第6回 東京ガス株式会社 エネルギー企画部 スマートエネルギーネットワーク推進プロジェクト室 室長 菱沼祐一氏

コージェネが核となるスマートエネルギーネットワークの挑戦


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

印刷用ページ

 第6回目にご登場いただくのは、東京ガス株式会社エネルギー企画部スマートエネルギーネットワーク推進プロジェクト室室長の菱沼祐一氏です。スマートエネルギーネットワーク実証事業について等、ガス事業者として今後のエネルギー戦略について率直なお話を聞きました。インタビュー前には、スマエネ実証試験場の千住テクノステーションも見学させていただきました。ここでは、太陽熱とコージェネレーションの排熱を有効活用する熱源統合制御、太陽熱・コージェネレーション廃排熱の双方向熱融通制御、太陽光発電の出力変動補完制御などの実証試験が行われています。

ガス業界の次世代エネルギーシステムへのソリューション

――ガス業界として、今後の次世代エネルギーシステムにどのような貢献ができるか、またどのようなソリューションを提供できるとお考えですか?

菱沼祐一氏(以下敬称略):建物単位・家庭という住戸単位、または地域単位で発電設備を持ち、発電の際に発生する熱をも同時に使うことでエネルギーの有効利用をはかることができるシステムをコージェネレーションシステム「熱併給発電」と言います。その言葉の裏には、化石燃料を使って発電すると必ず熱も副生することがあります。コージェネではその熱を利用して、暖房や給湯などいろいろな使い方ができます。

菱沼祐一(ひしぬま・まさかず)氏。1984年東京工業大学大学院総合理工学研究科卒業後、東京ガスに入社。燃料電池研究、コージェネレーションシステム、ガス空調システム等の商品開発を担当した後、2012年1月から現職。工学博士。

 コージェネの小さなものとしては、発電出力700―1000W程度の家庭用のエネファームがあり、発電効率は40%程度です。ビルに導入されているコージェネは370kW~1MW程度ですが、発電効率は42%程度です。コミュニティ(地域)のスケールでは、更に大型のコージェネが利用でき、発電効率は49%に上がります。スケールメリットがあり、より大きな省エネを求めるときは、より大きな需要をまとめることが大きなポイントになります。我々は、分散型コージェネレーションにより住宅・ビル・地域の単位で発電し、発生する電気や熱を再生可能エネルギーと組み合わせて地域全体で活用することで省エネを図る、「スマートエネルギーネットワーク」を提唱しています。

――分散型コージェネのポイントは何でしょうか?

菱沼:貴重な化石燃料の使用を高効率化させることで、量を節約することができるのが一つのポイントです。もう一つのポイントは、電源のエネルギーセキュリティの確保ができる点です。自分のところに電源があれば、いざというときに安心ですし、工場あるいは商業施設になれば不動産価値を上げる役割も果たす場合もあります。

 3番目のポイントは、かなり遠い将来か近い将来かという議論はありますが、電気はネットワークで繋がっているため、総発電量と総需要が一致しないと停電が起きてしまいます。2030年までに総発電量の内コージェネが15%を占めるという革新的エネルギー・環境戦略の計画に向けて、需給調整機能など一定の責任を果たさなくてはなりません。コージェネレーションシステムは十分にその機能を果たせるということを、今回見学していただいた千住のスマエネ実証設備でご理解いただけたのではないかと思います。

 ひとつ重要なのは、コージェネの熱(廃熱)を有効に利用するためには、コージェネが需要地に近接している必要があります。例えば遠隔地にある原子力発電の電気が都心に送電網で運ばれ、長期輸送が可能であることに対して、熱は長距離の輸送では損失が大きくなるデメリットがあります。

――コージェネレーションシステムを実際拝見し、まず想像以上にコンパクトな設備であることに驚きました。

ガスエンジンコージェネレーション370kW 屋上に設置された太陽光パネル
(千住テクノステーション)

菱沼:今日見て頂いた370kwのエンジンを設置した基礎の部分に、以前は100kwの発電装置を設置していました。ガスエンジンは、同じ排気量で大きな馬力、つまり発電出力を出せるように、高出力化を進めています。コンパクトで高出力のエンジンにすると燃費も良くなり効率も良くなります。ガスエンジンは20年前までは発電効率30%程度でしたが、今では40~50%程度まで改善されています。しかも出力レンジは小さなものは家庭用の1kwから大型のものは産業用の8000kw程度と、バリエーションが広がっています。

――音も思った以上に気になりませんね。

菱沼:音については、エンクロジャー、つまり防音のパッケージをしています。工場の中でエンジン、発電機などの中身をぎゅっと箱に詰めて、騒音も閉じ込め、すべてコンパクトに箱の中に収めています。コージェネレーション・パッケージと呼んでいますが、これにより低コスト化も図れます。

再生可能エネルギーの普及を支えるコージェネの役割

――コージェネレーションには、再生可能エネルギーの普及を支える役目としての期待もあります。

菱沼:再生可能エネルギーは天候により変動する不安定なエネルギーです。電力供給サイドが大きく振れるので、コージェネを使って需給調整するという考え方があります。また電気だけではなく、例えば冷房の部分のガス空調と電気空調の使い分けで、電力の需給を助けることもできます。

 例えば、よく晴れて再生可能エネルギーによる電気が余ったときには、コージェネを止めればいいわけです。そしてターボ冷凍機などの、電気空調熱源機で冷房を行う。逆に雨の日で再生可能エネルギー電気が不足した時にはコージェネで発電して、その熱を吸収式冷凍機に持ってきて冷熱を作ることができます。これをハイブリッド熱源システムと呼びますが、コージェネと電気空調、ガス空調をベストミックスすることで、需給調整機能をさらに大きくできます。それをこの千住の実験場で実証しています。

――実証実験の経過はいかがですか?

菱沼:具体的な数値的な目標としては、この国家プロジェクト(経済産業省「分散型エネルギー複合最適化実証事業」)を進めるにあたり、省エネ率12%、CO2削減率34%という目標でしたが、2011年度の結果は、その目標を若干上回り、省エネ率13.6%、CO2削減率35.8%となり、当初の計画通りの数値目標を達成することができました。電気空調・ガス空調の切り替えにより、電気を使うときは積極的に使い、使わないときには逆に電力を系統側に押し上げる、そういったハイブリッド熱源のオペレーションについても作動が確認できております。

――実証現場ではコージェネ、太陽光発電、太陽熱、冷温水機による消費などの推移がわかりやすく「見える化」されていました。季節や天候により、エネルギーのベストミックスの割合は変わりますか?

菱沼:はい。当然ながら再生可能エネルギーだけで電力や熱を供給するとなると、とてつもなく大きな面積の太陽熱や太陽光などの設備が必要になります。街中でそれだけの面積を取ることは不可能ですし、必ずそれをバックアップする電源も必要になります。

 コージェネは幸い熱も電気も出しますので、太陽光・太陽熱の不足分をコージェネの電気と熱で補完することができます。足りない部分は系統から電力を買うなり、都市ガスを使うようにする。大事なことは、再生可能エネルギーを優先的に使い、次にコージェネの廃熱や電気を、次いで一般の電気や都市ガスを使っていくというように、プライオリティをつけて制御することで大きな省エネ効果を生むことができるようになります。

――今後は発電事業への展開が広がりそうですね。

菱沼:東京ガスの「チャレンジ2020年ビジョン」では、コージェネを150万kWから400万kWに拡大し、ガス空調は400万冷凍トンから570万冷凍トンに増やす目標を立てています。電力事業は、現在は200万kWですが、これを300~500万kWに増やす計画です。分散型のコージェネやガス空調は節電に貢献し、一方では上流側の電力需要も手を拡げていくといった計画です。

 お客様が求めているのは、自分たちのライフスタイルに合ったエネルギー供給を受けることだと思っています。その視点に立てば、今後自由化が進むにつれて、電気とガスの垣根はますます低くなっていくでしょう。お客様にとってベストなエネルギーを供給していくことが当社のスタンスです。

スマエネの商用プラントの計画も進む

――今後は実証段階を経て、実用フェーズに移り、将来的には商業ベースに移っていかれるのだと思いますが、どのような計画でしょうか?

菱沼:最初の商用プラントとしては田町東口北地区プロジェクトがあります。港区、愛育病院、エネルギーアドバンス、東京ガス等が官民連携し、エネルギーの面的や未利用エネルギー等の活用を行ったスマートエネルギーネットワークを構築し、環境性と防災性に優れた複合市街地を形成する計画の中で進めています。これから2回に分けて工事を行いますが、第1プラント(供給対象延床面積約9万㎡)の稼働は平成26年4月頃を予定しています。

 続いて豊洲埠頭地区プロジェクト(東京ガスグループ開発規模:約20ha)では、再生可能エネルギーや、コージェネを導入し、熱と電気の面的融通によって省エネ・省CO2を図るとともに、地域のエネルギーセキュリティを高めることを目的とした商用プラントを作る計画です。

――まもなく商用プラントもできるのですね。

菱沼:設計は着々と進んでおりまして、今後はこの千住の試験設備で得た制御などのさまざまなノウハウを、実証用プラントに活用していこうと考えています。

技術面や制度設計などの課題

――スマートエネルギーネットワークを進めていく上で、どのような課題がありますか?例えば技術面や制度設計の面などについてはいかがでしょうか?

菱沼:技術面では、せっかく集めた再生可能エネルギーを余すことなく使い切るためには、熱源機やエンジンなどいろいろありますが、制御は複雑になるため、制御をしっかりやっていくことが一番大事だと思います。

 やはり再生可能エネルギーを使うことは、それなりに高いエネルギーになるわけです。制度面としては、例えば太陽電池はFIT(再生可能エネルギー全量買取制度)のような制度ができて、優先的にインセンティブを与えて高い料金で買い取ることで普及を進めています。熱と電気の面的融通は、これまでのやりかたに比べるとコスト面でかかるため、エネルギー供給事業者として、なかなか事業運営が厳しいというのが正直なところです。

 これまで「エネルギーは安いものが一番」といった価値観がありました。もちろんコストは重要ですが、スマートエネルギーネットワークは、それ以外にさまざまな価値を与えることができます。例えば再生可能エネルギーが普及して低炭素なまちづくりができる、またはコージェネによる災害時の電源確保など不動産の価値を上げてくれる可能性もある。見えないエネルギーコスト以外のメリットがあるのです。そのメリットを皆で分け合うためにも、行政からご支援を頂く、またはディベロッパーの方にはコージェネによる熱と電気をプレミアを付けて買い上げて頂くなど、お互いがメリットを分け合う術はないかと考えています。

スマエネによって変わるまちづくり

――日本でのこれからのまちづくりでも、熱利用が多いところでは熱融通導管を整備するなど、根本的に町づくりを変えていくことも必要かもしれませんね。

菱沼:歴史的な経緯としてヨーロッパはもともと寒い国で、熱供給で建物全体を暖めるというコンセプトの中でコージェネを使ってきたことに対して、日本はそれより暖かい土地柄ですので、少々背景は違います。しかしパリでは、近年暑くなってきたため、蒸気の熱交換に加えて、最近では冷水導管を延ばすなど着々と熱導管の距離は延びています。  

 未利用エネルギーとして、例えば清掃工場排熱や工場排熱など、今まで冷却水という形で捨てていたものが世の中にはたくさんあります。そうした未利用エネルギーを社会インフラとして利用できれば、効率的で低炭素な、しかも将来化石燃料が枯渇した時でも必ず役に立つでしょう。50年100年にわたって、重要な社会インフラのひとつとして、まちづくりをしていく必要があります。我々も持続可能なエネルギー社会構築に向けて貢献していきたいと考えています。

――スマエネによるまちづくりがこれから各地で進むといいですね。

菱沼:住まいのスマート化、ビル・工場といった建物に対してのスマート化、それから今日見て頂いたような地域のスマート化、それぞれの場合に対して適切な効率のいい機械があります。熱を使い切ることが重要ですので、熱需要があるところにはコージェネレーションが入るチャンスが大きいです。熱導管にしてもコージェネレーションにしても、年間8700時間ある中で、できるだけ長い時間24時間フルに使えば、それだけ設備の償却、固定費負担は減ってきます。

 豊洲の市場に非常に面白い例があります。市場は夜から早朝にしかエネルギーの需要がありません。昼間は魚がほとんど売り切れてしまって、その間人がいなくなってがらんとなる。そうなると、市場だけでコージェネによる電気や熱の供給をやっても、稼働率は低いものになってしまいます。しかし、市場の近隣には昼間エネルギー需要が期待できる住宅棟や商業施設が作られる予定ですので、コスト的にも省エネ的にも有効な熱と電気の面的利用が図ることができるようになります。

――今後ガスを高効率に上手に使っていくことで、今の“エネルギーが足りない”という懸念も払しょくされていく期待感が高まります。

菱沼:ありがとうございます。原子力発電が止まった今、それを代替しているのは天然ガスです。まさしく天然ガスをいかに高効率に利用するか、そのときに、大規模集中だけでなく、こういったコージェネのようなオンサイトエネルギーシステムにガス空調も加えて、全体の最適化を図っていくのが、賢いエネルギーの使い方ではないかと思っております。

【インタビュー後記】
 千住テクノステーションは、前々から見学したいと思っていましたので、インタビュー当日は見学もあわせて伺うのを楽しみにしていました。広い敷地内に太陽光発電パネル、太陽熱集熱器、コージェネレーションシステム、熱源システム、見える化モニター・・等、充実した試験設備が整い、さらにこの分野についての関心が高まりました。そして、程良い興奮から落ちついた頃に、菱沼さんにインタビューさせていただきました。実証試験でのデータを積み重ね、細かな分析を元に、スマエネが日本のエネルギーシステムに今後大きく貢献していくことを自信をもってお話くださいました。政策面などの支援は大きな課題かと思いますが、分散型エネルギー社会構築の鍵になるであろうスマエネへの理解が広がっていくことを願っています。

記事全文(PDF)