続・発送電分離の正しい論じ方


Policy study group for electric power industry reform

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法的分離は監視しやすいか

機能分離では多くの機能を電力会社に残した場合など、組織の設計、権限の委譲によって骨抜きとなる。その際、技術に詳しくない人は技術のことを言われてごまかされる危険性があり、法的分離に比べて骨抜きが分かりにくい。更にシステムをつくり込んだ後骨抜きだったことが分かっても、変更により大きなコストがかかる可能性も高い。(第9回)
法的分離では行為規制が緩い場合に骨抜きとなるが、これは極めて分かりやすいので監視がしやすいし、仮に骨抜きにされた場合も、行為規制を追加することで改善がしやすい。(第9回)

 機能分離よりも法的分離の方が、中立性が確保されているか監視がしやすいとの論である。しかし、むしろ逆ではないか。

 機能分離は、制度設計が適切であれば、送配電部門の中で中立性に影響がある機能は、所有分離された独立系統運用者(ISO)に移管され、中立性が確保される。電力会社に残るのは、中立性に影響がない又はあっても軽微な機能である。対して法的分離は、中立性に影響がある機能も含めて、送配電部門全体が電力会社のグループ企業として残るので、中立性確保のための行為規制及び監視が必要である。その強度は、中立性に影響がない又はあっても軽微な機能が残るだけの機能分離よりは、当然に強くなる。

 機能分離が、制度設計、特にISOに移管すべき機能を仕分ける段階で「技術に詳しくない人が技術のことを言われてごまかされる」危険性があるのであれば、技術に詳しい、ごまかされない人が制度設計するしかない。技術リテラシーが重要なのは、法的分離でも同じである。分社化したとしても、送電会社が行ったある判断に対して、中立的でないのではないか、という疑義は発生しうる。その際、調査をする監視当局が「技術のことを言われてごまかされる」のではどうしようもないし、技術リテラシーのない監視当局を安心させるがために、過剰な規制を課すようなことになっても困る。つまり、どちらを選択するにせよ、技術リテラシーのある人材が関わることが重要なのである。

 機能分離は、「システムをつくり込んだ後骨抜きだったことが分かっても、変更により大きなコストがかかる可能性も高い」との意見については、具体性に乏しいのでコメントしづらいが、機能分離に固有の問題と言えるのか良く吟味する必要がある。21日の委員会で電気事業連合会が示した分離に伴う費用試算(リンクのスライド22以降が該当)では、給電システム以外も含めたシステム投資全体では、法的分離が機能分離をかなり上回っている。法的分離は行為規制を追加すればよいと言うが、行為規制のためにもシステムは必要であり、このシステムが不適当であれば、同様に変更が必要となる。

フランスも所有分離に向かうと言うが

 委員会では、海外からのゲストとして、フランスの送電会社RTEの副社長が招聘された。RTEはフランスの国営電力会社EDFの送配電部門が法的分離して出来た会社である。機能分離と法的分離を選択肢として掲げる一方で、法的分離の当事者のみを招聘するのは、議論の進め方としては偏っている。PJM等、機能分離の代表例についても、関係者を招聘するべきではなかったか。

フランスでは、法的分離に近い形でITOという形式と規制強化を選択しているが、欧州の他国では、所有分離をとっているケースが多い。発送電分離をする過程で、国営電力企業であったということが背景でもあるが、フランスも国営企業であったにもかかわらず、所有分離ではなく、ITOでなければならなかったのか。今後所有分離をする計画はあるのか。(第4回)
何故、EDFが所有分離を選択しなかったか、という点については、ITO(法的分離)のほうが所有権分離よりも優れたシステムであるという趣旨ではない。重要なことは「ステップバイステップのプロセスを踏む」ということである。フランスの場合は、改革当時は所有分離という選択肢は、政治的にも社会的にも困難であった。しかし、当初は親子関係の中で配当をもらうというITOの形態を選択したとしても、5年、10年と経過するうちに所有分離をする電気事業者が増加していくのではないか。(第4回 ピエール・ボルナール仏RTE社(送電会社)副社長)

 この問答を通じて、「あくまで最終理想型は所有分離であり、法的分離は通過点。フランスの電気事業幹部も同じ考えであった」と主張される向きがあるかもしれない。しかし、その主張はナイーブ過ぎるだろう。EDFもRTEも国営企業である。後述するが、EDFとRTEが資本関係を解消したとしても、どちらも株主は国であるので、所有分離とは実質言えない。EDFと競合する欧州他国の電気事業者から見ても、中立的とは評価されないであろう。