COP18の概要~産業界の視点(第1回)


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

印刷用ページ

1.COP交渉の概要

 昨年もドーハで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議(COP)に参加してきた。筆者にとってはバリのCOP13以来6回目のCOPである。一昨年以来、経団連の環境安全委員会国際環境戦略WG座長の立場で参加しており、交渉の経緯をフォローさせていただくと同時に、各国政府交渉団や産業界、NGO関係者などと対話を通じて感じたCOP18の概要について報告させていただきたい。(なお本稿は筆者の個人的印象、見解を記述したものであり、特定の組織、団体の見解を示したものではないことをお断りしておく。)

 今年のCOPは、バリ行動計画で設定されたKP、LCAという二つの作業部会による2トラック交渉の終了(京都議定書第二約束期間の立ち上げを含む)と、ダーバン合意の立ち上げといった、手続き作業的なテーマが中心となり、各国の削減目標のような大きな政治的テーマが掲げられていなかったせいもあってか、例年に比べて参加者も少なく、内外メディアの注目度も低かったように思われた。
 そうした中で日本は、会期前半に京都議定書第二約束期間不参加をNGOから問題視され、ひさしぶりに「化石賞」を受賞した。確かに日本政府は、震災後の新たなエネルギー計画策定完了時に改めて登録するとして、「90年比25%削減」という鳩山目標をいわば「たな晒し」にしており、実際には原発の再稼動が注に浮く中、25%の実現の目処が全く立っていないことを見透かされていることもあり、あまり目立った動きはとりにくかったという事情もある。

評価されない日本の資金協力

 一方で今回のCOPで大きな争点となり、最後まで激しい南北対立の元となっていたのが、先進国による途上国への資金支援問題であった。日本は、2010~12年の3年間で、単独で官民合わせて150億ドルの資金供与を「鳩山イニシアチブ」としてプレッジし、本年10月末までに実績で約174億ドルを達成したと発表したが、それに対する感謝や賞賛の声はほとんど聞かれず、相変わらず先進国の資金支援の積み増し要求ばかりが求められていた。
 カンクン合意では、先進国が短期の資金協力(2010~12年)300億ドルをプレッジ(自主申告)したが、実際の供与実績で336億ドルと、十分に超過達成されており、そのうちの実に40%の133億ドルを日本が実施したことは、COPの場で全くといってよいほど評価されていない。(日本に次いでドイツが約90億ドルを供与、この2カ国で援助資金の7割強を拠出) EUの交渉官などは、交渉の場で「先進国は短期資金協力を超過達成している」と豪語したというが、誰のおかげでそんなことが言えるのか?と聞きたくなる状況であった。
 日本の資金拠出に対する無関心に関しては、さすがに日本交渉団も理不尽と感じたようで、会期後半には長浜環境大臣や外務省幹部が、「資金拠出に感謝の言葉がないのであれば日本の納税者に説明がつかない」との発言を繰り返し、その結果地元新聞にも日本の資金貢献が大きく取り上げられていた。しかしこうした動きを取り上げた日本の報道はほとんどない。実際震災復興のため税収がいくらあっても足りないような状況下で、しかも景気後退による失業や家計収入の減少という国内経済の苦しい実態の中、温暖化対策で1兆円を越える途上国支援を行うことについて、納税者の了解のもとに行われているのか、甚だ疑わしい。

温暖化対策か富の再分配か?

 途上国の数が勝り、環境NGOにとり囲まれた国連交渉の場においては「温暖化は先進国が引き起こした災いであり、被害を受ける途上国に補償をするのは当然」という論調が大勢を占めている。結局今回も、先進国の資金協力の件では紛糾し、カンクン合意にある「2020年までに年間1000億ドルの資金協力を実施する」という先進国プレッジに対して、中間的に毎年600億ドル(毎年約5兆円!)をコミットするという文言の記載を先進国に求めた途上国と、目下の経済情勢では一切の定量的な資金コミットはできないとした先進国の間で激しく対立し、長期資金については議論を1年延長して継続することとなった。自国の「財政の崖」を巡り激しい政争を繰り広げている米国や、ギリシャ・スペインの財政破綻を回避するための資金を誰が負担すべきかで議論を続けているEU、社会保障の破綻を避けるべく消費税増税が不可避とした民主党が政権を失った日本などの実態を見たとき、このような莫大な資金支援の要求が昨今の世界情勢から見ていかに現実性がないものであることについて、この国連交渉の場ではほとんど省みられていないように思われる。
 ただその一方で今COPでは、途上国で発生した気候変動ダメージ(水害や旱魃)への損失、被害補償(Loss & Damage)のための枠組みを新たにCOP19で立ち上げるという、適応基金、緑の気候基金に次ぐ新たな資金協力の扉が開かれた。(当初途上国は、先進国が温暖化のライアビリティ(責任)への補償として払うべきと主張していたが、加害責任(liability)の下での補償的な資金援助は絶対認められないとした米国の強い主張で、「支援(Aid)」という位置づけに落ち着いたという。)新規に設立されたものの、未だ中身が空で、どうやってファイナンスしていくか決まっていない「緑の気候基金(GCF)」に続く、さらに新しい資金支援のメカニズムを作るというのは、先進国側からみるといささかやり過ぎではないかとの批判も聞こえてきそうだ。
 こうして見てくると結局この気候変動に関する国連交渉は、温暖化対策という名目による北から南への資金援助~富の再配分~の交渉をしているのであり(国別排出枠のトップダウンでの設定も、いわばエネルギー使用枠の配分という意味で、間接的に富の配分を行っているともいえる)、現実の世界で温暖化対策に確実に寄与するはずの、省エネや低炭素技術による実際の温暖化対策の実行や促進策といった現実的な対策は脇役に押しやられているという皮肉が起きているという印象だ。

(つづく)

記事全文(PDF)