ドイツで自由化による電気料金引き下げは観察できるか


Policy study group for electric power industry reform

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1.
上記立論(A)は成立するか
表1に当該期間中のドイツにおける消費者物価指数と電気料金単価(税抜き)の推移を示す。

表1:ドイツにおける消費者物価指数と電気料金単価(税抜き)の推移(自由化後)

出所:IMF – World Economic Outlook Databases、IEA -ENERGY PRICES & TAXES

 著者は、「期間中に、消費者物価は2割以上上がったが、税引き後の家庭用電気料金は1割弱しか上がらなかった(注2)」ことをもって、立論(A)が成立しているとの見解と思われるが、これについては、以下の3点が疑問である。

(注2)
表1のとおり、IEA -ENERGY PRICES & TAXESによると、家庭用電気料金の上昇率は11%であり、1割弱との表現と微妙に異なっている。ただし、論旨に大きな影響はないと考える。
1.1.
「電気料金上昇率=燃料費用を含めた発電費用の上昇率」ではない

 電気料金は発電費用、ネットワーク費用、販売費用等で構成されている。つまり、発電費用は電気料金の一部なので、「電気料金上昇率=燃料費用を含めた発電費用の上昇率」とはならない。もっとも、この点は著者も承知の上で概算していると理解し、ここでは注意喚起だけさせていただく。以下では、「電気料金上昇率=燃料費用を含めた発電費用の上昇率」である前提で検討する。

1.2.
家庭用電気料金のデータに連続性がない

 表1の家庭用電気料金のトレンドを見ると、2007年と2008年の家庭用電気料金のデータの間に段差がある。実は、2008年からデータの採録方法が変更になっており、その旨は著者が参照した文献(IEA -ENERGY PRICES & TAXES)にも記載がある(注3)。つまり、著者が分析に用いている1998年~2010年のデータは連続性がなく、本来分析に用いるのは適切ではない。他方、段差を跨がないように1998年~2007年の期間をとってみると、その期間において、消費者物価は15%上昇、対して電気料金は31%上昇となり、著者の立論(A)とは逆の結果となる。

(注3)
2007年までは、ドイツ国内の電力会社の収入単価(電気料金収入を販売電力量で除したもの)を採用していたが、2008年以降は、Eurostatが定める手法によるモデル計算に変更になっている。モデル計算は、家庭用需要家を年間消費電力量によって5つの階層に分け、各階層について代表的な需要家を抽出し調査した結果を加重平均している。更に詳細は以下のリンクを参照。
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_SDDS/en/nrg_pc_esms.htm
1.3.
産業用電気料金の推移も見てみると

 表1には産業用電気料金(税抜き)の推移も示している。このデータも2007年と2008年の間でデータの採取方法の変更があったが、著者の設定した観測期間である1998~2010年で見ても、段差をまたがない1998~2007年で見ても、電気料金の上昇率は消費者物価の上昇率を上回っており、立論(A)と逆の結果となる。
 こちらを採りあげずに家庭用電気料金だけを取り上げた理由は、明らかでない。しかし、上記1.1の論旨との関係で言えば、著者が観察の対象としている発電費用の占める割合は、家庭用電気料金よりも産業用電気料金の方が高い(注4)。つまり「電気料金上昇率=燃料費用を含めた発電費用の上昇率」ではないにしろ、産業用電気料金上昇率の方が、家庭用電気料金よりも燃料費用を含めた発電費用の上昇率に近い可能性はあると考えられる。

(注4)
産業用需要家は供給電圧が高く、電力供給に用いるネットワーク設備の量が少ないので、電気料金に占めるネットワーク費用の比率が低くなる。その結果として、発電費用の占める割合は高くなる