放射性廃棄物・原子力・放射線の対話型情報提供の取組み

「放射性廃棄物リスクコミュニケーション広場」


国際環境経済研究所主席研究員

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 原子力発電を考える上で、忘れてはいけない問題のひとつとして、高レベル放射性廃棄物の存在があげられる。
 わが国において高レベル放射性廃棄物とは、使用済燃料からウラン・プルトニウムを分離・回収(使用済燃料の「再処理」という)した後に残る放射性の廃液をガラスと混ぜて固化処理したものをいう。使用済燃料を再処理せずにそのまま処分(「直接処分」という)する方針の国もあるが、これらの国では使用済燃料そのものが高レベル放射性廃棄物となる(いま行なわれているエネルギー政策の国民的議論では、わが国における直接処分の可能性にも言及されている)。どちらの処分方法をとるにせよ、高レベル放射性廃棄物は長期にわたって高い放射能を持ち続ける(放射能が減衰して元のウラン鉱石と同等のレベルになるまで数万年かかる)。この高レベル放射性廃棄物は既に存在しており、今後の原子力政策がどうなるにせよ、対策を講じる必要がある。これまで国際機関や世界各国で処分の方法が検討されてきたが、その中で「地層処分」が他の方法と比較して、もっとも問題点が少なく、実現可能性があることが国際的に共通した認識となっている。

出展:資源エネルギー庁ホームページ

 わが国においても、地層処分のための法制度等が整えられ、平成14年から処分施設の設置可能性を調査する区域の公募等が行なわれている。しかしながら、現在まで調査対象区域さえ決まっていない。

 筆者が属する株式会社ノルド社会環境研究所で運営している情報提供サイト「放射性廃棄物リスクコミュニケーション広場」では、国民各層の認知向上、理解促進に資する情報を提供している。
「放射性廃棄物 リスクコミュニケーション広場」 http://www.ho-hi.com

 従来の原子力関係のサイトは推進なら推進、批判なら批判一色のものがほとんどで、それぞれの読者はいずれか片方の情報のみに依拠して相手を批判してきたように見える。そのためか「何が本当なのかわからない」という市民の声を目にすることが多いが、このサイトでは、できる限り賛否両方の意見と根拠をかみ合わせるような情報提供に努めている。

サイト運営の考え方

高レベル放射性廃棄物については、最近は次のような書き込みをいただいている。

当サイト書き込みから

●放射性廃棄物を地下に送り長期にわたって廃棄することは、今使っている電力のツケを自分の世代だけでなく、遠い先の世代まで責任を負わす事になります。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=15#2033

●自国での放射性廃棄物の処理に責任を持てないのなら、どれほど電力不足に陥ろうともやはり原子力発電からの依存から脱却すべきだと、私は考える。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=5#2046

●放射性廃棄物の処分の仕方をもっと見直すべきだと思います。
地層処分の議論はもっと考え直してほしいです。これではまるでとりあえず埋めればいいというふうにしか聞こえません。もっと他のやり方があるのではないでしょうか。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=5#2044

●私は処分といえどもただ埋めるだけという感覚で安全性が認識できません。大丈夫なのだから埋めるのだと思いますがもし漏れていたらと思うと福島のこともあるので恐怖の念に駆られます。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=10#2037

●処分所を建設することで逆に経済効果を生み出すのはすごいと思いました。処分所での就職先も提供してくれるなら、今のご時世だと役立ちますね。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=10#2035

●数万年後の未来を想像するのは楽しいですね。高レベル放射性廃棄物の埋設から、エジプトのミイラ発見などを想像してしまいました。言葉が通じないかもしれない将来世代は、宇宙人とのコミュニケーションに近いものを感じます。/古文で習う作品は平安時代などに書かれたものですよね。平安時代でかれこれ千年ほど前のことですが、それでも読むのに四苦八苦します。
http://www.ho-hi.com/modules/yybbs/viewbbs.php?bbs_id=1&start=10#2038

倫理的責任、安全性、経済効果、放射性廃棄物の存在を将来に伝える技術など、賛否もトーンも異なる多様な意見がある。これらが同一のサイトに穏やかに共存しているのは珍しいのではないだろうか。運営事務局としては、相互に関連する意見や関係機関の動向、研究成果などを紹介することで、さらに興味関心を高め、理解を深めていただくよう努めている。

このサイトでよく見られる論点

(さらに処分地の選定プロセスや地域共生等が話題となることもある)

 このサイトは高レベル放射性廃棄物をテーマとするサイトだが、リスクとデメリットの比較といった枠組みでは、原子力発電の功罪を避けて通るわけにはいかない。本サイトの利用者アンケートをみても、高レベル放射性廃棄物の処分関連の事項のうち、知りたいと思う人が最も多かったのは「エネルギー政策や今後の原子力発電について」であった。

あなたは、高レベル放射性廃棄物の処分に関連してどのようなことを知りたいと思いますか。【いくつでも選択】
調査対象:放射性廃棄物リスクコミュニケーション広場 登録ユーザー
実施期間:平成24年1月31日~2月19日
回答者数:117名

 このような関心を反映してか、原子力発電やエネルギーに関する書き込みも多い。
特に、今夏はエネルギー政策に関する国民的議論が行なわれたこともあり、本題の高レベル放射性廃棄物よりも、原子力利用や再生可能エネルギーに関する書き込みを数多くいただいた。再生可能エネルギーを増やして脱原発を進めるべきという主張が目立ったが、逆に、地域経済や雇用を考えれば原子力は必要だという意見もみられた。
 運営事務局としては、一方の意見に傾倒するわけではなく、原子力を容認する意見に対しては安全性や放射性廃棄物をどう考えるかと問いかける一方、再生可能エネルギーで脱原発を求める意見に対しては供給安定性やコスト負担等を指摘するなど、双方にとっておそらく不愉快な返事を書き続けている。このようなプロセスによって、原子力の安全性、エネルギー安全保障、地球温暖化問題、経済的影響など、すべてを満たす解はないことが認識され、主張の異なる方どうしの対話の素地となればと思う。

 さらに、放射線のリスクについての対話からは、リスクを説明する側が注意すべき点を学ぶことができる。先日、100mSv以下ではリスクの増加がみられないといった話題が出た際、「原発で9年間働いて約50mSvを被ばくし、白血病で亡くなった労働者が存在する。100mSv以下でもリスクがあるではないか。」「確率的な説明は冷たい」といった書き込みがあった。このようなやりとりの中から専門家とは異なる考え方の枠組みや、受容しがたいポイントなどが見えてくる。ぜひ、専門家や関係者の方にも見ていただきたいところである。

 このサイトはユーザー名(仮名可)とメールアドレス(インスタント可)でユーザー登録し、ログインすれば、誰もが匿名性を保ちながらフラットな立場で参加できる。
 サイト名にある「リスクコミュニケーション」の建前からすれば、行政や事業者、市民団体等もそれぞれの立場でご参加いただきたい気持ちもあるが、立場が自由な発言を阻害する面もあると承知している。まずは一個人としてでも対話に参加いただき、さまざまな意見に触れていただくとともに、事務局では不足しがちな専門知の供給や情報提供などをいただければ幸甚である。

放射性廃棄物リスクコミュニケーション広場
http://www.ho-hi.com (放―廃.comと覚えてください)

サイト紹介チラシのダウンロード(PDF 約290kB)
http://www.ho-hi.com/img/chirashi2012.pdf

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