第5回(前編)日本製紙連合会 技術環境部 専任調査役 池田直樹氏/株式会社日本製紙グループ本社 技術研究開発本部 エネルギー事業部長 野村治陽氏

製紙業界の循環型社会と創エネへの貢献。電力自由化に向けた動きも加速


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 第5回目にご登場いただくのは、日本製紙連合会技術環境部専任調査役の池田直樹氏と株式会社日本製紙グループ本社技術研究開発本部エネルギー事業部長の野村治陽氏です。今回は、鼎談の形でおふたりに製紙業界のエネルギー戦略についてお話を聞きました。これまでの製紙業界の事業のあり方が転換期を迎えています。時代の変化を前向きに捉え、電力自由化の流れにも業界としての積極的な姿勢が伺えます。

製紙業は、循環型産業でエネルギーと資源循環の効率が高い

  池田直樹(いけだ・なおき)氏。1969年王子製紙(旧東洋パルプ)入社、広島県呉工場勤務同工場 電気課長、施設部長兼王子エンジニアリング呉事業部長。2006年王子本社勤務、大口自家発電施設者懇話会理事長などを経て2008年以降、日本製紙連合会 技術環境部専任調査役。
野村治陽氏(のむら・はるひ)氏。1978年 十條製紙入社 宮城県石巻工場勤務。以降 八代、釧路、勿来、本社、インドネシア(出向)、岩国、白老で勤務。2005年 日本製紙岩国工場動力部長。2011年 日本製紙グループ本社エネルギー事業推進室長。
2012年~日本製紙グループ本社エネルギー事業部長。

――まず製紙産業の特徴についてお聞かせください。

池田直樹氏(以下敬称略):製紙工場はもともと国内の原料、マツなどを使っていましたので、北海道や山間など都会地ではないところに分散していました。最近では原料が輸入に変わり、港に近い海岸沿いに変わってきています。基本的には木を育てて、それを刈って紙にして、また植林をしてと、いわゆる循環型の産業です。工場の特徴は、紙製造の乾燥の工程で大量の蒸気を使うため、ボイラーが必要になります。ボイラーを使い蒸気を作ると併せて電気も作れるため、自家発電を持っている工場が非常に多い。使っている電気エネルギーの約73%が自家発電です。

 産業界の中でも石油業界に次いで自家発比率が高く、コージェネレーション(熱電併用)が基本で、エネルギー利用率が非常に良い。木のセルロース分を紙にして、残ったものが黒液です。これはリグニンがメインで、燃やして燃料にして、なおかつ薬品として回収しています。エネルギーの約3割は木から生み出され、さまざまに有効利用され、廃棄するものがほとんどありません。日本のエネルギーバランスにおけるエネルギーロスは約58%と言われますが、紙業界はコージェネを使って熱も利用するため、ロスは約32%と非常に少ない。

――まさに循環型産業なのですね。

池田:そうです。1990年度は化石燃料を約65%使っていました。後は黒液が約30%でしたが、20年後の2011年度は黒液の比率はほとんど変わりませんが、化石が65%から50%程度に下がっています。一番減った重油は、33%から8.4%と一桁台に転じています。石炭の比率は少し増えていましたが、2000年前後からCO2排出削減の観点から石炭を減らしていく政策に転換したため、少しずつガスにシフトしています。

 廃棄物は水分の含有量により発熱のカロリーがバラつき、安定的に燃えないため、補助燃料で石炭をブレンドして燃やしています。石炭の使用量はあまり落ちていませんが、重油の割合が下がったため、CO2排出量も90年に比べると約25%減っています。現在は、使用する燃料の半分は化石燃料ですが、残りは再生可能エネルギーか廃棄物の利用です。

 化石も含めたトータルの総エネルギー消費の推移は、90年と比べて現在は約95%に低減していますが、そこからなかなか下がらず、かなり苦労しています。今後の省エネは、視点を変えるか、創エネにも目を向ける必要があると思っています。

――創エネは再生可能エネルギーの中でもどれに注目していますか?

池田:やはりバイオマスや廃棄物をうまく効率よく使えないかと考えています。日本全体の諸々のお役にたてる方策はないかと。埋め立てを減らし、エネルギーを創り出し、ごみを減らすことができれば良いのではないか。私たちは寄与できる要素を持っています。敷地があり、自家発のボイラーを持ち、人やノウハウもある。もう少し上手く利用できる可能性があるのではないかと思っています。

新エネボイラーで温暖化対策とコスト削減を図る

――日本製紙のエネルギー消費の推移は、業界の流れとほとんど同じでしょうか?

野村治陽氏(以下敬称略):流れ的には、そうです。オイルショック当時の対応策として、微粉炭ボイラーを設置しました。釧路工場・石巻工場・岩沼工場・八代工場・江津工場に微粉炭ボイラーが入っています。その後バイオマスボイラーや新エネボイラーを設置する流れになりました。勿来工場が弊社グループの中では2004年に設置し最初となりましたが、以降は十数缶のバイオマスボイラー、新エネボイラーを設置して、石炭や重油の置き換えを進め、コスト及びCO2削減につながっています。

――しかし、ボイラーの取り替えには相当なコストがかかりそうです。

野村:弊社の場合、ボイラーとタービンのセットで、約70億~100億でしょうか。

――そんなにかかるんですか!初期投資を回収するのは大変ではありませんか?

野村:時間はかかりますが、回収はきちんとできています。バイオマス燃料に切り替えることにより、重油が減った工場もありますし、石炭が減った工場もあります。化石燃料が高騰していますので、バイオマスボイラーはコスト的にも見合うものです。

――日本製紙として創エネについてはどう考えていますか?

野村:バイオマスボイラーや新エネボイラーがある工場は、創エネにも気を遣っているケースが多いです。紙製造では、莫大な温排水を出しています。その排水の温度が例えば40℃としましょう。排水前に熱交換して、もっと低い温度で外に出すようにすれば、その分創エネになります。ただし、温度が低いものを熱回収するのはなかなかハードルが高い。弊社ではまだ導入していませんが、補助金次第では、バイナリ―発電設備のように比較的低い温度でもエネルギー回収できる設備を導入する余地はあるかと思います。

――業界全体として、ボイラーにはどのような変化がありますか?

池田: 90年以降、新エネボイラーを少しずつ増やし、2003年以降は爆発的に増えてきました。2004年から2008年の間は原油の価格が相当上がったため、廃棄物やバイオマスに燃料転換を進めました。現在、全国の製紙工場が保有する新エネボイラー、これはバイオマスもあるし、廃プラや廃タイヤなどの廃棄物を燃やせるボイラーもありますが、約60基あります。私どもの会員会社は約110事業所ですから、平均的には2工場に1基入っているような勘定になります。

RPS制度への対応は各社でさまざま

――2003年に施行されたRPS制度(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)を利用した売電はどのような状況ですか?

池田:業界全体として動いていたかというと、そういう意識はなく、意思統一はしていませんが、結果として同じようなことをしていました。大口の自由化の話が出る以前から、各工場は大口のユーザーでもあり、自家発の所有者でもありますから、各電力会社と個別に余剰の契約を結ぶことが多かった。

 意識を始めたのは、大口の自由化が始まってからです。RPS法の前に、「自己託送」という、要はある工場で電気が余ったら、同じ会社の工場で同じ電力会社管内であれば送れる制度ができました。バイオマスなどの再生可能エネルギー電力を買ってもらえるわけですから、自家発で余剰が出る会社は「売ろう」ということで、各社がそうした動きを始めました。

 しかし、余剰電力がないと売れませんので、会社によって対応は違います。王子製紙はRPS法の制度を利用している工場がけっこうありますが、日本製紙はそれに比べると少ない。逆に言うと、工場での生産能力の方が少ないと、自家発の方が勝って外に出せるわけです。余剰電力を売るか売らないかは、どちらが良いということではありません。

――日本製紙のRPS法への対応はいかがでしたか?

野村:勿来工場が一番早かったです。富士工場は今年の初めから始めましたが、十数工場ある中でこの2工場だけです。基本的には受電をして、つまり発電コストに比べて受電コストが安いときには電気を買って、高いときには受電を減らす、あるいはゼロにする運用となっています。

 また、RPSで認定してもらうためには、RPSとは関係ない発電設備の電力量計なども検定付のものを付けないと認めてもらえません。その設備費がけっこうな金額になります。3.11以前は、比較的電気の買取価格も安かったので、そこまでして送り出してもあまりメリットがありませんでした。バイオマスボイラーや新エネボイラーはもっと増やしたいのですが、なかなか増やせない状況もあります。

――それはどういう意味ですか?

野村:燃料となる原料が集まらないのです。例えば、タイヤ、RPF、バイオマスにしろ、余っている燃料は基本的にありませんから。

――廃棄物を確保するのは難しいのですね。

池田:大変です。全国にある60基近くの新エネボイラーにはさまざまな燃料を使っていますが、要するに集荷ができず、計画どおりの運用が厳しい状況です。確かに余っている廃棄物もあるのですが、それは例えば塩素が非常に多いもので、燃やすとボイラーが傷むというような制約があります。

野村:新エネボイラーは、内部で高温の砂と一緒に燃料が攪拌されている状態です。不安定な水分を含んでいるため、砂と一緒に高温で燃やします。ボイラーそのものは伝熱管というボイラー鋼管が炉の格好に形成されていますが、そこに砂や燃料が渦巻いていますので、内側が砂で削られてしまい、噴破してしまうリスクがあります。

 穴が開いてしまったら、ボイラーを止めて修理しなければなりません。そうならないように耐火材などで保護してありますが、集中的に内側がえぐられると、保護材が削れてしまい、ボイラーが噴破してしまうような事象も過去に起きました。現在はその対策のノウハウは蓄積していますが、いったんボイラーが噴破して止まると、古い重油ボイラーを立ち上げてコスト掛けて、その間に修理する必要が出てしまいます。

――3.11以降の製紙産業の自家発電はどれくらいですか?また発電に余力があれば、売電していますか?

池田:今、自家発の日本の製紙会社の総発電電力は約550万kW程度です。550万kWというと四国電力もしくは北海道電力の総使用量とほぼ同じくらいで、年間でいうと全国の使用電力量で0.7%程度になります。

 震災後の東京電力と東北電力の域内で需給が厳しかったときには、同電力管内の製紙工場では約36.6万kWの電気を使っていますが、供給した余剰電力は約15.8万kWでした。自分たちが使う量の1/3程度は出す、という姿勢です。緊急で出せる電力はこの程度でしたが、その気になれば焚き増しして、出す能力は持っていると思います。電力会社の需給が落ちつくまでのレベルまで、2011年夏前からその年いっぱい余剰電力を提供しました。

「みなし節電」と「自己託送」による電力融通

――グループ会社間の電力の融通もしていますか?

野村:「みなし節電」には、日本製紙グループとして取り組んでいます。具体的には、今年の夏場に節電要請が出たエリアは、九州・四国と関西電力の3か所でした。四国電力と関西電力のエリアに私どもの事業所がありますが、ここは自家発を持っていません。本当に節電するには生産を下げるしかありません。しかし、このエリアの事業所は夏に製品が売れる工場が多い。操業を止めるか減らすことは基本的にはやりたくないが、世の中の要請だからやらなくてはなりません。

 そんな中、発電所を持っている別のエリアから節電要請されているエリアに電力を送り、その分を節電したこととみなすというスキームが昨年11月に経済産業省資源エネルギー庁から提示されました。今回弊社は、そのスキームを使わせて頂きました。

――みなし節電は緊急の対応で、普段はやっていないのですか?

野村:普段はやりません。グループ会社間という意味では今回が初めてです。しかし、北海道エリアではそれぞれの工場が発電所の定期検査のときには「自己託送」はやっています。

池田:「みなし」と「自己託送」が、基本的に違うのは、「みなし」は電力会社間をまたげます。九州から関西に送るのに、中国電力を経由して送っても「みなし」だと見てくれますが、「自己託送」というやり方は一つの電力会社の中ではないとできません。九州から北海道まで送れる「みなし」の方がはるかに扱いやすい。

野村:「自己託送」の場合は会社が同一でないといけませんが、「みなし」の場合は会社が違ってもかまいません。グループ会社間での電力融通ができます。

池田:更に「みなし」の場合は自由ですが、「自己託送」の場合は電圧種別が同じでないと駄目だったと思います。「みなし」のほうが自由度は高い。

――電力不足の懸念があるうちは、夏や冬のしのぎ方は業界として相当悩ましいですか?

池田:今のところ、北海道だけは厳しい状況です。北海道と本州の間の融通できる電力の量が決まってしまっているので。いくらこちらが送りたくても、融通できる容量を超えてしまったら北海道に送れません。北本連携が60万kWしか送れないからです。九州と関西の間は、大きな送電線系統が2系統走っていて、かなりの量の融通が利きます。3.11以後もそうでしたが、東京電力で電力が足りない分を中部電力から送ろうと思ってもある量以上は送れない。50サイクルと60サイクルの周波数を変換する能力が不足しています。北海道も同様に海底ケーブルの容量が決まってしまっていることから、今年の冬も北海道は相当厳しいと思われます。

(後編に続く)

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