自然エネルギーの出力変動を抑制する蓄電設備


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 自然エネルギーからの発電には、水力、潮力やバイオマス発電にように、発電出力が安定しているものもあるが、いま世界的に急速な普及をしている風力発電と太陽光発電は、気候・天候の変化によって発電出力が大きく変動するために、それが接続されている送電系統の安定性を大なり小なり阻害する。その影響が大きすぎると送電が円滑に機能せず停電の可能性も出てくる。
 特に風力発電については、電気の需要が落ちる夜間に風が吹いて大量の発電をすることは当然予想できるところだ。風力発電の設置量が大きくなっている欧州と米国、そして中国で、この発電出力の変動への対応が次第に難しくなりつつある。カリフォルニア州では最近、州の公益事業委員会がサザンカリフォルニア・エジソン(SCE)社に対して、この変動を抑制し、系統を強化する蓄電設備を2021年までに50MW(5万キロワット)増強するようにとの指示を出すに至っている。北海に洋上風力発電を今後さらに増強させようとする欧州でも、各国それぞれに大規模蓄電設備の導入が緊急の課題となりつつある。
 系統に接続される蓄電設備としてもっともよく知られるのが揚水発電、大型蓄電池、空気の高圧貯留、水の電気分解などであるが、新規設備の設置には地形、設置コストなどさまざまな課題があり、設備の増強は進展してこなかった。新規技術の開発も期待されているが、その実用化にはまだまだ時間がかかりそうである。日本でも風力発電の潜在量が大きい北海道、東北、九州地方で、これから風力発電規模を拡大するには、送電系統の増強に加えて、何らかの方法による蓄電を検討せざるを得ないだろう。
 自然エネルギーの蓄電について、最近必ずしもハイテク技術ではないが効果のありそうな新しい方式に関する具体的な動きを2つ知る機会があったので紹介したい。
 まず2025年までに、2011年時点で総発電量の50%を占める原発をなくするという政策を掲げるベルギー政府が推進しようとしている揚水発電。同国の西フランダース沖合3~4キロのところに、馬蹄形をした直径3キロの島を建設し、その真ん中に大きな30メートルの深さの穴を掘り、海水を貯められるようにする。洋上風力発電が余剰な発電をしたときには、穴に貯めた海水をポンプで洋上に汲み上げて放出する。ということは、ポンプ用に電力を消費して余剰が発生しないようにするのだ。逆に風が吹かないときに電力が必要な場合には、周囲にある海水をパイプで穴に落としてやり、その水でタービンを回して発電し,海底送電線で陸地に電気を送る。作動原理を見ると揚水発電設備であることに違いはない。その発電出力は30万キロワットだとされるが建設コストは公表されていない。いまフィージビリティースタディーが行われているこの建設計画が正式に認可されれば、7年で完成するという。
 もう一つは、先に名前が出たSCE社の幹部であったエンジニアが発案してAdvanced Rail Energy Storageという会社を設立し、この5月にはその小規模実証がネバダで行われようとしているものだ。7~8%の傾斜がある鉄道線路に重量貨物を牽引する電気機関車を走らせる。発電が余剰になったときには傾斜の下から上に向かって機関車を走らせて電力を消費させるが、高い位置に押し上げられることでエネルギーは蓄えられる。電気が必要になったときには、停まっている列車を時速35マイル(56キロメートル)で傾斜に沿って下に走らせ、ブレーキによる回生電力として回収する。必要に応じて貨車の編成を変更することで蓄電・発電容量を調整できる。約100キロメートルの線路を敷設すれば50万キロワットの蓄電が可能で変換効率は90%に近いそうだ。ネバダでの実証試験のコストは5千万ドル(約50億円)で、カリフォルニア州の送電系統に接続して変動を吸収する。実証で成果が出れば、この線路蓄電設備がカリフォルニアに設置されることになっている。この方式は必ずしも線路でなくても良いはずだ。質量の位置エネルギーと加速度を利用したものだから、蓄電規模にもよるが、重いものを上げ下げすることでも実現可能だろう。
 このような蓄電方式が日本で実現可能かどうかは、地形、規制、地域の理解、送電系統の制御などが異なるために分からないが、検討する価値はありそうだ。

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