる。そうした技術革新の早い産業群には新たな通商交渉ルールを提供することも不可欠となってくるだろう。通常、数年かかるWTO紛争処理を短い期間で簡略化した手続で処理するような処理体系などである。これについては、検疫等の国際ルールを定めているSPS協定(Agreement on the Application of Sanitary and PhytoSanitary measures)の場で具体的な議論が進んでいるようだ。

新たなルール構築の必要性 - イノベーション促進のために

 気をつける必要があるのは、そうした国際ルール構築を行う場合、環境を対象にした場合、環境を錦の御旗にして例外的ケースとして認めてしまおうという動きである。それこそ国際ルールが保護主義をリーガルに認めイノベーションを削ぐことになりかねない。
 もうすぐ退任するWTO事務局長ラミー氏が太陽光パネルや再生可能エネルギー買い取り制度をめぐる国際紛争に触れ、会場は新しい貿易摩擦の種が出来たとの熱気の中、「何ら新しいことはない、対象が単純な工業製品から太陽光パネルに変わっただけで、ルールは反ダンピングやローカルコンテンツの禁止という昔からあるGATTルールしかない」と冷めて言い放ったように、ルールが陳腐化注7)してきているといえよう。
 その中で、例えば、ジュネーブを拠点とするシンクタンクICTSD(International Centre for Trade and Sustainable Development)は再生可能エネルギー分野についてはローカルコンテンツを認めることが産業育成とイノベーションに寄与するとしてローカルコンテンツを国際ルール上認める、すなわち保護主義をルールとして認めるような提言を行っている注8)。そうした議論はきちんとスクラッチから始める必要があるので頭から否定すべきではないが、あくまでもグリーン保護主義を廃して自由貿易が維持されるよう、これからは国際機関のみの議論注9)ではなく様々な研究機関からの提言が出てくることが期待されよう。

※ 本文中、意見にかかる部分は筆者の個人的見解であり、所属する組織等を代表するものではない。

注1)
7月28日日経朝刊“太陽光パネルの輸出価格 EU、中国と合意”、7月30日読売朝刊“中国製太陽光パネル「最低価格低すぎ」 欧州の業界団体反発“など。
注2)
EU ProSunの8月2日付プレスリリース。www.prosun.org参照。
注3)
中国商務部の8月5日付プレスリリース。”MOFCOM Spokesman Shen Danyang Commented on Adopting Price Undertaking in EU-China Solar Panels Case”
注4)
8月3日日経社説「中・EU貿易摩擦の苦い教訓」
注5)
7月30日Financial Times “Karel De Gucht: Frustrated and outflanked – EU commissioner has been outmanoeuvred by China, exposing deep weaknesses in bloc’s trade policy”
注6)
米国は一方で太陽光パネルについてインドを訴えており足並みは揃っていない。
注7)
ルールそのものが陳腐化しているというよりも新しいルール(例えば、投資や競争への規律など)を構築出来ていないというべきかもしれない。
注8)
ICTSD, “Addressing Local Content Requirements in a Sustainable Energy Trade Agreement” June 2013
注9)
そうした中で、カナダオンタリオケース(拙稿「再生可能エネルギーは貿易戦争の具か」及び「再生可能エネルギーは貿易戦争の具へ」にて断続的に紹介)のWTO上級委員会(いわゆる最終審:WTOは二審制でパネル(下級審)結果が不服の場合は上級委員会へ上訴可能)ではグリーンな政策名目に惑わされず法的に厳密な判断が出たところ。新エネルギー振興目的であれば出来る限り例外を認めようというのではなく、あくまでも淡々とルールに則った判断だったといえよう。
経産省発表資料によれば、「内国民待遇義務の例外となる政府調達行為にも当たらないとしてカナダの反論を退け」としている。すなわち、政府が調達(購入)するのはあくまでも太陽光により発電されたエネルギーであって、そのエネルギーを発電させる設備まで国産優遇してもよいはずがない、というものであろう。
また、筆者として興味深いのは、パネル(下級審)では「補助金協定に規定される利益供与が立証されていない」として日本の主張を退け、上級審も引き続き日本の主張を退けたものの、その理由は「分析を完了するための事実が不十分」だからとしており、事実認定が行われれば補助金協定違反に認定されうる可能性を示唆したものと受け止められる点点である。要は、固定価格買い取り制度そのものが補助金(利益供与)に当たりうるものであり、日本も含めその制度設計にあたっては引き続き国際ルール整合性の観点からもチェックされる必要があるといえよう。

(参考:再生可能エネルギー・太陽光パネルをめぐるEU・中国の貿易戦争の略譜)
 
2012年 9月 6日
EUが中国産太陽光パネルのダンピング調査開始を決定
    11月 5日
中国がEU域内(ギリシャ・イタリア)の再生エネルギー関連措置をWTO違反のおそれありとして協議要請(DS452)
    11月 8日
EUが中国産太陽光パネルの違反補助金調査開始を決定
2013年 5月15日
EUが中国からの情報通信機器に関するダンピング・補助金の調査開始を決定
    7月 4日
中国がEUからのワイン輸入に関するダンピング調査を決定
    7月27日
EU委員会(デグフト委員)が中国産太陽光パネルのダンピングに関して中国との仲裁合意を発表
    8月 2日
EUにダンピング調査等を要請した欧州産業団体(EU ProSun)が合意内容への反発を表明し、EU域内裁判所への訴訟提起も明示
    8月 5日
中国商務部が中国産業界とEU側との議論に触れつつ合意に対し、歓迎表明
    8月 7日
EU委員会は合意した太陽光パネルダンピングとは別に違反補助金の調査は継続することを表明

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