いま決める前に


Policy study group for electric power industry reform

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 「見解」①で「足元で生じている収支の悪化・財務体質の悪化原因」とあるが、その最大のものは、原発の停止である。更には、福島原発事故後の政府の対応で明らかになった原子力をめぐる政治のリスクである。今の政府の計画では小売全面自由化は3年後であり、それまでにこの点はクリアされる必要がある。

 「見解」②で「小売全面自由化後に料金規制が撤廃される見込み」とあるが、実際は小売全面自由化後も、競争が進展するまでの経過措置として、電力会社に対する料金規制は当面維持される。電力会社にしてみれば、本来、法的独占により需要が確保されないのに料金規制を受けるいわれはないので、経過措置はできるだけ速やかに解除するべきである。それが難しいのであれば、少なくとも、現在、政策的に本来のコストよりも安く抑えられている料金(例:電力消費量の少ない家庭向けの料金)については、簡易な手続きで値上げができるようにするべきだ。政策料金が適用されている分野に新規参入は期待できない、それゆえに経過措置が解除できない、という悪循環は回避しなければならない。そのために、社会的弱者に看過できない影響が及ぶのでれば、それは社会保障政策としてケアすべきことだ。

 「見解」③で「過大な非対称規制が導入されない限り、シェア等が大きく変動したり、一般電気事業者の事業環境が大きく悪化したりする可能性は低い」としている部分については、疑問がある。そもそも新規参入者のシェアが低いから議論をしているのであり、電源確保に苦労している新電力のために、電力会社は限界費用で卸電力取引所に売り札を出せ、といった議論をしていたわけである。

 限界費用で電気を売れば、固定費の回収が困難になり、いずれ事業の持続性に影響が及ぶ。固定費負担なしの価格で電気を手に入れた新電力が、一時的に市場を賑わせるかもしれないが、これは「過大な非対称規制」がなせる業であり、いずれ市場の基盤が棄損する。小売事業者に対する供給力確保義務、容量市場と言った固定費が適切に回収できる仕組みの整備がセットでなされる必要がある。

 「見解」④は、まさに検討はこれからである。金融業界の関心が高いと思われる「資金調達面でも悪影響が生じない配慮」の具体化もこれからである。

「懸念があるからいま決められないということでは困る」のであれば

 以上のとおり、「見解」の①~④の4項目は、現時点では金融業界の懸念を払拭する材料ではない。懸念を払拭するために、今後政府が解決すべき宿題を示していると捉えるべきものだ。「懸念があるからいま決められないということでは困る」のであれば、政府にも懸念を払拭する取り組みが求められるのである。

<参考資料>
「リスク、環境、コストのトレード・オフとベスト・ミックスの考え方」第5回基本問題委員会における金本委員提出資料
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/5th/5-3.pdf

「金融業界から見た電力システム改革等に対する懸念点について」第11回電力システム改革専門委員会における伊藤委員提出資料
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/011_06_00.pdf

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