同時同量(前編)

現行制度の考え方と問題点


Policy study group for electric power industry reform

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 今回、次回の2回にわたって、託送制度の重要な部分である同時同量制度をとりあげる。この制度は、電力システム専門委員会の議論の結果、現在の制度を大きく見直すことが決まっている。そもそも、現在の同時同量制度は、電力会社と新電力がそれぞれ異なった役割を分担する、という整理になっているように、中立でない制度であるから、送配電部門の中立性強化のために発送電分離をするのであれば、必然的に中立な制度に見直さざるを得ない。現在の同時同量制度は、マスコミの報道等で参入障壁のように言われることが多いが、同時同量は電気の物理的な性質そのものなので、電気事業を営む上でこの制約から完全フリーになることは基本的にない(固定価格買取制度により、発電電力量全量を電気事業者が買い取る再生可能エネルギーは例外)。

電力会社と新電力の役割が異なる現行制度:電力会社の役割

 まず、現在の同時同量制度の考え方について説明する。同時同量とは電気の需要と供給を常時一致させること(より正確に言うと、「全く差分を許容しないわけではないが、差分はあってもごく狭い範囲に収めること」)であり、電気の財の特性上、これを確保することは必須である。先述のとおり、現在の制度は、電力会社と新電力の役割が異なっている。電力会社は各エリアにおいて周波数を維持し、安定供給を確保すべく、各瞬間での同時同量を確保する。図1で説明する。

図1 電力会社による同時同量のイメージ

 赤い曲線は電力需要曲線のイメージである。数秒単位のゆらぎを伴いながら、ある種のトレンドに沿って変動している。電力会社はまずこのトレンド、つまり青い曲線を予測し、これをぴったり追随するように発電機に出力指令を発出する。これを先行制御と呼ぶ。予測のスパンは1~数分と非常に細かく、かつ、常時ローリングを繰り返しながら予測の精度を保っている。この青い曲線と赤い曲線の差分は、予測が難しいランダムなゆらぎであり、最終的にはこのゆらぎにも追随しないと周波数が変動して電力供給の品質が保てない。ランダムな変動なので、これを先行制御によって追随するのは困難であり、周波数の偏差(需要と供給が乖離すると、周波数も50Hzあるいは60Hzから乖離する)の実績を計測して、これを解消するように発電機出力を後追いで調整する。この調整は基本的に自動で行われ、ゆらぎのレベルまでの同時同量を確保する。それに伴い、周波数も50Hzあるいは60Hz近くに調整されるので、この調整を周波数制御という。緑の線は周波数制御のために用いるように予め確保している発電機出力の幅である。電力需要(赤い線)がこの調整幅の中に収まるように青い線を予測できれば、周波数が安定して、電力品質が維持できる。

新電力の役割は30分単位の積分値での需給の一致

 他方、新電力の場合である。図2を参照されたい。電力会社ほどに細かい同時同量を求めるのは、現実的でないので、30分単位の積分値で需要と供給を一致させることを求めている。その上で、最終的に電力会社が赤い線と青い線の間を埋める調整を行う。

図2 新電力による同時同量のイメージ

 調整は次の2種類がある。

1.
30分単位の需要と供給の積分値の差分を調整する(インバランス調整)。
実態として、新電力が積分値とは言え差分をゼロにすることは難しいので、電力会社がその差分の電力量(kWh)を調整する。この差分をインバランスと呼び、調整に使われるkWhの取引価格をインバランス料金と呼ぶ。新電力による供給が不足していれば、電力会社がkWhを販売することになり、供給が余剰であった場合は、余剰分のkWhを電力会社が買い取ることになる。東京電力のインバランス料金を表1に示す。平成24年改定の現行料金は、原発がほとんど停止している前提のものであるが、原発稼働時の水準である平成20年改定の料金も併せて示す。考え方としては、±3%までの差分については、基本的に許容しつつ、それを超える差分の調整については、ペナルティの要素を持たせるということである。ペナルティ性を持たせることによって、新電力にインバランスの発生量を抑制するインセンティブを与え、それによって電力会社がインバランス調整用に用意する電源の量を減らすことが出来れば、系統全体にコスト低減のメリットが及ぶ、という考え方である。

(表1)東京電力のインバランス料金

(円/kWh)

現行料金
(平成24年改定)
左記改定前の
約款単価
新電力の供給が不足 年間最大需要の3%以内 15.02 11.66
同3%超 夏季
その他季
夜間
51.73
45.73
28.04
40.69
35.50
21.62
新電力の供給が余剰 同3%以内 10.48 7.83
同3%超 無償 無償
2.
30分のタームの中の差分を調整する(アンシラリーサービス注1))。
 積分値として需要と供給が一致していても、更に細かく時間帯を区切っていくと、ゆらぎに相当する需給の乖離が生じているので、これを調整する必要がある。図3に示す通り、積分値を合わせるだけであれば、新電力はXだけの発電出力を確保していれば良いが、ゆらぎの調整までするには、更にYだけの発電出力が必要である。このYに相当する発電出力(kW)を確保しているのは電力会社であり、電力会社はそのkWの固定費相当額を託送料金の一部として、新電力からも回収している。この料金をアンシラリーサービス(A/S:注1))料金と言う。単価は、10銭/kWh程度である。
注1)
アンシラリーサービス(A/S)は、海外では、インバランス供給、電圧制御等、送配電部門が電力供給の品質を維持するために実施するサービス全般を指す広い意味でも使われるが、ここでは周波数制御に絞った狭い意味で用いている。

図3 アンシラリーサービスのイメージ

 以上をまとめたのが表2である。トレンド性のある比較的長いタームの需要変動については、電力会社と新電力が個別に調整を行い(行う調整の内容は異なるが)、より短いタームのランダムな変動は電力会社が一括して調整は行い、費用だけそれぞれ同等に負担しているということである。

(表2)現行の同時同量制度の考え方(電力会社と新電力の役割分担)

電力会社 新電力
トレンド性のある変動 調整の目標 1~数分単位の積分値の需給の一致 30分単位の積分値の需給の一致
調整主体 電力会社 新電力
調整コストの出所 電力会社の発電費 新電力の発電費
インバランス 行っている調整の性格上、30分の積分値では事実上ゼロ 発生したインバランスは電力会社が調整し、新電力はインバランス料金を負担
ランダムな変動 調整の目標 周波数の変動を±0.2Hz以内に抑制
調整主体 電力会社
調整コストの出所 託送料金の一部として、電力・新電力とも同等に負担(電力会社の場合は、A/S料金相当額を託送収支に整理)

現行制度は歪んだインセンティブが問題

 さて、冒頭述べたように、同時同量制度は、参入障壁のように言われることが多いが、問題はむしろ、割り切りの多い制度ゆえの「隙」である。特に新電力によるインバランスの発生量を抑制すべくインセンティブを設計しているのであるが、割り切り故にインセンティブが歪んでいる。この歪みは、新電力にとっては有利に働く性格のものなので、現在の制度を心地よく感じている新電力関係者がいてもおかしくないのであるが、今後の詳細な制度議論を進める中で、適切な制度が構築されることを期待したい。

 「歪んだインセンティブ」と考えられるのは、例えば以下の2点である。
 1点目は、3%以内の不足に対するインバランス料金が必要以上に割安であることである。この料金は電力会社の平均発電電源コストに基づいて算出しているが、実態としてインバランスの調整を行っている電源は揚水、石油火力、LNG在来型火力等のピーク・ミドル電源である。それが、原子力や石炭のようなベース電源まで含めた料金となっているので、実態よりも安い料金となっている。この水準であれば、新電力が30分単位の積分値を合致させるべく調整に用いている電源よりも安いと思われるので、3%を超えない範囲であれば、不足インバランスをむしろ出す方向の歪んだインセンティブを新電力に与えていると言える。また、インバランス料金が安すぎるのであれば、本来の価格との差分は電力会社の顧客が言われのない負担をしていることになるので、この観点からも適正な料金水準が実現するような制度とすることが必要である。

 2点目は、3%を超える不足に対して適用されるペナルティである。これが高いという批判もされているが、高いと言っても中途半端に高いので、それが悪用される可能性がある。夏季におけるペナルティの水準である40~50円/kWhは、新電力にとっては、自らピーク電源を確保するよりも安い水準である。例えば、自らの需要の最大電力が100であった場合、自ら確保する電源は90までで、90を超える需要が出た場合は、ペナルティを払ってインバランスの供給を電力会社から受けた方が、新電力にとっては経済的になる可能性がある注2)。不必要なインバランス出さないようにペナルティを設定したつもりでも、水準が中途半端なために、却ってインバランスを増やす方向の歪んだインセンティブが生じかねないということである。

注2)
簡単な試算を以下に示す。
東京電力の2012年の需要実績によると、その年の最大一点ピークの93%以上の需要が出ている時間数は146時間(1.7%)
他方、コスト等検証委員会作成の発電コスト試算シート(2011年12月)を用いて、LNG火力(2010年モデル)の設備利用率1.7%の際の発電コストを算出すると約63円/kWh。
つまり、100の最大需要に対して93以上の需要が出た時は、インバランス料金のペナルティを支払った方が、経済的になる。
上記に加え3%範囲内の不足に対するインバランス料金も割安であるので、100の最大需要に対して、90の電源を確保し、90を超える需要はインバランス供給に依存する方が、経済的になる。

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