再生可能エネルギー全量固定価格買取(FIT)制度の正しい理解のために


東京工業大学名誉教授

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自然エネルギー事業化の成立のみを目的としてFIT制度が導入された

 表1に示した環境省の「調査報告書」(文献4 )に与えられた各自然エネルギー源種類別の(年間平均設備利用率)の値を用いて、資源エネルギー庁が発表した“年度末までの再生可能エネルギーの導入設備容量の予測値”から今回のFIT制度導入後の「発電可能量」の値を( 1 ) 式を用いて計算し、表2に示した。この表2から、7月のFIT制度施行から年度末までの9か月間の自然エネルギー全体の導入予測の発電可能量換算値 5,413百万kWh を年間量に換算した値は7,217(= 5,413×12 / 9 )百万kWh となる。この値は、原発事故の起こる前の2010 年度の原発発電量 288,231 百万kWhの2.5 %(= 7,217 / 288,231 = 0.025 )になる。もし、この導入予測量が、資源エネルギー庁の言うように、このままの比率で“順調に伸びた”としても、原発発電量を充足するためには40 ( = 1 / 0.025 ) 年 必要となり、政府が目標としている30 年代原発ゼロのために必要な再生可能エネルギーの導入目標の半分程度にしかならない。
 また、資源エネルギー庁が同時に公表したFIT 制度の導入前の“2011 年度までの再生可能エネルギーの導入設備容量”の値、および、この値から表2 と同様、表1 中の環境省の「調査報告書」の(年間平均設備利用率)の値を用いて計算した発電可能量換算値を表3に示した。ただし、本来であれば発電量の実績値があるはずだが、それが与えられていないので、発電可能量換算値とした。なお、表2 および表3には、参考として、環境省の「調査報告書」(文献4 )から設備容量の導入ポテンシャルの推算値を発電可能量に換算した値とともに、その値に対する今年度の予測値の比率(表2 )および2011年までの既導入量の比率(表3 )を示した。
 FIT 制度の導入に当たっては、表3に示すような各エネルギー源種類別の設備容量導入実績値とともに、発電量の値が事前に調査されていなければならないはずである。それは、再生可能エネルギーとしての電力の利用・普及の目的が、原発電力の代替であるにしろ、地球温暖化対策としての CO2の削減であるにしろ、その目的に対するFIT制度の導入の寄与が、発電量として定量的に示された上で事前に評価されるとともに、目標値が設定されなければならないからである。今回の発表で、この発電量の値が示されていないことは、このような発電量の実績値に基づいた導入可能量の事前予測などが一切行われていないことを示しているとみてよい。
 

注 *1;表1に示した環境省の「調査報告書」(文献4)に与えられた各自然エネルギー源種類別の(年間平均設備利用率)の値。ただし、風力発電については、(陸上)と(洋上)の設備導入可能量の比率を2 %;98 %として(設備利用率)を25 % とした。バイオマス発電では、表1 のエネルギー経済研究所(文献3)のデータからの値を用いた。  *2;資源エネルギー庁の公表した“年度末までの発電設備容量の導入予測値”(原データの9月末までに認定を受けた設備容量と年度末までの導入予測の合計値)  *3;“年度末までの発電設備容量の導入予測値”から(年間平均設備利用率)の値を用いて計算した発電可能量の値  *4;環境省の「調査報告書」(文献4)からの導入可能発電設備容量の推定値を発電可能量に換算した値  *5;予測値の導入可能量に対する比率  *6;設備容量の合計に対する百分率の値  *7;発電可能量換算値の合計に対する百分率の値  *8;風力(陸上)と風力(洋上)の合計値で示した。  *9;中小水力の合計値で示した。

注 *1;表2の注*1参照  *2;2011年度までの既導入設備容量の値  *3;“2011年度時点での既導入設備容量から(年間平均設備利用率)の値を用いて計算した発電可能量の値  *4;表2 の注*4 参照  *5;既導入設備容量の導入可能量に対する比率  *6;設備容量の合計に対する百分率の値  *7;発電可能量の合計に対する百分率の値  *8;表2 の注 *8 参照  *9;表2 の注 *9 参照