風車は回り続けるか?


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 先般、再生可能エネルギー財団(Renewable Energy Foundation)のスタディ「英国及びデンマークにおけるウィンドファームのパフォーマンス」の発表を聞きに行ってきた。
非常に興味深い内容なのでその概要をご紹介したい。
(プレスリリース)
http://www.ref.org.uk/press-releases/281-wearnandntearnhitsnwindnfarmnoutputnandneconomicnlifetime
(スタディ本文)
http://www.ref.org.uk/attachments/article/280/ref.hughes.19.12.12.pdf

 著者はエジンバラ大学のゴードン・ヒューズ教授(Gordon Hughes)。英国における再生可能エネルギーの中核的位置づけを占める風力発電の発電効率の経年劣化が彼の問題意識だ。彼は英国における282基の陸上風力タービン、デンマークにおける823基の陸上風力タービンと30基の洋上風力タービンの稼働率データを元に、風況の変化、立地地点の特殊性等の要因を除外した標準稼働率(normalized load factor)とタービンのヴィンテージ(年齢)の相関関係を分析した。その結果が以下の図である。

タービン年齢に応じたパフォーマンス劣化

 デンマークの洋上風力は導入時点で45%の稼働率だったものが、10年後には磨耗、故障その他の理由により、15%程度まで低下している。また英国の陸上風力の稼働率は導入後1年で24%程度だったものが、10年目で15%、15年目で11%まで低下している。この加齢による稼働率の低下スピードは化石燃料火力よりもはるかに急速である。

 この分析が事実であるとすれば、風力を中核とした英国の再生可能エネルギー戦略に重大なインプリケーションをもたらす。第1に風力タービンの経済的寿命は風力産業や政府の見通しが前提としているような20-25年よりももっと短く、10-15年程度であるということ。このことは20-25年の投資回収を見込んでいた投資家を失望させるものであり、2010年以前に立てられた風力タービンが2020年以降もCO2削減に貢献すると考えてきた政策決定者の前提を覆すものである、とヒューズ博士は警告する。第2に政府が設定した2020年の再生可能エネルギー目標を達成するためには予想をはるかに上回る風力タービンへの投資が必要になり、それに伴い、はるかに大きな補助金負担が必要になるということ。政府は2020年の再生可能エネルギー目標を達成するため、陸上風力、洋上風力から90TWhの発電電力を期待しており、そのために28-31GWの陸上・洋上風力が必要であると試算しているが、その前提となっている風力タービンの寿命や稼働率が、上記分析にあるようなスピードで磨耗・低下した場合、必要となる設備容量は39-41GWに達する。先般、オズボーン財務大臣、デイビーエネルギー気候変動大臣との間で再生可能エネルギー向けの間接補助金を2020年までに76億ポンドまで拡大することが合意されたが、風力タービンの経済的寿命が20-25年ではなく、10-15年であった場合、想定以上の新規投資が必要となり、それを支えるための補助金総額は上記シーリングに納まらない可能性が高い。換言すれば、風力頼みで再生可能エネルギー目標を達成しようとする場合の国民負担は当初想定よりももっと大きくなる可能性が高いということだ。

 当然、風力産業においても技術改善は行われており、新型の風力タービンになればなるほど、稼働率を長期にわたって維持することができるかもしれない。しかし再生可能エネルギー戦略を策定するに当たって、設備のパフォーマンスの経年劣化スピードは考慮しなければならない要素だろう。

 このスタディは我が国の再生可能エネルギー戦略を考えるに当たっても貴重な示唆を与えるものだ。政権交代に伴い、「革新的エネルギー環境戦略」の位置づけは一層不明確になったが、同戦略の中では水力を除く再生可能エネルギーの設備容量を900万kwから10800万kwに拡大し、発電電力量を2010年の250億kwhから2030年までに1900億kwhまで約8倍に拡大すると工程が示されていた。風力発電は太陽光発電と並び、中核的役割を期待されているが、稼働率の経年劣化について、どのような想定がおかれているだろうか。ちなみにコスト等検証委員会では陸上風力、洋上風力共に設備利用率20%、稼動年数20年との前提がおかれていたが、この前提が適切なのかどうか、諸外国のウィンドファームの実績等をふまえた調査が必要ではないか。将来、期待される再生可能エネルギー発電量を設定した場合、それに必要な設備容量、それを支える補助金総額は、再生可能エネルギー施設の稼働率や耐用年数によって大きく影響を受けるからだ。国民負担の費用対効果を把握するためにも、「風車が回り続けるのか」の検証が必要であると思う。

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