ドイツの電力事情⑩ ―再エネ全量固定価格買取制度、グリーン産業、脱原発を改めて考える―


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 本年2月、ドイツ連邦政府の環境大臣であるアルトマイヤー氏が衝撃的な数字を発表した。ドイツのエネルギー転換にかかるコストは、2030年代末までに1兆ユーロ(約120兆円)にも達する可能性がある注6) というものだ。主要因は、FITによる買取価格で、既に3000億ユーロ(約36兆円)が支払われ、2022年には6800億ユーロ(約81兆6000億円)に達する見込み。さらに、再生可能エネルギーの不安定性を補うために、送電網の拡充や調整電源の確保等、再エネの導入に伴って必要となるコストが3000億ユーロ(約36兆円)との見込みである。この天文学的数字に、ドイツ産業界・国民は本当に耐えられるのだろうか。
 しかし、他人の心配をしている場合ではない。我が国の現在の買取価格は欧米各国に比べてかなり割高に設定されており、下の比較図を参照いただければお分かりの通り、特に非住宅用(事業用)太陽光発電については、概ね10〜20円/kWhが一般的水準であるところ、日本においては2013年度の引き下げを経てもなお、倍近い金額だ。また、制度の詳細設計において多くの問題点が指摘されている。注7)  


ドイツ”グリーン産業”のその後

 FITのもと、太陽光発電を導入する人が利益をより大きくするには、初期投資をできるだけ安く抑えることが重要である。そのため、ドイツ国産のパネルではなく、安い中国製が多く導入され、ドイツの太陽光発電導入量が順調に延びる一方で、国内の太陽電池メーカーの倒産が相次いだのは周知の事実だ。一時期、世界最大の太陽電池メーカーとして、ドイツの再生可能エネルギー産業のシンボルであったQセルズは昨年4月に倒産し、現在は韓国企業に買収されているし、米国グリーン・ニューディール政策の騎手とされたソリンドラ社やエバーグリーン・ソーラー社が倒産したことは筆者も以前報告した通り注8)だ。
 筆者は先日、米国の太陽電池メーカーの方とお話する機会を得たが、彼らの会社の製品は他企業のものより発電効率が2割程度優るという。先進国メーカーのものはそれだけ性能に優れており競争力も十分にあるというお話であったが、現在EUで販売される中国製パネルは約3割程度安価であると言われており、その競争は簡単ではないだろう。本年3月一橋大学イノベーション研究センターが主催したシンポジウム注9)で講演をされた中国の太陽電池メーカー社長は「これまではドイツが世界で最も多くの補助金をくれる国であった。今後は日本に大変期待している」とコメントした。太陽光発電導入に対する補助金は、電気代に賦課するかたちで広く電力需要家から集められ、そして中国や台湾などの太陽電池メーカーを潤したのだ。そしてそれに代わる存在として日本が期待されている。

 グリーン・ニューディール政策を掲げた米国も、そしてEUも、自国民の負担する賦課金で中国メーカーを潤している現実に業を煮やし、中国製のパネルをダンピングと見なして罰則関税をかけることにした。EUでは中国製のパネルに対し8月6日から47.6%という高率の関税をかけようとしたこと、中国がその報復措置としてEU産のワインのダンピング調査を始めたこと、さらなる中国の報復を恐れたEUが多くを譲歩するかたちで両者の合意がなされたことなどは、川口氏の記事のとおりである。

注6)
German Energy Blog「Minister Altmaier: EEG Cuts Needed – or Energiewende Costs Will Reach Trillion Euro Mark by 2040」
http://www.germanenergyblog.de/?p=12278
注7)
WEDGE Infinity
「バブルが始まった太陽光発電 FITはもはや制御不能か」電力中央研究所主任研究員朝野賢司
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2671
注8)
国際環境経済研究所HP「ドイツの電力事情-理想像か虚像か③-」竹内純子
http://ieei.or.jp/2012/07/expl120728/2/
注9)
一橋大学イノベーション研究センター国際シンポジウム
「日本再生に向けたグリーンイノベーション ―環境・エネルギー・経済発展の両立に向けて―」
http://impp.iir.hit-u.ac.jp/imppblog/2013/03/【一橋大学イノベーション研究センター国際シン/