容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その1


Policy study group for electric power industry reform

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容量市場で生じた課題とその後の変遷:信頼度価格モデルへの進展

 容量市場の取引価格は以下に述べる通り、需給状況に応じてすべてのプレイヤーが同様の動き方をするため、本質的に大きく上下動しがちである 。図4は2000年度における容量市場価格をプロットしたものであるが、系統全体で供給力に余力のある時はどのプレイヤーから見ても供給余剰が明らかであるため、取引価格が0に近くなり、逆の理屈で不足がちになるとペナルティ額($177/MW/日、PJM全体で余力が少ない場合はその倍)まで張り付く。このように取引価格が乱高下する市場が、中長期的な電源開発を促すのか疑問がある。

(図4)PJMの容量市場での取引価格(2000年5月~2001年4月)
(出所)矢島正之「カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要」、
電気事業分科会資料、2002年1月

 また、義務量の割当て方法やペナルティの算定方法にも課題がある。2001年までPJMでは、日々、LSEの供給力確保義務をチェックして、1日ごとにペナルティ177.3ドル/MW・日を課していた。このペナルティ額は、当時のガスタービンの建設コストなどをもとに計算された1日あたりの固定費である。ところがPJM市場外での需給ひっ迫でより高く電気が売れることがあるとわかると、電源のPJMへの「容量登録」を外して供給力確保義務不履行のペナルティを支払いながら、エリア外に電気を売るという経済行為が見られるようになった。夏季に発電力をエリア外に持ち出されることによる供給信頼度低下を懸念したPJMは、ペナルティの算定方法を変えて、夏季期間中の1日でも義務不履行のあったLSEには、夏季4ヶ月分のペナルティを課す方式に変更したのである。
 このルール変更によって、エリア外に供給力を持ち出す行為はなくなったが、高額のペナルティ支払いをおそれるLSEからの容量市場への売りが激減して容量市場が流動性を失い、ほとんどの容量確保手段は自己保有か相対契約に移行したと推定される。このため、供給力確保義務を満たすために新たに電源を自己保有するか相対取引で確保することを迫られた新規参入者や大口需要家団体であるELCONなどからは、容量市場の仕組みは大手事業者による市場支配力が行使されやすく、新規参入の阻害要因となっているとの批判が絶えずなされた。
 PJMではその後も試行錯誤が続けられ、2007年からは信頼度価格モデル(Reliability Pricing Model: 以下RPM)という新しい枠組みを導入するに至っている。RPM導入の主な目的は、市場における取引価格の乱高下を抑制すること、市場支配力を行使しにくい制度を作ることにあった。