原発事故による放射性物質拡散を減らす手段(改訂版)


国際環境経済研究所主席研究員

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2) 放射性廃棄物の適切な管理

 さて、事故時の飛散を減らすために放射性物質を原子炉から抜き出したとしても、その放射性残さをどこかで管理する必要がある。こうした考えに基づいて、図に除去工程の位置と早急に取り組みたい対策を一点鎖線で示した。

 系外に出すとすれば、おそらく原子炉内放射線量の上限値を決めて定期的に排出してバッチ式で、あるいは連続浄化システムを設置して分離した放射性物質を発電所内の貯蔵タンクで保管することになる。
 高温高圧の原子炉内と異なり爆発による拡散の恐れはないが、大気圧下の低温で長期間貯蔵するので、容器の腐食や破損などで漏洩しないような対策が重要である。それでも、核分裂を起こして新たに放射性物質を発生させる恐れのある使用済み核燃料より管理はしやすくなる。

 また、この残さはセシウムの比率が高く使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物と性質は若干異なるけれども、六ヶ所村に運んでガラス固化することも考えられる。放射線量および放熱がある程度減った段階で“いつの日か設置される”最終保管施設へ送る。
 
 なお、住環境に悪さをする半端な寿命の放射性物質に中性子を吸収させ半減期の短い核種にして短期間で安定な核種にする技術も研究されている。その技術の発展のためにも系外分離は有効である。

 ここで重要なのは、設置される放射性物質除去工程や放射性物質漏洩防止体制および冷却水から除去した後の高濃度放射性汚染物の取り扱いおよび管理体制であり、被ばく問題を起こさないように安全な形で隔離する必要がある。また、このような工程を設置することになれば、特定施設として行政管理下に置き放射性物質の排出を規制することになる。
 そのために、放射性物質の除去工程の管理は、最適工程の最適設計と操業マニュアル、つまり一般の製造業で取組まれつつある、いわゆるGMP(最適製造規範)のガイドラインのようなものを作り管理することが考えられる。

 今回の事故の広範囲に及ぶ放射性物質拡散は、1ベクレルたりとも漏らしてはならないという放射能アレルギーとそれに伴う原子力利用反対の強硬意見に影響されて、「事故は起こさない→事故は起こらない」という安全神話に転化してしまったゆえに、原子炉内に放射性物質を飽和状態でため込み運転していたことから汚染が拡がったとも言える。

 原発が立地している地域の住民の事故への不安と被ばくの懸念は簡単に解消するものではないが、ここに提案する原子炉内放射性物質濃度の低減および除去放射性物質の系外管理は、事故発生時の汚染被害を最小限にするための次善の策として、原子力関係者に是非とも検討して頂きたい対策である。

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