第2回 日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会企画部会長 鯉沼晃氏

エネルギー政策は国家戦略の根幹。政府に責任あるエネルギー戦略をゼロから作り直してほしい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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政府が示した3つのシナリオは、実現可能性や経済に及ぼす影響など、問題が多い。いずれも適切ではない

――政府のエネルギー・環境会議において示された「エネルギー・環境政策に関する選択肢」の3つのシナリオはどのように評価されましたか?

鯉沼:今回の政府から示された3つのシナリオはいずれも、実現可能性や経済に及ぼす影響など、問題が多いと言わざるを得ません。特に、省エネと再生可能エネルギーの導入見積もりが非常に楽観的になっています。要は、その背景になるものがかなり薄いのではないかと思われるわけです。この見積もりに沿って、省エネルギーに頼る、あるいは再生可能エネルギーに大きく頼っていくという、ふたつの難題をできるものとして進めていきますと、エネルギーの需給ギャップが発生し、社会的にも問題となる事態が起こりかねないと危惧しています。

 これ以外にも、いずれのシナリオも電力価格の上昇や、雇用を含む経済への悪影響はほとんど避けられないと思っており、国民生活を守るエネルギー政策となっていないというのが私どもの理解です。例えば、どのくらい国民生活にダメージが出るのかというと、最悪の場合、電気料金は2.3倍となり、さらに問題なのは失業者数が約200万人増加する事態になる。これは生活を守る政策にはなっていないという一つの顕著な例です。

 さらに、この3つのシナリオのうち、「ゼロシナリオ」、「15シナリオ」の2つについては、原子力の維持を明確にはしない内容になっています。15%は、原子力発電所を更新も何もしない、要は時間が経過し、ある年限がくると稼働を止めていき、2030年には15%になってしまいます。両シナリオは、「原発を維持する・しないケース」ということで共通しており、国際交渉の上でもエネルギー源の多様性の交渉カードを持つ立場を失ってしまうでしょう。この2つのシナリオは、我々としては容認しがたい内容です。原子力については、エネルギー源の多様性の維持がどれだけ大切かということを、もう少し開かれた国民的議論でやらないと、日本としての国益を損ねるのは明らかです。

――経団連の団体会員企業に「政府のエネルギー・環境会議において示されたエネルギー・環境政策の選択肢等に関するアンケート」をされましたが、どの様な意見がありましたか?

鯉沼:まず利益、生産、雇用、国内における設備投資、国際競争力について、「大きく減少」または「減少」させるといった減少方向の回答が6割を超えています。つまり大多数の会員企業が、政府が提示している3つのシナリオを非常に危惧しているということです。特にゼロシナリオ(追加対策後)ではその答えが8割を上回っておりました。

 さらに「最も望ましいシナリオはどれですか」という項目については、3つのシナリオからは選択できないとして、「その他」とする回答が62%と最も多く、過半数を超える方がいずれのシナリオも非常に問題があると考えておられるわけです。特に経済への悪影響や、もう一つは省エネ・再エネ含めて実現性に乏しい等の理由を挙げており、いずれのシナリオも適切ではないと捉えています。