需要側のスマート化で計画停電を防げるか


Policy study group for electric power industry reform

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4.それでも需給ギャップが埋まらない場合

 リアルタイムのデマンドレスポンスや、前日段階でのデマンドレスポンスを活用して、必要な運転予備力が確保できるならば、計画停電は必要なくなる。しかしそれでも、需給ギャップが大きすぎる場合には、そのギャップを埋めるためにはやはり計画停電が必要になるだろうか。
 東京電力が震災後に実施した計画停電では変電所の区画単位で一斉に停電が行われたが、今後設置されるスマートメーターやHEMSを有効に活用すれば、需要をその重要度に応じて遮断していくことが可能となる。例えば、スマートメーターの電流制限機能(契約アンペア変更に利用される)とHEMSを連動させると、需要家の優先順位にそって、テレビは止めても特定の部屋のエアコンだけは動かす等も可能になる。実際にそのような技術を確立するため、経済産業省の補助により早稲田大学で実証事業が進められつつある(図5)。

図5. スマートメーターとHEMSの連携による需要制限[3]

 米国では需給逼迫時などに系統運用者が系統電圧を低下させて、エリア内の需要を減らすことをブラウンアウトと言って停電(ブラックアウト)とは区別している。普及の進むスマートメーターを考慮し、計画停電ではなくいわば計画的なブラウンアウトを行うことで、需給ギャップを埋めていくことが考えられるのではないだろうか。具体的には需給ギャップの大きさに応じ、スマートメーターに設定されている契約電力を縮小していくのである。この仕組みとHEMSを連動させれば、需要家ごとに設定した優先順位にしたがって宅内で重要性の少ない需要から抑制していくことができる。結果として、大震災による大規模電源停止事故など大規模なリスクが発生した際の社会への影響を局限することが期待できる。また、特定の小売事業者(需給バランスを崩している事業者)と契約している需要家だけ需要抑制を行うといった方法も可能となると思われる。
 高信頼度を誇った日本の電力システムも、震災後の首都圏における計画停電の実施により強い批判にさらされたが、スマートメーターなどの新しい技術を駆使して、東日本大震災時点よりも進化した世界トップレベルの電力システムを低コストで築いていくことが重要ではないだろうか。また、こういった取り組みは特定エリアだけではなく全国的に行うことが望ましいから、広域機関とエリアの系統運用者の密接な協働が必要だ。たとえば、需給逼迫度合いに応じて各エリアの系統運用者がとるべきアクションを広域機関が全国共通のルールとして定め、各エリアの予備力を広域機関が全国でプールしてエリア間の融通量を調整し、計画的なブラウンアウトが生じる機会を最小化するようなコンティンジェンシー・プランを策定することなどが考えられるだろう。

<文献>
 
[1]
経済産業省:「電力システム改革の基本方針」、平成24年7月、
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/report_001_00.pdf
[2]
経済産業省:「電力システム改革専門委員会報告書」、平成25年2月、
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/report_002_01.pdf
[3]
林泰弘:「早稲田大学EMS 新宿実証センター」、平成24年11月、
http://www.hayashilab.sci.waseda.ac.jp/RIANT/WEMS.pdf

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