原子力を含む国内エネルギー供給のベストミックスは幻想に過ぎない

石炭火力を当面利用すれば、経済的な負担のない原発代替は可能だ


東京工業大学名誉教授

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 ここで、図1に見られるように、原子力発電量は、火力発電の燃料別比率の年次変化とは全く無関係に与えられていることに注意して欲しい。もともと、発電コストだけを考えるならば、原発電力は選択肢のなかに入らなかったはずである。原子力が電源構成のなかに一定の比率で入るようになったのは、その導入が経済的に有利であったからではない。むしろ、その逆で、図4 に示すように、電力のなかへの原発電力の導入は、実際の発電コストとは無関係な世界一高いこの国の市販電力料金を国民に押し付ける原因になっていた。それを許したのは、輸出産業の好調による大幅な貿易黒字を保証する好調な輸出産業であった。ちなみに、図2 に示すように、国内電力供給の1/5 程度(2010年度)を支えている自家用発電では、原子力比率がゼロである。原子力発電設備の建設では、その立地が難しいとの理由もあるが、市販電力より安価な電力を必要とする自家用電力生産の目的からは、原子力が入り込む余地はなかったと考えるべきであろう。
 いま、政府は、エネルギー政策の見直しのなかに「電力システムの改革」を計画している。これは、発送電分離を柱として電力を完全に自由化することで、消費者が最も安価に電力を購入できるようにするものである。この自由化が実施されれば、いままで、国民に高い料金を押し付けてきた原発電力や、さらには、いま、FIT制度の適用で、より高い料金を押し付けようとしている再エネ電力が、電源構成のベストミックスとして入るこむ余地は完全に否定されることになる。

図4 発電コスト(全燃料)、発電コスト(石炭)と電力料金(産業用)、
原子力比率(電力中の原子力の比率)の年次変化

(エネ研データ2)を基に計算して作成した。発電コスト(石炭)は図3の値を直接、
発電コスト(全燃料)の値は、図3に示した各燃料種類別の値にそれぞれの燃料の使用比率を乗じて求めた)

原発電力代替の石炭火力が国民の利益を守る

 現実の問題として、図 1に示す電源構成のなかで、突然、原子力の部分が抜け落ちたのであるから、この予期せぬ事態に、電力供給に大きな問題が起こっている。経済性の問題だけで言えば、いま安全性の保障が得られないからとして稼働を停止している原発について、安全性の保証できるものに限っては再稼動させればよい。それは、現在、最も安価な電力の供給を可能とするからである。しかし、原発の再稼動に対しては、厳しい制限を設ける必要がある。福島におけるように、電源が喪失して原子炉内の核燃料が冷却不能になる非常事態に緊急対処するために、筆者3)の提案する廃炉を覚悟した消防車による緊急海水注入方法の設備と普段の訓練の実施が再稼動の条件とされるべきである。不確定な情報であるが注1)、この筆者の提案は実行に移されているようである。さらには、今回の事故で、使用済み核燃料の保管が大きな問題となったが、この保管時の安全対策とともに、処理、処分の方法が未解決のままの核燃料廃棄物量をできるだけ増加させないように再稼動の期間を厳しく制限する必要もある3)
 いままでの原発依存のエネルギー政策を脱却するには、当面、輸入価格が最も安価で安定な供給が保証される石炭火力がある。次いで、もし、より安価に入手できるようなった時の天然ガス(LNGでなく、パイプラインで運ばれてくる天然ガス)が利用される。さらには、これらの化石燃料の価格が高くなった時点で、化石燃料を長持ちさせるための再エネ電力が市場経済原理の下で(FIT制度によらないで)導入される。枯渇に近づいた化石燃料による火力発電を再エネ電力で支援しても、現代文明生活を維持するために必要な電力が得られなくなると判明した時点で初めて、大きなリスクを冒しての原子力の利用が検討されることになる。敢えて言えば、このような電源種類別の利用比率の時間的な変遷が、将来のその時々の電源構成のベストミックスになるであろう。ただし、ここで与えられる電源種類別の利用比率は、それぞれの時点で、電源の種類を経済最適を目的として選択した結果であって、この最適比率目標を政策的に決めることはあり得ないと認識すべきである。
 原発代替が石炭だと言うと、地球温暖化対策のための京都議定書の国際公約はどうなるのだとの質問を受ける。京都議定書はIPCCの主張する科学の仮説に基づいて決められた各国のCO2 排出量削減割当量の取り決めである。いま、期限切れになった後のこの割当量が決められないでいる。地球温暖化は地球の問題である以上、世界中の協力なしに、日本だけが国民の経済的な負担の下で国益を無視してCO2削減にお金をかけてみても地球に対する何の貢献にもならない。いま、日本で問題になっているのは、原発代替エネルギー確保での経済最適の問題である。その最適解が、CO2の排出量の多い石炭火力発電だとしたら、地球のCO2排出削減のためには、当面、世界一優れた日本の石炭火力の技術を世界に移転・普及することで、地球上の CO2排出削減、すなわちエネルギー資源の保全に貢献すればよい。ちなみに、世界の電力生産の 40.5 %が石炭で、日本でのそれは 26.8 % に過ぎない(2009年、文献2)から)ことを付記する。

資源小国日本が生き残るためのエネルギー資源の選択の在り方を考えるべき

 エネルギー資源のほぼ全量を輸入に頼らなければならない日本で、エネルギー資源としての一次エネルギー国内供給量についてみるとき、電力は、その1/2 程度である。したがって、残りの1/2 の電力以外も含めた資源量としての一次エネルギー国内供給でのエネルギー源の種類別構成比の年次変遷としてのベストミックスについても考えなければならないはずである。これまでのエネルギー資源の選択の状況を見るために、図1と同様、石油危機以降の国内一次エネルギー総供給のなかのエネルギー資源種類別の構成比率の年次的な変化を図5 に示した。この図に見られるように、生活や産業のためのエネルギーを現状(2010年度)程度に維持しようとすれば、原子力の有無に関わらず、当分は化石燃料への依存、なかでも高価な石油に代わる安価な石炭への速やかな変換を実施しなければ、この国の経済が成り立たないことは自明であろう。さらに、いま、政治的に進められている将来のエネルギー供給における再エネ(図中に新エネ他、2010年度で1.3 %とある部分の一部を占める)を例えば2030 年までに、国民のお金を使って50 % にするなどとの政治的な数値目標を掲げることが如何に現実離れしたものであるかも判って頂けると思う。

図5 一次エネルギー国内総供給のエネルギー資源別構成比率の年次変化
(エネ研データ2)を基に作成)
注1)
私がこの海水注入防護方式の提言を、直接、政府の関係者に訴えてから間もなく(2011年10月)NHKの昼間のTVニュースで、正にこの提案に沿った設備と訓練の様子が放映された。しかし、何故か、詳細な情報は、その後のTVでも、新聞でも得られなかった。なお、現在、各原発で、海水注入用の消防ポンプ車が用意されるようになったことは確かなようで、問題は普段の訓練が実施されているかどうかである。
<引用文献>
 
1)
経済産業省資源エネルギー庁編;エネルギー基本計画――経済成長・エネルギー安全保障・地球温暖化対策を同時に達成する2030年に向けたエネルギー新戦略、2012 年
2)
日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」、省エネルギーセンター、2013 年
3)
久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る――石炭火力発電を当面利用すれば、経済的な負担のない原発代替は可能だ、日刊工業新聞社、2012

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