テキサス州はなぜ電力不足になったのか


Policy study group for electric power industry reform

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実際は固定費は回収できていない

 それでは、実際に電源は固定費が回収できているのか。冒頭紹介したレポート(” ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy”)でテキサス州の状況を分析しているので紹介する。まず、図5は、過去5年間のERCOTの電力市場における電源の採算性を示している。グラフが二つ並んでいるが、左はガスコンバインドサイクル(GTCC)、右がシングルサイクルのガスタービンのものである。

(図5)
(出所)The Brattle Group,”ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy”

 青及び水色の棒グラフは、各年において電源が電力市場及びアンシラリーサービス市場から得られたと推定される利益(Energy Margin)を示している。つまり、青い棒グラフは、図1~3で説明した、電力市場価格と電源の短期限界費用の差分を1年分加算したものになる。対して、赤い折れ線グラフは、電源維持に必要な固定費の額を示している(CONE=Cost of New Entry)。この額が回収できる見通しがないと、電源新設のインセンティブは起こらないわけであるが、過去5年間の大半の年で回収ができていないことがわかる。2011年についてはGTCC、シングルサイクルのガスタービンとも回収ができているが、この年は冬には記録的寒波、夏にも記録的熱波に襲われた特別な年である。こうした異常気象の年でなければコストが回収できないのでは、電源の建設が進む筈はない。

 さらに図6は、シングルサイクルのガスタービンを対象に、予備率と電源の採算性の関係を示している。過去15年の電力需給と市場価格の実績を基に、系統の予備率を変化させた場合に、電源が得る利益の変化をシミュレーションしたものである。予備率が高い、つまり電力需給に余裕があると電力価格は安くなるので、利益は減少する。したがって、グラフは右肩下がりになる。水色の折れ線は過去15年各年におけるシミュレーション結果であり、各年の気象状況によってグラフの形状は変化する。濃い青色の折れ線が15年の平均を示している。

(図6)
(出所)The Brattle Group,”ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy”

 水平な赤線はシングルサイクルガスタービンの固定費を示している。濃い青色の折れ線と赤線が予備率6%のところで交わっているのは、予備率が6%以下であれば、電源を建設すれば採算が取れる可能性があることを示している。しかし、この水準は適正とされる予備率(15.25%(注))を大きく下回っている。逆に、予備率が15.25%の場合、ピーク電源のガスタービンが市場から得られる利益では、固定費の半分も回収できない。つまり、図6は、現在の市場の仕組みでは、適正な予備率を維持することができないことを示している。テキサス州では、まさにこのシミュレーション通りのことが起こったわけである。
 (注)ERCOTが定める適正予備率は、図1に記載されたとおり公式には13.75%であるが、The Brattle Groupは、2011年の異常気象を織り込むと、15.25%が必要と独自に試算している。

スーパーピーク価格引き上げの効果は疑問

 このような状況に対応するため、ERCOTは今年8月から、スーパーピークにおけるネガワットの購入価格の上限を、従来の3米ドル/kWhから4.5米ドル/kWhに引き上げている。これにより、既存のピーク電源の採算性はある程度改善するだろうが、新たな電源投資を呼び込むことまでは期待できないであろう。理屈から言えば、この上限価格は高ければ高いほど電源の採算性は改善する。例えば、オーストラリアのように日本円で1,000円/kWh近い上限価格を設定すると、ガスタービンの固定費はざっと年間1万円程度であるので、年間10時間程度スーパーピークが発生すれば、固定費は回収できることになる。しかし、スーパーピークがどれだけ発生するかは予測できない。実際、冷夏になってしまってスーパーピークが全く発生せず、その年は固定費の回収が全く出来ないということもあり得る。こうした市場環境は、電源投資を行うにはまだリスクが大きく、スーパーピーク価格を引き上げるだけで、電力需給の持続的な安定を期待することは難しいだろう。