ドイツで自由化による電気料金引き下げは観察できるか


Policy study group for electric power industry reform

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2.
上記立論(B)は成立するか

 著者は、著作中で、電源の約4割を占める石炭の価格が5割以上上昇したこと、加えてブログ上では、重油の価格が372%、天然ガスは50%上がっていることを示している。つまり、石炭の価格上昇で40%×50%=20%の燃料価格の上昇が説明でき、他の燃料も価格上昇しているので、燃料費全体で20%以上の上昇率であることはまず間違いなく、これは消費者物価の上昇率(20%)を上回り、立論(B)が成立するとの見解である。
 他方、著者が石炭価格の出所としている文献 (IEA -ENERGY PRICES & TAXES) によると、著者が引用しているデータは輸入炭の価格である。つまり、これで説明できるのは、ドイツ国内で発電用に消費される石炭の多くても4割程度であり、残りは、生産コストが輸入炭の3倍である国内炭(注5)である。これをふまえて、著者の掲げた燃料価格のデータでどれほどのことが説明できるか、以下でラフな試算を試みる。

(注5)
ドイツの国内炭の生産コストが輸入炭の3倍であることは、以下のリンクの6枚目参照
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com05-01/mat04_2.pdf

 まず、石炭について。ドイツでは国内で産出する質の悪い褐炭と、一部輸入に依存している質の高い石炭(瀝青炭)を発電用に用いている。2010年の発電用燃料の使用実績(熱量ベース)によると、石炭:褐炭=42:58である(注6)。この石炭がすべて輸入であると仮定し(注7)、かつ輸入炭と褐炭が同じ価格とすると(つまり、熱量ベースの比率と費用ベースの比率が同じとする。実際は国内炭の方が価格が高いため、費用ベースでは、輸入炭の比率は低下する)、輸入炭が5割上昇したことで、燃料価格の上昇は、40%×42%×50%≒8% が説明できることになる。
 次に、石油と天然ガスについて。2010年の発電電力量に占める割合は、それぞれ1.3%と14%である(注8)。これと著者の掲げた価格上昇率を踏まえて、ラフに計算すると;
  重油は、 1.3%×372%≒5% が説明でき、
  天然ガスは、 14%×50%≒7% が説明できる。
 以上を合算すると、著者が示したデータで説明できる燃料費の上昇は、8+5+7=20%となる。他方、観察期間における消費者物価の上昇率は20%である。つまり、石炭における輸入炭の影響を大きめに見た上で、立論(B)が成立するかは微妙である。今回国内炭の価格を調査していないが、ドイツの石炭産業は補助金で維持されている産業であるので、他の燃料と同じように高騰していることは考えにくい。いずれにせよ、少なくとも著者の示したデータのみをもって、立論(B)が成り立つことを明確に示せたとは言えない。

(注6)
出所は、海外電気事業統計2012年度版
(注7)
実際は、石炭(褐炭をのぞく)の輸入比率は半分程度であるが、電気事業以外の輸入も含まれているため、電気事業としての輸入比率は不明。
(注8)
出所は、IEA -ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES