原子力規制委員会の活断層評価に思う

行政訴訟による法的決着も視野に入れ、適正な判断をうながせ


Global Energy Policy Research

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法的決着も電力業界は視野に入れるべきだ

昨年春、東北地方太平洋沖地震の発生によって、大規模な災害が発生するとともに、地震学者や地質学者は大きな精神的ショックを受けたはずだ。かれらはそれまでもっていた学問的知識や経験でおよそ想像すらできなかったマグニチュード9クラスの巨大地震をまじかに見たからである。

これによって、地震関係の専門家は及び腰の姿勢が身についてしまった。何事も「可能性を否定できない」と、都合の良い言い逃れをするようになっているようだ。

これらが原子力の耐震規制の枠組みに浸透し始め、時として過大な安全を夢想し責任回避を重ねる癖がついたように想像する。これは学識経験者・専門家に限らず原子力規制庁の役人にも当てはまる。

原子力規制委員会は、来年7月今後見えてくるであろう新たな安全基準では、活断層とは何かという基本的考え方を再確認し、40万年前という数値の根拠や運用方法を明確にする必要がある。そして、その基準を一般人に説明する際には単に安全最優先の国民感情に配慮した「活断層」の認定基準であることを示すのではなく、純粋な科学的知見のロジカルかつ分かりやすい説明を行なっていただきたい。

繰り返しになるが、規制委員会の活断層審査では、まず判明している事実の全体像の把握を怠ることなく、データによってのみ最大限の分析・評価を全力で試みた上で結果を導いていくよう強く望みたい。そこには真に誠実な科学者の良心のもとでの「判断」であり、国民から注目を浴びる政治的判断ではないということである。

逆に、これまでお上の言うことばかり聞いてきた事業者は、今回の判断を不服とし、規制委員会と規制庁を裁判に訴え、法廷闘争に持ち込んで白黒をつけてもよいかもしれない。海外の法治国家では、民間企業が過去規制を受けながら事業を進めてきて、政権が変わり、国民が不安に思っているとの報道を踏まえ、ろくに時間もかけずに活断層に認定されたので会社としてその判断を受け入れたということでは、恐らく株主から訴えられるはずだ。ましてや今回の活断層判断は、会社の存亡に関わる問題だ。

訴訟となり、それが科学的に適切に判断されれば、膨大なデータをもつ事業者が有利であり、可能性や仮定で結論を誘導した委員会側が敗訴する可能性が高いと思う。福島原発事故の国会事故調が「規制の虜」、つまり監督官庁が業者側に情報を依存して、規制が適切に行われなかった面もあったという。

最後はお上が何とかしてくれると考えて事業をやってきた電力側としても、時代も変わったことを踏まえ、今までのぬるま湯体質と決別し、国を訴えるといった行動も必要ではないか。

そんな緊張感のある関係を国民も望み、ひいては規制側の貧弱な能力をアップしていくきっかけにもなるではないだろうか。

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