第11回 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)常務理事 長谷川 英一氏

情報爆発の未来を支え、低炭素社会に不可欠な「グリーンIT」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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ITによる省エネ効果は、アジアで大きな効果が期待できる

――ITによる省エネ効果について、家庭、オフィス、街でどの様に地球温暖化防止効果が期待できますか?

長谷川:BY ITの効果では、産業部門・業務部門・家庭部門・運輸部門において、ITのソリューションを入れることにより消費するエネルギーが減ります。例えば家庭ではHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の導入の効果が大きいですが、オンラインショッピングであちらこちらに出かけなくても物が買え、音楽もCDを作るより配信するほうがエネルギーを使わずに済みます。オフィスでのTV会議では、CO2排出削減率は65%という事例があります。例えば月4回2時間の会議をして、そこに大阪から出張で来るという計算をすれば、そのTV会議を入れたときと、実際に会議をして出張者も来た時のエネルギー大きく削減できるというものです。このように、あらゆる部門でBY ITの効果が期待できます。

――「グリーンITベストプラクティス集」には、たくさんの事例があって参考になります。

長谷川:ベストプラクティス集では、私どもの会員企業の様々なOF IT、BY ITの事例を紹介しています。必ずしもすべて定量的に書いてあるわけではありませんが、例えば電子入札によりどういう効果があるのか、あるいはBEMSでビルのエネルギーをうまくマネージメントするとどのくらいの効果か、クラウドコンピューティングを使うと節電がどのくらいできるのかなどの事例をご覧いただけます。

 ベストプラクティス集は毎年作っていますが、英語版も作って世界にも訴求しています。ウェブで検索もできるようにしています。BY ITの効果は日本では1.3億トンですが、世界ではもっと効果が顕著になります。ラフな試算で世界では20億トンとか40億トンのCO2削減効果があると予測されています。

――世界で、日本のこうした技術を発揮できる期待は大きいですね。

長谷川:経済産業省からの委託事業で、アジアでの省エネルギー診断事業をしています。2009年から毎年私どもの会員企業が各地に行ってビルやデータセンター、工場などを調べてきました。例えばベトナムのデータセンターに行って、日本のこれこれのIT製品や空調技術を導入すると、「30%あるいは40%エネルギー消費を減らす事ができますよ」といった診断をします。BY ITでも特にビルや工場などですが、アジアの方が日本よりもずっと省エネ効果が大きくなります。

――ITにより家庭の省エネの可能性もずいぶん広がりそうです。

長谷川:家庭における電力消費では、照明・エアコン・冷蔵庫・テレビの4つが大きなエネルギーを使うものですが、これはグリーンITの効果というより「トップランナー方式」により、省エネ化が進んでいます。「家庭でグリーンITを!」と言われてもなかなかわかりにくいかもしれません。まずは省エネ家電に入れ替えてもらうのが一番ですが、さらにHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)を入れれば、さらに省エネが進みます。

 HEMSのネットワークの標準であるECHONET Lite(エコーネット・ライト※家電向け通信規格)に対応したテレビや冷蔵庫を繋いで、それをHEMSで見るとどこに無駄があるのかなどがわかります。さらに屋根に太陽電池をつけて、HEMSとつなげば、外から買う電力をゼロにもできます。2008年の洞爺湖サミットでは、グリーンIT推進協議会が技術提供などの協力をさせていただいたゼロエミッションハウスを、世界各国の首脳の方々にも見ていただききました。

国に対する要望は、グリーンIT導入支援の枠組み

――ICTによる社会やビジネスのスマート化を推進していくために国に要望や期待はありますか?

長谷川: 経済産業省にはグリーンITイニシアティブのもとの各種施策として、既にグリーン投資税制や省エネ設備投資補助などを進めていただき、エコポイントもまさにその一環でした。そういった省エネ機器や設備への投資に対する支援の枠組みは引き続き拡充をお願いしたいと思っています。省エネトップランナー基準についても、私どもも引き続きフォローしていきたい思っています。

――産業界としての立場から何か要望はございますか?

長谷川:JEITAも含めた経済団体で昨年11月に「国内外のエネルギー・環境政策に向けた産業界の提言」もしておりますが、非現実的なCO2削減の中期目標などではなく、現実に即した議論を国際的な場できちんとしてほしいという要望はあります。

 CO2削減のためのグリーンIT技術ですが、日本の中で広めていくのは当然ですが、エネルギー原単位を非常に低く抑えられている日本では効果もある程度限られてしまいます、同じGDPを生みだすためのエネルギー消費は日本が最高ですが、日本を1とすれば世界平均は3くらい、アジアでは4とか5とか、中国で6、ロシアは7とかですね。

 そのような状況下では、二国間クレジットの議論が有効だと思います。相手国で日本のグリーンIT技術を導入すればCO2を何割も削減できるわけです。二国間クレジットの枠組みの確立や、グリーンITの普及のための診断事業の継続など、アジアなど諸外国で展開するための政策なり支援措置をお願いしたいと思っています。

【インタビュー後記】
IT機器の省エネとITを活用して社会の省エネを進める「グリーンIT」の可能性について、長谷川さんは明確なビジョンのもと具体的な事例も挙げながらお話くださり、私も2020年以降の情報爆発時代のイメージを膨らませながら、ぐんぐんお話に引き込まれていきました。21世紀の成長産業であるIT・エレクトロニクス分野が、持続可能性(サステナビリティ)に寄与する技術であることを実感しました。日本のIT技術が未来の社会をつくり、低炭素社会に向けてグローバルに大きく貢献していくことを期待しています。

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