いま決める前に


Policy study group for electric power industry reform

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金融業界から見た懸念

 さて、報告書が取りまとめられる直前の第11回の電力システム改革専門委員会において、金融業界出身のアナリストである伊藤敏憲委員から、「金融業界から見た電力システム改革等に対する懸念点について」と題する資料の提示があった。その中に「金融面での電力システム改革等への懸念は過大」と題するスライド(スライド7)がある。以下に引用する。

金融面での電力システム改革等への懸念は過大
◆ 懸念事項に対する見解

小売全面自由化までには一定の期間が設定される見込みであり、それまでに足元で生じている収支の悪化・財務体質の悪化原因の多くは解消されている可能性が高い。
小売全面自由化後に料金規制が撤廃される見込みであり、需給がよほど緩和されない限り、むしろ現状に比べて適正な料金を設定しやすくなる。
発送電分離は事業者間での公平性・中立性の一層の確保を目的として行われるものであり、過大な非対称規制が導入されない限り、シェア等が大きく変動したり、一般電気事業者の事業環境が大きく悪化したりする可能性は低い。また、送配電事業は引き続き健全な収支が確保される見通しである。
発送電分離を進める際には供給安定性、安全性、経済合理性などの確保やサービス水準の低下が生じないように詳細制度の設計がなされ、資金調達面でも悪影響が生じないように配慮される見込みである。

◆ 配慮が求められること

現行の電気事業法の規定により、社債発行時に自動的に付与される一般担保に関しては、改革施行前に発行された債券に影響が及ばないようする。
詳細制度設計の際、電気事業全体の健全性が損なわれないよう十分に配慮する。
過大な非対称規制を設定しない。
改革時に金融情勢にも配慮し、金融関係者・国民に内容をわかりやすく説明する。

「金融面での電力システム改革等への懸念は過大」か?

 巨大なインフラ産業である電気事業を維持するためには、大量の資金が必要である。この資金供給を担う金融業界が今回のシステム改革、あるいは自由化の動きについて懸念を示していることから、この資料が提示されたようだ。そして、「懸念事項に関する見解」①~④を読むと、金融業界の懸念は過大である、それほど心配ない、という内容にも読める。実際、その様に受け取った向きもあったようであるが、それは曲解であろう。ここで「可能性」や「見込み」で語られている内容は、現時点で確約されたわけではない。それゆえに「見解」に続いて「配慮が求められること」が記載されているわけである。